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2012チルドレン 南雲企画・後

 その部屋から出ることのできた柊一たち。黒服が第二ステージクリアした者のみ次の会場へと案内する。別のグループは脱落者を出さずにクリアしていた。45名のプレイヤーが次のステージへ進む。
 会場まで歩く一同。

「二人とも良くやった」

 神崎が隣におっさんを引き連れて柊一と湯舟に声をかけてきた。

「どうもどうも」
「誰やねん! このおっさんは」

 二人に挨拶をしてきたおっさんはふくよかな体型をしているが、整えられた髪と皺一つないスーツで清潔感が溢れていた。

「失敬な。私には名前があり、円小五郎だ。おっさんではない」

 湯舟の目にはどう映っているかわからないが、柊一から見れば彼は四十代前半に見える。四十代はおっさんなのかと考えているうちに話は進む。

「で、どういった関係なんですか」
「それ聞いちゃう?」

 神崎との関係を焦らす円。聞き返されると興味はなく、湯舟が話を変える。

「てか、神崎がいたグループ脱落者いないってマジ?」

 柊一も気になっていたことだった。二人がいたグループは騒動が起き、多くの脱落者を出した。

「イチバンって男が開始早々に何もしないでいいって言ったから、それにみんなが従った」
「イチバン?」
「ほら。あのブルゾン着た男の人」

 神崎は前を歩く黒いブルゾンを来た若い男性を指さす。彼は柊一たちと同じぐらいの年齢に見える。イチバンっていうのは仮の名前で、本名は神崎たちに教えなかったそうだ。

「私、そのイチバンって男の人どっかで見たことあるんだよね。本人は初対面って言ってたけど、誰かに似てない?」
「多分、人違いやな。世の中に自分に似ている人が三人いるって言葉もあるし」

 柊一も神崎と同じようにイチバンって男が誰かに似ていると感じていた。しかし、思い出せないでいた。

「でも、よく信じたな。こっちのグループはそれに気づいてもパニックだった」
「彼は、宝探しゲームで一番最初に鍵を見つけたらしい」

 円が話に入ってくる。宝探しゲームの鍵には番号が振られてあったらしく、その一番を彼は手にした。イチバンは冷静に状況を判断する男だと柊一と湯舟に説明する。

 次の会場に到着した一同は大きなモニターに映し出された狐面に注目する。

「皆さん、第二ステージ突破おめでとうございまーす」

 今回の案内人は茶髪の口調がチャラい男性だった。テンションの高さが画面越しに伝わってくる。

「謎解きゲームはどうでした? あのゲームで人数が減ると思ってたけど、一チームは全員突破したみたいだね」

 世間話を始める案内人にゲームの説明を急かすプレイヤーたち。案内人はため息を吐いて「はい、はい」とだるそうに返事した。

「今回、皆さんにやって頂くゲームは合計十ゲーム」

 プレイヤーたちの頭にハテナマークが浮かんだ。案内人はお構いなしに説明を続ける。
 合計十ゲーム。
 プレイヤーにはそれぞれ「0」「1」「2」「3」「4」の番号がランダムに振られる。他のプレイヤーと協力して合計十になる五人一組をつくる。プレイヤー自身はその数字を知ることができず、他のプレイヤーの数字は知ることができる。
「会場に三つの占いボックスあります。そこで知りたいプレイヤーを選択して下さい。但し、知ることのできるプレイヤーは三人のみですので慎重に選んで下さい」
 一グループに同じ数字は無効となる。つまり、「0」「1」「2」「3」「4」の組み合わせでなければならない。合計十をオーバーした場合、そのグループで一番数字が大きいプレイヤーが脱落。合計十より少なかった場合は一番数が小さいプレイヤーが脱落。同じ数字がいた場合も脱落となる。但し、0のプレイヤーはその影響を受けない。又、合計十のグループを時間内に作れなかった者も脱落となる。

