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【映画】「ゴスフォード・パーク」~「先を読む力」を語る感動のラストシーン!

先日、ロバート・アルトマン監督の傑作「ゴスフォード・パーク」を見返したのですが、やっぱりラストが圧巻でした!初めて見た時にも震えたのですが、今見返しても本当に素晴らしい。ということで、ネタバレにならない程度にラストシーンを含めて、ひたすら「ゴスフォード・パーク」の良さを勝手に語りたいと思います(笑)。


ロバート・アルトマン監督とは?

米国映画界の巨匠、ロバート・アルトマン。もともとは数々のTVシリーズの監督を経て、映画の世界へ。有名どころでは「MASH」でしょうか。破天荒な戦場の野戦病院医師たちを描いた作品で一躍スターダムに。その後、群像劇の傑作「ナッシュビル」でカントリー音楽界フェスをベースに大統領選挙を織り交ぜた豪快な作品で内外から評価されました。その後小休止を経て90年代に「ザ・プレイヤー」で復活。次作「ショートカッツ」と続けて映画賞を受賞(このどちらもメチャクチャ素晴らしいです)。

そして2000年に英国を舞台にしたミステリー「ゴスフォード・パーク」を発表し、米国アカデミー作品賞にノミネート(脚本賞を受賞)。即興を多用した群像劇が得意で、役者たちがのびのびとそれぞれの持ち味を生かした演技を披露しているのが特徴。・・・といったところでしょうか?一見、皮肉や冷たさも感じるのですが、見慣れてくるとそれもまた「味」であり、「人間なんてそんなもんでしょ」といわんばかりの「アルトマン節」がクセになります(笑)。

「ゴスフォード・パーク」とは?

英国を舞台に、とあるカントリーハウスで週末に開かれる狩りと夕食会の様子を描いています。ディナーの後、家の主が何者かによって殺される。そして当日その家にいた全員に犯人の疑いが・・・といったあらすじです。そこに階上の貴族たち、さらには階下のメイドやバトラーたちが繰り広げる人間模様が加わって・・・という流れになっています。ミステリーの部分(犯人は誰か?)も興味深いのですが、そこに至るまでの登場人物たちの関係性もまた見ものです。

というのも、これまであまり描かれてこなかった英国上流社会の裏側が皮肉を込めて表現されているのです。このあたりを英国を代表するスターたちが嬉々として演じているところもアルトマン監督ならではでしょう。とんでもなく鼻持ちならない嫌な奴を痛快に演じてくれています。さらには演者のリアルな演技と演出も見どころの一つです。

アルトマン印と言えば「音声多重」方式でしょう

普通の映画にありがちな「カチっとした」演出とは少し異なり、どこかドキュメンタリーを観ているような感覚になります。特にアルトマンというと「音声多重方式」というか、役者が同時に喋り出すというものがあるのですが、この作品でもあちこちで多用されています。通常の映画、ドラマだと、一人ずつ役者が会話しますよね?でも、リアルな会話って時々同時に話し出したり、周りも個々に喋ったりしますよね?アルトマン映画はこのあたり一貫して「音声多重」になっています(実は初期の作品でこれを使ったところ、プロデューサーの怒りを買って降板させられたとか)。

超豪華!これでもかというレベルで主役級が登場!

役者陣も超豪華!まず女性陣はマギー・スミス、ヘレン・ミレン、クリスティン・スコット=トーマス、エミリー・ワトソン、ケリー・マクドナルド・・・といずれも一人で主役を張れる名優ぞろい。そして男性陣ですが、マイケル・ガンボン、クライブ・オーウェン、ジュレミー・ノーザム、アラン・ベイツ、デレク・ジャコビ、リチャード・E・グラント、スティーブン・フライ、ライアン・フィリップ・・・と新旧有名&実力派俳優陣が勢ぞろい!しかも「ちょい役」だったりするので驚かされます。当時若手だったケリー・マクドナルドやクライブ・オーウェン、ライアン・フィリップあたりは相当勉強になったでしょうね、これだけの役者陣と共演できたわけなので。

いよいよ本題のラストシーン(の一部)

ここに至るまでの過程はぜひ本編をご覧いただきたいので、割愛しますが、ご紹介したいのは家政婦長を演じたヘレン・ミレンの名演。ラストで彼女が「完璧な家政婦とは」というテーマで、新人役のケリー・マクドナルドに語るシーンです。ここの演技には本当に痺れます。

