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副業診断でデザイナーになる広告について

今回は特別なことを書かず、当たり前のことを淡々と書いていこうと思う。

先々週に会社のデザイナーと飲みに行き、最近Twitterで出回っているとある広告の話になった。


問題の広告

会社員を1ヶ月で辞めた。

あの頃は自分に何が向いているんだろうと思っていたけど、この無料カウンセリングを使ったら、自分に向いている仕事を教えてくれる!

自分はデザイナーが向いていたみたいで、今ではデザイン一本でフリーランスとして働いて、自分の時間をゆっくり使えて月20万円も収入がある。

あの頃は頑張りすぎていた…
自分に向いている仕事している今は時間を忘れるほど楽しい!
(バナナを咥える)

意訳

こんな感じの広告である。

要約すると、副業でデザイナーをやったらお金も稼げて時間も自由でしあわせ〜!という設定だ。ペルソナは社会人1年目〜4年目くらいの20代。

この広告は一般人から見てもツッコミどころが多い。
1ヶ月で会社を辞めたのに「あの頃は頑張りすぎていた」はさすがに舐めているし、デザイン一本なら副業とは言わないし、月20万の所得はぶっちゃけ初任給の平均くらいだし、ずっと剥いたバナナ食わずに持ってる。

華ドラ一気見ver、沖縄旅行ver、仕事辞める彼氏ver、話しかけないでverとかもある。この類の広告には、動画編集やWEBデザイナーといったクリエイター業が不思議と抜擢されやすい。

そして訴求は決まって「在宅勤務が楽」「好きな時間に働ける」など、デザイナーは楽という印象操作である。


デザイナーの歩みがちなキャリア

これだけで判断すると楽な職業と思うかも知れないが、この広告には重要な文脈が一つ省略されている。
確かにデザイナーは他業種と比べ在宅勤務できる時間は多かったりはするものの、ずっと楽な生活が続く職業ではないということだ。

会社の上司と、デザイナーのキャリアについて話したことを思い出した。

"グラフィックデザイナーは30代中盤で詰むことが多い。
ずっと作業だけをしてきて、(所得を上げるために)提案をやりたいですと言っても、結局自分の作りたいものしか作れなくて、クライアントワークが成立しない。"

上司との会話にて

これは、金言である。

要は、ビジネスの現場において価値が高いのは提案力がある人であり、一方で作業員を続けていくと所得が頭打ちになるという話だ。ここでは、作業員=デザインソフトを操作する専門人員と定義する。

デザインは、案件をとってくる人、モノを作る人、説明する人、売る人など、さまざまな役割があって成立する。このうちの多くのスキルを身につけた人材の価値が高まっていく訳だが、一方でこの広告ではそのうち作る人、即ち作業員としてのイメージしか露出していない。

このマインドセットで働くと、確かに20代のうちは、案件の繰り返しで作業スピードが上がっていき、成果物の量に比例してある程度所得が増えていく。だが、作業系の案件だけで回すと平均所得と同じくらいしか稼げず、30代あたりで頭打ちしてしまう。ビッグな案件も舞い込んで来ず、40代には平均を下回り「あの時会社を辞めなければ」と後悔しているに違いない。

なおさらフリーランスをやるなら自走意識が必要なので、このマインドで所得を上げることは難しい。何もせず案件が舞い込んでくることは皆無だ。


作業員ルートを回避するには

新卒デザイナーの制作会社・フリーランス論争にも関連するが、個人的に本当にデザイナーを目指す人は美大や専門学校に通ってから制作会社に就職するのが一番手堅いと思っている。
※自分は専門中退 → Jリーグクラブに就職 → デザインファームに転職という謎経歴デザイナーなので、これに関して説得力はゼロである。

いずれにせよ例えデザイナーといえど、フツーにビジネスマンとしてのスキルがないと30代以降は生き残れない。その視点で考えると、フリーランスより(ビジネスと関わる確率の高い)制作会社に就職することが望ましい。フリーランスは後からでもなれる。

「好きな時間で働ける!」と言って、デザイナーキャリアをフリーランスとして始め、楽な方法を選んでいると、直接的にビジネスと関わる機会を逃して、最終的に作業員として過ごすことになってしまう。そもそも副業広告全般、WEBデザイナーや動画編集、エンジニアをはじめ作業員としての人材を求めているものが多い。

つまりこのnoteで訴えたい広告の問題点は、「この広告で "デザイナーに必要なスキル" とされている物(作業スキル)だけでは将来性がない」と表現するのが合目的的だろう。今や作業スキルなんてものは大衆化し、学生デザイナーでも余裕で案件をこなせる時代に我々は生きているのだ。

作業スキルの一歩先が求められている中、真のデザイナーを目指すなら、ビジネスとして提案力を身につけること。デザインはビジネスの延長線上に存在する。常に思考しながら制作し、そのデザインの必要性を説けるようになることが必須だ。

いずれにせよ、結局は意識の問題である。


デザイナーが努力している絵面はかなりグロい

時を同じくして、どうせならスタバで〜というのも一瞬バズったが、あんなキラキラした世界は自分が知る限り存在しない。

万が一にもデザイナーが楽な仕事と思われたら癪だし、せっかくなので自分の周りのデザイナーの苦労エピソードでも書いてみようと思う。
自分の周りは、スポーツ関連という性質からか、意識が高い(愛を持って打ち込んでいる)デザイナーが多く、色々な仕事にまつわる不幸自慢がある。

知人デザイナーAは、肉汁餃子のダンダダンの隅っこで縮こまりながらパソコンを開いていた。周りに見られないよう壁を背中に画像編集をしていた。

知人デザイナーB(後輩)に電話をかけると「40時間ぶっ通しで制作してたんすよ。もういいすか?」と1分で切られた。先輩に向かってフツーにイライラしていた。

自分は繁忙期の6月、会社に合計7泊した。1泊2日を5回と、最後は2泊3日。
3日目は16時ごろに早退した。早退理由は「頭がカユい」だった。

社員に盗撮された3日目の朝。手の形がダサい

会社の上司は、ファスティング(断食)中なのに徹夜で提案書を作っていた。人間の3大欲求のうち2つを捨てているので、さすがに論外である。
(この人が自分の観測史上ぶっちぎりでヤバい人で、他にもいっぱいエピソードがあるが怒られたら嫌なので割愛する。)

学生フリーランスチームと仕事で何回か、深夜まで打ち合わせをしたこともある。優秀な学生って結構楽しそうにデザインの話をするので、好きでやってるんだな〜というのが伝わってきてかなり良い。

とまあ、これらは比較的顕著なケースを挙げたものだ。
決して「ここまで苦労しなければ一人前といえない」とは思ってなければ、デザイン業界がブラックだと言いたいわけでもない。なんなら今自分のいる会社はホワイトである。多くの会社において、与えられた業務をこなすだけなら余裕で定時退社が可能だ。

だがもし、この業界に夢を求めるとなれば、水餃子を眼前にパソコンを開くなどして、泥臭くやっていく必要がある。1度でもそんな経験をしてしまえば、楽に自分の時間で働けて〜 なんて口が裂けても言えない。

というか、好きでやっているのだ。もうどうしようもない連中である。


デザイナーは特殊な仕事ではない

もしあなたがビジネスシーンで通用するデザイナーとして価値を高めたいならば、この広告と同じマインドセットで働くことは極めて悪手と言えるので、考えを改めて欲しい。デザイナーも専門職とはいえひとりの社会人であることは覚えておきべきだ。この広告に釣られるよな人は、業界で生き残ることはできないと個人的に思う。

デザイナーに楽な道など存在しない。考え方が根本から違うのだ。



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