「気になる点が一つあるんやけど、合計十でその組み合わせにならなかった場合は?」

 銀歯の男が手を挙げて質問する。案内人は答える。

「無効になります。なので簡単な話、脱落しない為には合計十を守ることと、制限時間の一時間までにグループを完成することです」

 案内人は説明を続ける。

「プレイヤーは四十五人です。五人一組なので、協力すれば全員ステージクリアできるわけですが……それでは面白くないでしょってことで」

 場に不穏な空気が漂う。

「もし、合計十のグループができなかった場合は脱落者以外のプレイヤーに星二つ差し上げます。脱落者一人につき、星二つ。二人なら倍になります。意図的にグループを作らず、星を獲得すればより多くの賞金が手に入ります」

 このルールで脱落者が確実に現れる。星一つは五万で二つとなれば十万円になる。それが脱落者の数ごとになるというわけなのだから、銀歯の男は何かしら行動してくる。
 グループを組むことができれば、宣言ボックスで自分たちが合計十であることを宣言する。見事クリアできれば、次のステージに進むことができる。

「では皆さんがゲームをクリアすることを祈っています」

 案内人はモニターから姿を消した。

 プレイヤーたちは協力して合計十のグループを作るために声をかけ合う。柊一、湯舟、神崎、円、月野、青木は一角に集まって作戦会議を始める。

「私たちがそれぞれ教えあったら、合計十のグループ完成するんじゃない?」

 神崎は勝ち誇ったように話す。

「じゃあまず、こうしましょう。東柊一君、湯舟一郎君、神崎茜さんが互いの数字を教え合う。私と月野隆弘さん、円小五郎さんが互いの数字を教え合う」
「それ賛成!」

 神崎は指を鳴らした。柊一たちも青木の提案に賛成し、全員が占いボックスで互いの数字を知る。
 柊一は「3」で湯舟が「0」、神崎は「2」だった。青木は「2」で月野も「2」、円は「4」だった。この時点で五人のグループが作れないと判明した。

「あ! 私、あのイチバンの番号調べてくる。絶対『1』だよ」

 手を挙げて、神崎は柊一たちの意見も聞かず占いボックスに向かった。青木から「あの子は危険」と囁かれる柊一。戻ってきた神崎の顔は暗かった。

「あの人は『4』だったよ。全然『1』じゃなかった」
「イチバンって名前じゃなくて、神崎がつけたあだ名やろ?」
「でも、宝探しゲームでは一番だった!」

 言い合いが始まりそうなところで円が間に入って仲裁する。神崎と円は柊一たちと離れ、1番のプレイヤーを探しに行く。

「柊一。まずはあの銀歯のおっさんが何番か、知っといた方がええと思うで」

 遠くにいる銀歯の男を指さす湯舟。彼のいう通り、柊一も銀歯の男を警戒していた。宝探しゲームに続き、謎解きゲームでも目立っていた。
 占いボックスに入る柊一は悩まずに銀歯の男の番号を占う。出た数字は――0だった。もし、彼が自分の番号を知れば恐ろしい事態が起きると予感した。その時、外からサイレン音が聞こえてすぐに部屋を出る。
 湯舟が柊一のところに駆け寄って来る。

「さっき一グループが宣言ボックスに入ったけど、失敗したみたいやな」
『ただいまの数字、合計九』

 その後、脱落者の名前が呼ばれる。その彼が何番だったのかはプレイヤーに知らされない。二人のところに青木と月野もやって来る。

「この段階で他、四人のプレイヤーの脱落も確定した」

 理解に追いつかない湯舟。合計十の組み合わせは「0」「1」「2」「3」「4」でなければならない。一つの番号が欠けたことにより、彼だけではなく他プレイヤー四人の脱落が確定したのだ。

「焦りは禁物だけど、じっくり考えている暇はない。制限時間は一時間の上に、他のプレイヤーの脱落は自身の脱落にも繋がる」
「ってことは怜子先輩。1番のプレイヤーさえ見つければ、俺たちで一グループは完成するってことですよね」
「そういうことになるね。でもその場合、2番である私と月野隆弘さん、神崎茜さんの内の二人が別の人と組まなければいけない」

 くそぉと吐き捨てた後、湯舟は銀歯の男が何番だったのかを柊一に尋ねる。その答えを聞いた湯舟は頭を抱える。

「最悪だ……あのおっさん、ギリギリまで合計十を完成させないやろ」
「そうだな。それが脱落者の数につきっていうんだから」
「ということは東柊一君。わかっているよね?」
「他のプレイヤーも俺たちと同じように、チームを組んでいる」

