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緊急事態宣言と釣り

はじめに

自己紹介を兼ねた最初の投稿ではブログの過去記事を掘り起こして整理することを謳っていたが、2回目の投稿でいきなり時事的なネタを投下。

もともとnoteを始めようと思った根底に、緊急事態宣言下の自粛警察や同調圧力に対する反発もあって、筆を執りたい思いがあった。自身のブログ内で記すにはコンセプトに外れる内容ということもあり、この機会に書き綴ってみることにした。

1.緊急事態宣言の推移

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、4/16から全国に緊急事態宣言が発出された。当初は5/6までだったが、5/4に全国で5/31まで延長されることが決まった。

しかし13の「特定警戒都道府県」以外の34県については、緊急事態宣言の下でも外出自粛や休業要請などの緩和が行われる動きがある。

筆者が住む香川県でも、感染者が本記事執筆時の5/5現在で累計28名にとどまっており、5/5正午の情報で16名が医療機関に入院し、12名が退院している。

5/7から5/31の期間の香川県からの協力要請は以下のとおり。

施設の使用制限等(=休業要請)の延長はしないが、営業を行う場合は、これまでの適切な感染防止対策に加え、三つの密を避けるための特売・ポイントセールの自粛や県外客の利用自粛を促す取組みなどを追加し、一層の感染防止対策の徹底を図ることを協力要請(法第24条第9項)ー香川県ウェブサイトより抜粋

これに伴い、GW期間に県からの協力要請で休業していたうどん屋の営業再開など、自粛緩和の動きが始まる見込み。

2.緊急事態宣言下の釣り人・釣り業界の動向

全国に緊急事態宣言が拡大する前の3/28から、いわゆる「3密」を避けるお願いが厚生労働省から国民に向けて公表された。

「3密」とは、1.密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、2.密集場所(多くの人が密集している)、3.密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)、という3つの条件が同時に重なる場では、感染を拡大させるリスクが高いというもの。

当初は、「釣りは『3密』には当たらない」、「息抜きも必要だ」といった主張が大勢を占めていた。しかし、緊急事態宣言が全国に拡大した頃から、医療機関の設備や資源の逼迫が指摘され、医療関係者も感染する事態に陥ると、釣りをはじめとした趣味に対する風当たりが強くなっていった。

教育機関は休校やオンライン授業が進められ、企業活動でも在宅勤務が要請される中、GW前には人との接触を8割減らすことが求められ、移動を最小化するため、店舗営業の自粛要請だけでなく、帰省や旅行などの遠出を控えて買い物も少人数で空いている時間帯に行うよう協力要請がなされた。

釣り業界も、SNSへの投稿自粛を呼びかけたり、公式サイト上での釣果情報の休止を行うメーカーが多くなってきた。メーカーと関わるアングラーも、取材釣行を自粛するとともに、この機会にリアルタイムのオンライン配信によって、一般の視聴者と交流を図る動きが見られるようになった。

一方、釣り場に至るまでの環境は一様ではないことから、感染拡大が抑えられている地域のアングラーは、これまでと変わりなく釣行を続け、SNS上での釣果投稿も続けられていた。

釣りの業界団体の動きでは、たとえば公益財団法人日本釣振興会は、4/24付けのお願いの中で以下のように見解を明らかにしている。

都道府県を越えた広域移動や3密が起こるような環境での釣りは当面自粛していただくとともに、政府が推奨する新型コロナウイルス感染予防対策(咳エチケット、手指衛生等)を行い、感染拡大防止に努めて頂くよう、お願いいたします。

広域移動や3密下の釣りに対する自粛要請であり、厚生労働省からのお願いとほぼ同様の内容である。

一方ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)は、4/23付けの会長メッセージで、前者よりも厳しい内容を呼びかけている。

とにもかくにも、Stay at home. 移動しないことが最良の予防法です。

JGFAはオフショア中心ということもあり、他者との接触機会が多いことから、より厳しい内容になっているのだろう。

こうした立場や見解の違いは、次に示す急進派の跳梁へと繋がっていく。

3.急進的自粛派vs急進的反自粛派

3月から続く教育機関の休校や企業活動の停滞、不要不急の外出自粛要請が積み重なった社会的または個人的なストレスの影響か、GWに入る前の時期から自粛警察(自粛ポリス)と呼ばれる人々が出現し始めた。彼らは匿名の下で、SNS上で自粛せずに釣果投稿を行っている個人を非難したり、実社会でも営業活動を続けている飲食店等の店舗に嫌がらせを行う事態が生じるようになった。

それをマスメディアもセンセーショナルに報道することにより、ネット上だけでなく実社会においても、自粛派と反自粛派の対立が顕在化していった。

(急進的)自粛派の行動例は、感染拡大防止という名目で、緊急事態宣言下で釣果投稿を行っている個人のSNSに対して執拗に攻撃的な書き込みを行うケースや、営業活動を行っている店舗に対する妨害行為が挙げられる。