What gift do you think a good servant has that separates them from the others? It's the gift of anticipation. And I'm a good servant.
I'm better than good. I'm the best. I'm the perfect servant.
優秀な召使の持つ特質とは何だと思う? 先を読む能力よ。
私は誰よりも優秀よ。パーフェクトな使用人なの。

注:本編日本語字幕を参考にしました

この台詞を所在なさげな表情をしつつも、口調は自信に満ちているなんとも言えない絶妙加減で演じているヘレン・ミレンは一見の価値アリです。特に「私は最高、いやパーフェクトなの」のくだりは最高です。

映画に学ぶ「ニーズの先読み」の大切さ

話は変わりますが、これって使用人としてスキルだけでなく、誰もが(レベル差はあれど)身につけたいスキルだと思いませんか?「ニーズの先読み」というのでしょうか?「相手がこうしてもらいたい」と思っていることを、先に提供する。もちろん、時には間違えることもあると思いますが、繰り返し行っていくことで、徐々に「先読み」の技術が向上し、いつしか特技になったとしたら、物凄いアドバンテージになりますよね?シーンとは関係ないのですが、ここを見ると、自分への戒めのように聞こえ、ヘレン・ミレンの毅然とした口調に身が引き締まる思いがします(笑)。そしてこう続けます。

I know when they'll be hungry and the food is ready. I know when they'll be tired and the bed is turned down. I know it before they know it themselves.
先を読んで食事を準備し、ベッドを整える。言われる前にね。

注:本編日本語字幕を参考にしました

なんという自信!たしかに劇中の彼女はまさに「完璧な家政婦」。自身のすべてを犠牲にして家のために尽くす、すべてが完璧に進行できるよう、隅々まで目を配っている(というより「監視」?)。そしてこのあとにまた素晴らしいシーンが続くのですが、このあたりはご覧いただければと思います。

傑作シーンは即興で作られた!?

少しだけネタバレならぬ、裏話をご紹介すると、このシーンは当初の脚本には存在せず、撮影途中で追加されたとか。これはハリウッド映画では絶対にありえないことなのだそうです(ま、当然ですよね)。このシーン(と後に続くシーン)が含まれたことでこの作品がより一層深まったと思います。

どんな監督作品にも浮き沈みはあるわけで・・・

先ほど、アルトマン監督の代表作をご紹介しましたが、どの映画監督にもあるように、正直、当たり外れがあるもの。90年代群像劇の第三弾「プレタポルテ」は(私は好きですが)あまり評価されず、「相続人」や「Dr.Tと女たち」などは、「どうした?アルトマン?」という印象でした。そんな中、起死回生の傑作「ゴスフォード・パーク」で見事カムバック!

オスカー授賞式でのワンシーン

特に思い出深いのが、オスカー授賞式でアルトマン監督の横にデビッド・リンチ監督がいて二人で談笑しているシーンが放映シーンで映し出されていた場面です。このツーショット、すごくないですか!?この件については何人かの映画評論家もコラム等で書かれてしましたが、米国インディペンデント映画界の巨匠二人が話し込んでいる姿を見るだけでこちらまでニヤけてしまいました。いやー懐かしい思い出です。お二方は何を語っていたんでしょうかね?

アルトマン監督「その後の作品」は・・・?

この後は「バレエ・カンパニー」「今宵、フィッツジェラルド劇場で」というアルトマンにしては穏やかで優しい作品を発表しています。若いころの破天荒ぶりとは異なる、温かな眼差しを感じることが出来ます。もちろん往年の作品を好む方々には多少物足りないでしょうが(私も公開当初はそう感じましたが・・・)、こうして時を経て振り返ると、晩年期に相応しい作品だなと思います。

エピローグ~全員にはおススメできませんが・・・

決して万人におススメ!とか、ハリウッドの大作映画とは世界が異なりますが、概ねバッドエンディングはないですし、よくあるアート系映画の「ちょっと何言ってるかわからない」系でもない(あ、「三人の女」はちょっと不思議系かもしれません)ので、少し変わった作風にチャレンジしてみたい方にはおすすめの監督作品です。ただし、群像劇は時間が長いので要注意です。しかも短い会話シーンのウラに意味が隠されていたりするので、倍速NGです!(←当たり前か。笑)人間の本性が描かれていて、ドキッとするとともにクスっと笑えてくると思います。

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