 頷く青木。宝探しゲームの時も、銀歯の男は他のプレイヤーと結託して星を稼いでいた。

「東柊一君。君は早く1番と4……おそらく円小五郎さんは神崎さんの口しか聞かないから、4番を見つけるの。たしか神崎茜さんは、あのイチバンって人が4番って言ってたわね。彼をグループに誘って、湯舟一郎君と月野隆弘さんを連れて次のステージに進んで」
「怜子先輩。それってつまり――」
「私は他の人たちと組む。もしかしたら、次のステージに進めないかもしれない」

 前回のゲームでは青木に助けられた。その恩がある柊一は簡単に頷くことができなかった。そんな柊一に青木は条件があると告げて来た。

「東柊一君と私の目的は多分だけど、一緒だと思っている」
「一緒?」
「東京血の海事件の真相――私がここに来た理由よ。必ずゲームにクリアして、私にも教えること。それが条件」
「真相って……」
「それ以上は話さない。頼むよ、東柊一君」

 青木は柊一たちの前から去って行った。

 合計十のグループは未だ完成されておらず、銀歯の男が作ったグループで脱落者が三人出た。

「怜子先輩が言っていたように、仮称イチバンを誘うんか?」
「でも、僕たちの話を聞いてくれますかね? 見てる感じ、ずっと一人でいるようですし……」
「月野さん。このゲームは五人一組のグループを作らなクリアできひんゲームやから、あいつも動くやろ」
「それはそうだけど」

 湯舟と月野は柊一の顔に目を向ける。二人とも、柊一に決断を委ねている。優先すべきはすでに番号がわかっているイチバンを誘うか、それとも1番のプレイヤーを探すか。
 さっき柊一たちは互いに違うプレイヤーを占ったが全滅だった。ここで柊一が選択すべきなのはまず、イチバンを取り込むことだった。
 一人で佇んでいるイチバンに声をかける柊一。湯舟と月野がその様子を背後から見守っている。

「信用できない。お前たちがグルになって、俺を陥れようとしている可能性がある」

 急に複数で押しかけて、彼が警戒するのも無理はない。しかし、このゲームは五人一組のグループを作らなければならない。遅かれ早かれ、彼は誰かと手を組まなければいけない。警戒心を解くには、それなりに証明する必要がある。
 その方法を導き出す前に、湯舟が前に出てくる。

「合計十ゲームはグループを作らなあかん。お前一人でクリアできるゲームとちゃうで」
「わかっている」

 焦りが見え始める湯舟とは対照的に、彼は常に冷静である。腕を組んでその場から微塵も動かない。

「お前たちと組む気はない。俺の勝利はすでに確定している」

 その言葉の意味を尋ねようとした途端、会場に響き渡るサイレン音は、グループ不成立を知らせる。

『ただいまの数字、合計九』

 聞き覚えのある女性の悲鳴が上がる。宣言ボックスから出てきたのは神崎と、そのグループの中にいた連中が出てくる。そこに銀歯の男もいた。

「騙したな! おっさん!」
「悪く思うなや。より多くの金を手にするには、落とすしかないんや」

 神崎は銀歯の男の罠に引っかかってしまった。地面にしゃがみ込む神崎のところへ柊一たちは向かう。

「東、湯舟。絶対にゲームクリアしてよ、頼むから」

 両手を合わせ、必死な顔で切望される。柊一はもちろん、このゲームをクリアするつもりでいる。
 神崎がいなくなった今、柊一たちのところに円がやって来る。これで1番のプレイヤーを見つければ、合計十ゲームをクリアできる。

「それなら『下崎』って男が1番だ。さっき占ったからたしかだ」
「それ、嘘ちゃいますよね」
「本当だって」

 詰め寄る湯舟。今は円を信じて、柊一たちは下崎という男に声をかけた。彼はまだ一回だけ、占える回数が残っていた。それで柊一の番号を占い、信じてもらえることができた。
 宣言ボックスに入る五人は合計十を宣言する。部屋にあったモニターには「クリア」の文字が表示された。