それは、あたかも自粛要請に協力しないのは非国民であるかのような社会的空気を醸成し、感染リスクの低い行為に対しても非難を浴びせ、時には攻撃的な行動に結びつくようになった。

(急進的)反自粛派の行動も、県境を越えての外出自粛が要請される中、感染拡大地域の都市部から非拡大地域である地方や離島への遠征釣行に見られるように、医療資源が脆弱な地域に押し寄せたり、手軽に竿が出せる港に釣り人が大勢集まり、「密集」「密接」状態を形成する状況が生じた。

こうした反自粛派の動きに対抗するため、地方の行政や漁協が釣り場に繋がる道路を封鎖して立ち入り禁止措置をとるものの、反自粛派は意に介さず、違法駐車や禁止区域に侵入して釣りを続ける状況も生まれるようになった。

これらはいずれも一部の急進的な自粛派と反自粛派の行動例であり、大部分の釣り人は、他者に対して攻撃的になることなく理性的に自粛するか(穏健的自粛派)、近隣エリアでルールとモラルを守った直行直帰による単独釣行を続けるか(穏健的反自粛派)に分けられる。

しかし、こうした急進的な自粛派と反自粛派の衝突、特に急進的反自粛派による不法行為が横行することにより、緊急事態宣言が解除されて以降も立ち入りや駐車の制限といった、釣り場環境の悪化や釣り人の締め出しに繋がる状況が続くのではないかと、穏健派の釣り人の間で懸念されつつある。

4.自粛をめぐる行動類型の分析

前述した急進的自粛派、急進的反自粛派、穏健的自粛派、穏健的反自粛派の行動類型のうち、自身の立場はGW期間中は釣行することはなかったものの、穏健的反自粛派に位置づけられる。

ブログ上では、緊急事態宣言発出後の釣行方針として、外出禁止にならない限りは心身の健康維持や食材確保のために、直行直帰で近隣エリアの単独釣行を続けることを明らかにしていた。

その後、自粛警察が横行するようになってから、自身は釣行の余裕がなく、釣果投稿をしていないので絡まれることはなかったが、正義を振りかざした理不尽な同調圧力に反発して、以下のような考え方を明示していた。

現在は緊急事態宣言下の有事においてもなお個人の私権が保障され、特措法に基づく処罰対象も限定的という有り難い状況を保っているので、結局は、諸々のリスクにはトレードオフ関係があることを理解したうえで、個人としてどう判断し、どう行動するのかに尽きる。

現行のルールの範囲内で個々人に許された環境の下、リスクトレードオフを理解して趣味や人生を最大限に楽しめば良いと思っている。

まず、緊急事態宣言の下で、釣りに対しては穏健的自粛派が推奨される行動類型であるのは疑いがない。他者に対する攻撃的言動がなく、静かに宣言が解除されるまで待つことができれば、それは素晴らしい。しかしすべての人々がそのような理性的な行動を取れるわけではなく、各人が置かれた環境は様々なので、自粛に対する考え方も自ずと異なってくる。

一方、急進的反自粛派の行動を正当化する余地がないことは、ルールを無視した行動からも明らかだろう。仮に駐車や立ち入り禁止等のルールを守っていたとしても、緊急事態宣言の中で感染拡大地域から非拡大地域に遠征し、「密集」や「密接」を形成して感染拡大のリスクを高める行為は社会的にも好ましいものではない。

自身が所属する穏健的反自粛派の立場は、急進的自粛派の見解と対立関係にある。自らの釣行方針で示したように、穏健的反自粛派の釣行スタイルは、外出禁止にならない限りは心身の健康維持や食材確保のために、直行直帰で近隣エリアの単独釣行を続けるというもの。

もちろん外出する以上は感染拡大に繋がりかねないリスクは伴うが、それは釣行に限らず日常生活を送る上で完全にゼロにすることはできない。ブログ上ではリスクトレードオフという表現で示したが、諸々のリスクをどう評価してバランスをとり、できるだけ合理的な選択を進めていくか、緊急事態に限らず日常的に求められる営みだ。

これに対して急進的自粛派は、主張に濃淡はあるが釣りで外出すること自体に攻撃的な言動を浴びせるものであり、別の例示をすれば、適法に営業活動している店舗に対して業務妨害を行うものだ。その背景には、医療従事者や自粛要請に従っている人々の努力に対する非協力的な姿勢への非難であったり、自らの自粛努力に対する不満やストレスから攻撃性を帯びるのかもしれない。

急進的自粛派の考え方は感染拡大防止の観点からは肯定的に評価される一面もあるが、過度な自粛の強要は現行法の下では法的根拠が乏しく、他者への攻撃的な言動は正当化の余地がない。感染拡大防止という目標に向かって人々が結束するのは重要だが、その目標達成の手段として他の選択肢を排除し、異論を許さないという空気には反発を覚えたので、自身は穏健的反自粛派の立場をとっている。

こうした両者の見解の相違は、釣りという行為の是非の問題にとどまらず、緊急事態宣言の本質に対する捉え方が違うところから生じている

5.緊急事態宣言の本質

現在の緊急事態宣言は、その法的根拠として新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)の第32条に基づく措置であり、各都道府県によって行われている外出自粛の協力要請は、同法第24条9項に基づいている。