『ただいまの数字、合計十』

 会場に響き渡るアナウンスに柊一たちはハイタッチなどをして喜ぶ。ただ、銀歯の男の不気味な笑みを柊一は見逃さなかった。
 それからも脱落者は増え続け、謎解きゲームで力を貸してくれた青木も脱落となった。次のステージに進めたプレイヤーは十名に絞られた。

[4]

 次の会場に到着した柊一たち。舞台が設置されており、そこには一つのテーブルと向かい合う赤と青の椅子が二セット用意されていた。ゲームを見下ろすように掛けられているモニターに映し出される狐面の案内人。

「皆さん。合計十ゲームのクリア、おめでとうございます」

 渋いその声は落ち着いた印象をプレイヤーたちに与える。

「では早速、ゲームの案内を行います。次のゲームは――」

 モニターに映し出される文字――ジェネラルゲーム。
 一対一で行われるカードゲーム。一ゲームに三回戦行われ、プレイヤーたちに4枚のカードが配られる。カードにはランクがあり、「大将」「中将」「少将」「兵士」となっている。

「互いの将軍が対決する。なので、ジェネラルゲーム」

 大将はどのカードよりも強い。中将は大将に弱く、少将と兵士に強い。少将は大将と中将に弱く、兵士に強い。兵士はどのカードよりも弱い。あいこの場合はドローとなり、ポイントが入らない。但し、兵士と兵士の対決になった場合は「先攻の兵士」が勝利となる。一ゲームに同じカードは出せない。

「皆さんはAとBグループに分かれ、総当たり戦で戦って頂きます。各グループ、合計勝利数が多い上位二名がゲームクリアとなります。しかし、勝利数が同点の場合はその方全員が脱落となります。ゲームは至って簡単です。負けなければ、いいのです」

 モニターから案内人が消え、ゲームを進行する案内人がプレイヤーの前に姿を現す。モニターにはグループの振り分けと、総当たりの表が映し出される。
 柊一のBグループは例のイチバンと目立っている銀歯の男、井上、江波という男性と戦うこととなる。見事に湯舟たちと分かれ、柊一は湯舟に声をかける。

「俺はこのゲームで脱落する」
「何言ってんねん。勝って、ひょっとこの正体を」
「湯舟に託す。だから、謎解きゲームの時に託された星を湯舟に渡す」

 自分の端末を差し出す柊一。もちろん、勝てるのなら勝つつもりでいる。しかし、井上と江波という男は合計十ゲームで銀歯の男と組んでいたプレイヤー。ジェネラルゲームは個人戦ではない。言葉巧みに銀歯の男は必ず、根回ししてくるはずだ。そうなれば、後は簡単。彼は例のイチバンと柊一に勝利すれば、四勝で次のステージへ進むことができる。
 柊一の目的は「ひょっとこの情報を掴む」ことである。そして、柊一には別のグループで戦う湯舟がいる。湯舟を信じ、このゲームで柊一がやるべきことは今後、厄介な存在となる銀歯の男をここで脱落させることである。その為には自分も井上、江波、例のイチバンに勝利しなければいけない。二勝できなければ、絶望的である。
 そして、ゲームが始まる合図が会場に鳴る。
 第一ゲームに柊一と井上が戦う。先攻後攻を決めるコイントスが行われる。柊一は表、井上は裏。

「表となりますので、赤のプレイヤー様からお願いします」

 ディーラーから四枚のカードを受け取る。左から大将、中将、少将、兵士となっている。目の前に座る井上は何回かシャッフルをし、一回戦に出すカードを真剣に選んでいる。

 一回戦で大将を出せば、勝利する確率は上がる。しかし、相手も大将を出してきた場合は引き分けとなり、ポイントは入らない。かといって、中将少将を簡単に出せない。残るは兵士だ。このゲームにおいて、兵士は何の役割があるのだろうか。三回戦行われる中で配られるカードは四枚。必ず、一枚余るのだ。その余るカードは一番弱い兵士だ。