都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。(特措法第24条9項)

協力要請がいくら政治的には強い要請であったとしても、個人の行動を強制する性質のものではないことは明らかだ。

ちなみに特措法には第7章(第76-78条)に罰則規定が設けられているが、行政機関等による物資の売渡しの要請等の命令に従わなかった者に対する罰則(第76条)、行政機関等の立ち入り検査を拒否等した者に対する罰則(第77条)、前二条の違反行為に対する法人等への罰則(第78条)に限られる。

したがって、外出自粛要請に従わなかったからといって個人が処罰を受けるものではないし、ましてや戦時下を想起させるような集団による同調圧力に屈する必要はまったくない。個人による釣行の是非の次元を超えて、社会に拡がる同調圧力を許容する雰囲気に対して憤りがあったので、ブログで3回にわたって釣行についての考え方を示し、さらにnoteを執筆するに至った。

もちろん個人としてできる感染拡大防止対策の徹底は当然必要だが、自身は穏健的自粛派のように強靱な心を備えていないので、心身の健康維持のために、(実際に釣行するかどうかはともかく)いつでも釣行できる(趣味を楽しんでも良い)という気持ちを保っておくことが、終わりが見えない長期にわたる自粛生活では、メンタル的にも重要という考え方。

その上で3回目のブログ記事で記した以下の内容が、本テーマの私の結論。

現行法の下ではリスクトレードオフを理解した上で、自粛一辺倒ではなく、その他の社会・経済活動との折り合いをつけて生活していく権利が保障されている。当面はafterでもpostでもないwithコロナの時代が続くだろうから、そうせざるを得ないというのが自分の考え。

おわりに―余談として

現行法の下では外出(釣り)にしろ営業にしろ自粛への協力要請にとどまるわけだけど、これを緊急事態下においてもなお私権が尊重される社会で素晴らしいと捉えるか、緊急事態にこのような自由を認めるのは適当ではないと評価するかは、個々人の政治信条や権利と自由に対する捉え方にも関わり、興味深いところ。

ちょうど憲法記念日が到来したこともあり、緊急事態条項創設を含めた憲法改正の議論が浮上したのは予想どおりだけど、自粛派か反自粛派か、急進派か穏健派かという立場の相違は、これまでの政治信条や憲法に対する評価とは異なる思考様式を生み出しているところが面白い。

たとえば護憲派が急進・穏健を問わず反自粛派の行動に不満を募らせて強力な私権制限を求めたり、改憲派が現行法下で保障されている私権の尊重を最大限に享受して自己の行動を正当化したりするなど、緊急事態に直面して法の下で保障される権利や自由と、その裏にある義務をあらためて考える機会になったのは良いことだと思っている。

社会の雰囲気や世論、それらを意識した為政者の思いつきで法的根拠もなく国の施策が進められるわけではない。法治国家である以上すべての施策には法的根拠が必要だ。法の支配の下で尊重される範囲内で、個人が権利や自由を主張して自己利益を追求することは非難されるべき行為ではない。さらに一歩踏み込むと、緊急事態における権利の制限や義務については、人権保障の問題として別の大きな論点を抱えているが、本テーマの趣旨から外れるのでこれ以上は言及しない。

個人の考えとしては、コロナ禍を好機として政治的な目標を進める流れは、政府への不信感しか生まないと思われる。まずは眼前のパンデミックの脅威に対して必要十分な施策を講じてもらいたい。未だに届かないアベノマスク(子どもが小学校で支給されたマスクは紐の長さが不揃いだった)や、いつ受給できるのかわからない給付金の政策を見ていると、緩やかな協力要請にとどめることで、感染拡大が終息しない状況を意図的に作り上げ、逆説的に強力な私権制限を含む緊急事態条項創設を意図した憲法改正への気運を醸成しようとしているのかとさえ思う。もしそういう狙いがあるとすれば、まさにギリギリの舵取りが必要なため相当な策士が政府内にいると思われるが、それではコロナで犠牲になった人々が浮かばれない。

このままwithコロナの時代に突入し、新しい生活様式の下で生きるとしても、もともと単独釣行中心で人混みを避ける釣行スタイルなので、釣り師としての生活に変化はない。しかし業務上では不特定多数の人々と接する機会も多く、感染症の恐怖を抱えて仕事をするのは避けたい。軽症にとどまったとしても肺炎で苦しみたくはないので、穏健的反自粛派を自認する自分も、新しい生活様式はできるだけ採り入れていきたい。

とりあえず業務のオンライン化やペーパーレス化は自分は歓迎している側なので、コロナ禍を機に非効率な業務慣行が改まって欲しいとは思っている。

<参考>

2020年4月22日「久々の釣果と今後の釣行方針

2020年4月29日「釣り師としての新たな一歩

2020年5月6日「緊急事態宣言下の散策と延長後の釣行方針

2020年6月6日「Withコロナ時代の県外遠征釣行の難しさ

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