「早くしろよ」

 向かいに座る井上が柊一を急かす。まずは「大将」のカードを出した。後攻の井上はすぐに手札からカードをテーブルに置いた。

「では、オープン」

 ディーラーが両者のカードを開いた。

「赤のプレイヤー様、大将。青のプレイヤー様、大将。一回戦ドローとなります」

 この時点で柊一はやはり、気づく。ジェネラルゲームは個人戦ではない。このままお互いが勝とうとすれば、引き分けとなる。柊一が持つ手札は中将、少将、兵士。井上も同じである。負けないようにするには順当に中将、少将を出す。
 ゲームの流れは柊一の思った通りで二回戦は中将、三回戦は少将と引き分けで終わる。その後、銀歯の男は井上と江波に勝利して二勝している。続く、江波とのゲームでも柊一は引き分けとなってしまう。ジェネラルゲームに勝利し、次のステージへ進むことはもはや不可能だ。
 一方で、別のグループで戦っている湯舟は順調に勝利していた。
 柊一はついに銀歯の男と対決する。

「裏となりますので、青のプレイヤー様からお願いします」

 銀歯の男がすぐにテーブルにカードを置く。彼は後攻の柊一が出すカードを待っている。表情からして相当自身があるように見える。柊一は目を瞑り、頭の中で「大将」という声を思い返す。俺たちの目的は「ひょっとこの正体を明らかにする」ことだ。ここで“負けるべき”なのだ。
 ディーラーが両者のカードを開く。

「赤のプレイヤー様、大将。青のプレイヤー様、兵士」

 動じない柊一に銀歯の男は「くそ!」と悔しがる演技をする。わかっていたのだ。銀歯の男が兵士を出してくることを。

 ――思い出したんだ。十年前、ネットに上がった動画に映っていた中学生による集団いじめ。主犯格は黒岩圭司。

 例のイチバンは黒岩圭司だった。
 数分前、柊一は黒岩と接触した。彼の目的は柊一同様、ひょっとこの正体を明らかにすること。

「お前とひょっとこ、何の関係がある?」
「ひょっとこはおそらく、俺の通っていた中学の同級生だ」
「俺の名前を知っているってことは粗方知ってんだろ。ひょっとこがきっかけで俺の人生はめちゃくちゃになった」
「それは自業自得じゃないか」

 柊一のいう通りである。自分が過去に犯してしまった行為は許されない事だとわかっている。しかし、あの日あの時、一体誰が何のために自分の家にあのような手紙を入れたのかを知りたかった黒岩。独自で調べても何も解明しなかった。

「ひょっとこはお前の通っていた中学の同級生じゃない。俺の通っていた中学の誰かだ」
「黒岩。すべてを明らかにするためにも協力して欲しい」
「協力はしない。信用ならない。もう誰も信じない」

 裏切られるのは懲り懲りだった。友達だと思っていた連中がいじめの様子を隠し撮りし、ネットに投稿した。実名は瞬く間に世界へと広まり、今もネットの記事に刻み込まれている。一生、消えないのだ。

「別に信用しなくてもいい。でも、このままだと確実に勝てない。お金に貪欲な男性がいる」
「……あの銀歯のおじさんか」
「あの人はこれまでのゲームで何人も落としてきた。ひょっとこの正体を掴むにはこのゲームが最後のチャンスなんだ」

 柊一を信用するつもりはないが、黒岩は協力に応じる。

「お前の隣にいる友達がいるだろ? あいつもお前と目的が同じなのか?」
「一緒だ」
「なら、こっちのグループは全員脱落で行く。お前の友達にすべてを託す」
「脱落ってどういうことだ」
「ジェネラルゲームは個人戦じゃない。団体戦だ」

 黒岩の話に耳を傾ける柊一。そこから銀歯の男との戦いに繋がる。
 一回戦、兵士と大将の対決になれば必ず、兵士を出した方が勝利する。兵士を出せば、残りの手札は大将、中将、少将となる。対して、大将を一回戦に出せば、残りの手札は中将、少将、兵士となる。
 この原理を見つける者が現れる。すると、一回戦で兵士と兵士の対決が訪れる場合もある。兵士同士の場合に発生される「先攻の兵士が勝利する」はこのためにあると思われる。
 別のグループで勝利を収めている湯舟には事前に教えてある。
 柊一と黒岩の作戦は順調に進んでいる。銀歯の男との戦いは敗北し、柊一は一敗一分けの状態。銀歯の男は全部のゲームを終え、三勝一敗。
 このグループ最後のゲームは柊一と黒岩である。黒岩は三勝している。作戦通り、柊一がゲームに勝利することで黒岩は三勝一敗となる。
 大きなモニターに映る狐面が最終結果を発表する。

「Aグループは二名が次のステージへ進出。Bグループは全員脱落となります」

 Aグループの二名というのは湯舟、月野である。この結果に納得のいかない銀歯の男。彼は黒岩に詰め寄る。

「今までストレートで勝ってたお前がなんでや!」
「負けたんだ。仕方がないだろ」

 と答える黒岩。銀歯の男は「くそ!」と吐き捨てる。柊一の隣に立っていた湯舟は耳元で「本当に大丈夫か?」と黒岩と手を組んだことを気にしていた。

[5]

「こちらになります」

 柊一たち、脱落者たちは会場の外ではなく、奥の部屋へと案内された。そこには宝探しゲーム、謎解きゲーム、合計十ゲームの脱落者たちが集められていた。

「東!」

 前列にいた神崎が大きな声で柊一を呼ぶ。隣には青木もいた。大勢の人たちをかき分けて、柊一も前列に並ぶ。目の前には巨大なスクリーンと舞台がある。

「なんで脱落したのよ! 東も、小五郎さんも」
「ごめん、ごめん」

 円はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭う。

「これは一体なんですか?」

 怒る神崎の隣にいる青木に尋ねる柊一。今までの脱落者はここに集められ、ゲームの模様をあの巨大スクリーンで観覧していたという。

「レディース・アンド・ジェントルメン!!」

 暗くなる会場に響き渡る男性の声。ゲームマスターの南雲晴久の声だ。柊一たち、プレイヤーは舞台に注目する。

「この度は南雲企画のゲームに参加していただき、ありがとうございました」

 スポットライトを浴びる南雲は深くお辞儀する。

「南雲企画、最後のゲームをクリアしたのは湯舟一郎様と月野隆弘様となります」

 舞台に新たな光が現れる。そこに湯舟と月野がいた。

「改めて説明させて頂きます。今回のゲームは多額の賞金か、参加者が望む賞品を選択することができます。賞品に関しては何でも大丈夫です。では、月野隆弘様からお聞かせください」

 観覧する脱落者たちを前に、月野は「役員クラスの職を望みます」と告げる。彼は謎解きゲームの時に話していた通り、賞金ではなく賞品を選んだ。

「では、一つお聞きします。あなたはなぜ、役員クラスの職をお選びに? 現在は無職ということですか」
「はい」
「あなたは以前、有名な会社に務めていましたよね。退職した理由は?」

 質問を続ける南雲。群がる脱落者の一人が「賞品を渡すんじゃないのか」と野次を飛ばす。

「ええ、もちろん。しかし、本当に差し上げていいのか……つまりは『最後の審判』です。さあ、月野様。お答えください」

 月野は会社が導入した人工知能のリストラリストに入ってしまい、退職することになったと公の場で口にした。数年前からあらゆる場所で機械が導入され、人工知能までもが登場し、仕事が奪われるのではないかと騒がれていた。
 脱落者たちは月野を見て、その現実が目前まで近づいていることを気付かされる。

「理由はわかりました。ですが、あなたの愛する人は本当にそれを望んでいるのでしょうか」
「どういうことですか」
「皆さん、よくお聞きください」

 と、両手を広げて南雲の視線は月野から脱落者たちに移る。

「月野様は人工知能……AIのリストラにあったのです。では、そのような人材を他の企業が必要としますか?」

 柊一たちの周りにいる他のプレイヤーたちがざわつき始める。南雲のしたいことが全くわからない。

「南雲さん!」

 月野の言葉は一瞬にして周りを黙らせた。

「僕には妻と生まれてくる子どもがいる」
「なら、一生暮らしていける賞金を手にすればいいのではないでしょうか」
「それではダメなんです。僕は社会的地位じゃないと」
「では彼女の意見を聞きます」

 スポットライトを浴びていた南雲たちの光は消え、会場は再び真っ暗となる。そして、巨大なスクリーンはある女性を映し出す。

「委員長やん!」

 舞台に立つ湯舟の声が聞こえてくる。柊一の隣りにいる青木は「越智早苗さん」と彼女も越智のことを知っている様子。モニターに映る女性は中学時代の同級生、越智早苗だった。

「月野様の奥様は現在、入院中であり、中継という形を取りました」
「最後の審判……あなたはこのまま賞金を手にするか、それとも辞退するか」

 制限時間が設けられ、月野と越智の時間が始まる。

『私がショックなのは、隆弘さんが何も話してくれなかったこと』
「話せるわけがない。君の母親のことをよく知っているから」

 柊一たちはその模様を静観する。

『私は地道に頑張る隆弘さんを好きになった。こんなのは違うと思う。また一から……』
「もう遅いんだ。一からなんてできない。僕には今、今すぐに必要なんだ。こういうやり方でしか……」

 越智は昔から変わっていなかった。ルールに厳しい彼女はたとえ、自分のためであっても、正当と思えないやり方は許せなかった。
 月野は何度も仕事を探した。でも現実はそう簡単じゃない。限られた時間の中で見つけることはできなかった。

「お時間となりました。では、月野様。答えをお聞かせください」

 月野の思いは変わらず、賞品を選んだ。

 続きまして、と南雲は湯舟にスポットを当てる。湯舟が月野と同様に賞品を選ぶと、観覧席は脱落者たちの落胆した声で溢れる。

「ちょっと! 約束したじゃない! 賞金でしょ!」

 賞品を選んだ湯舟に声を荒げる神崎。なだめる円。

「『ひょっとこ』の正体を知りたい……それは例の動画の?」

 昨日、動画投稿サイトに投稿された一本の動画。南雲も、ここにいる全員が知っていた。それもそのはずだ。日本が、この大阪を中心に終わると予告されたものだから。

「私が知っているのは一人だけです」

 一人?
 柊一は疑問に思う。南雲の発言から、ひょっとこは二人、もしくはそれ以上いるということになる。つまりは畑山もその一人だった。

「ですので、具体的にお聞きしたいのですが……直接、本人にお聞きますか?」
「本人ってどういうことですか?」

 再び暗くなる会場に一点の光。そこにいたのはひょっとこの仮面をつけた人物。車椅子に乗っており、フードを被っている。この時点では男性なのか、女性なのかはわからない。騒ぎ始める会場を静める南雲。会場の照明が点く。

「ここにいるのが私の知る『ひょっとこ』です」

 南雲企画が主催する最後のゲームのスペシャルゲストとは、ひょっとこのことだった。

「どうも、皆さん。初めまして」

 ひょっとこは膝の上にあるノートパソコンでカタカタとキーボードを打つ。機械的で不気味な音声が会場に流れる。

「なんで喋らへんねん。お前は誰や、誰やねん」

 湯舟の質問に声は発せず、ノートパソコンに答えを入力していく。

「君たちの同級生だよ。正体を明かすことはまだできない」
「なんでや。教えてくれや」
「すべては南雲さんが君にデータを渡す」

 黙って聞いていられなかったのか、黒岩がひょっとこの正体を追求する。十年前に浮上した謎のひょっとこ。あのカンニング騒動で成神信二が仕組んだと手紙を残した人物。
 柊一は薄々と気づいている。おそらく、彼は成神ではないか。あの日、南雲が成神を助けていた。辻褄は合う。しかし、南雲がこの場になぜ、ひょっとこを連れてきたのかは不明だ。
 ひょっとは数分も経たず、会場から去った。

「では、湯舟様。このUSBにあなた方が知りたいすべてがあります」

 南雲からUSBを受け取る湯舟。南雲企画の最後のゲームが終了し、お金を手にすることができなかった神崎は落ち込む。
 湯舟はプレイヤーたちから預かった星をお金に換金し、約束通りに配った。
 外に出ると、プレイヤーたちを乗せる送迎バスが列になって停まっていた。
 柊一はバスに乗る前、狐のお面で素顔を隠す南雲に声をかける。

「お久しぶりです、南雲さん」
「久しぶり……と言っても、君はすぐに消えてしまったが」

 お面を外した南雲の顔は十年経ち、渋くなってより一層魅力が増していた。

「湯舟君に渡したUSBの中に彼の情報がある」

 会釈をした柊一はバスに向かう。去っていく柊一に南雲は「元気でな」と言葉を残した。

 翌朝。
 月野が交通事故に遭って、亡くなったと聞いた。

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