2020年以降の日本に向けて。3つの課題と提案、そして問い。
【はじめに】2019年の紅白が示した希望
2019年の紅白歌合戦は痛快だった。トリがすべてを物語っていた。20年間、演歌界の貴公子をこなしてきた氷川きよしが「限界突破」の曲とともに、自らを脱ぎ捨てた。性差などあらゆるカテゴリー分けなんて超えていこうと。
そしてMISIAは、昭和の大御所達を横目に、それとは違うカルチャーを引っさげ、圧倒的な熱唱を見せた。自分よりも派手で大きなドラッグクイーンを牽引し、レインボーの旗を高らかに掲げた。
そこにあったのは、ありのままの自分を信じて体現していく姿と、混沌とも言える多様性の爆発。これは2010年代のソーシャルが生み出した成果であり、希望の種なのだ。
しかし、楽観はできない。個人の自由と多様性を前に、社会システムとのズレが生まれ、結果として日本には大きな痛みが生まれているように感じるからだ。個人、企業、国家それぞれの課題を乗り越えて、希望をつくっていけるか。それが2020年、僕らに問われている。
【課題1】孤人の時代
2010年代の偉大な発明の一つがSNSだった。インターネットの浸透とSNSの発明が、メディア構造を個人単位に分解した。それを僕らは「個人の時代の到来!」と歓迎したが、実際は理想郷とはほど遠かった。自由という名の競争がベースに敷かれ、横目を気にせざるを得ない「万人の万人に対する闘争」を生んだ。常に不安と不確実性にさらされ、そこにおいては許しや協調の観念すら存在しない。それはまるで、せまい鳥かごに無数に入れられた鳥のように、羽ばたく度にお互いを傷付け合う、いわば死ぬまで止まぬ不断の戦争状態。
実際、多くの人が自分ではない他人の物語に振り回されている。外の物語ばかり見ていると、その刺激に忙しくなり、内なる物語を育てることを忘れてしまう。かつての家族や会社のような運命共同体があれば良かったが、それも解体されていくなかで、社会に自らのポジションや役割を見出せない人は、孤独になる。2020年は、個人の時代ではなく「孤人の時代」がやってくるだろう。
【課題2】空洞化する企業
2020年以降、ますます人やモノ、お金の移動価値が下がっていく。その結果、ビジネスのあり方は激変している。日本企業が掲げてきた「グローバル化」とは別次元の戦いになった。GAFAのような巨大IT企業は、自動車メーカーのようにグローバル化などしていない。ただユニバーサルなプロダクトを構築し、世界中の個人にインフラとして提供している。(もちろんマーケティングや営業は各国にあれど、それはローカライズでしかない)
2020年、国内でその業界を統合し、事業展開していた企業は、ユニバーサルプラットフォーマーによって個人との接点を奪われ、競争力を急速に失っていくだろう。むしろ生産から販売までの自社保有しているビジネス資産が負担になり、身動きが取れない。資源を移動させる価値が下がっている今だからこそ、すべてのビジネスは自前発想からアライアンス発想に切り替えたほうがいい。
イスラエルでは、GAFAとのアライアンス(買収や提携)を前提にした、オフィスや営業など一切持たない単一機能特化型の組織が増えている。LVMHやユニクロと組むことを前提したブランドも出てきている。今思えば、2019年コンマリがNetflixと組んで、一気に世界中のファンを獲得したのはその先駆けだった。日産を追い出されたカルロスゴーンも凄まじいインパクトを残すに違いない。
2020年を皮切りに、ほぼすべての企業がプラットフォームとファンクションに二分化していく。そのときファンクションとしての個人と企業はフラットになり、従来の業界やエコシステムは無意味化する。BtoBとBtoCなどの区分も無くなる。そして、20世紀的なやり方を続ける日本企業は急速に空洞化していく。倒産、リストラも増えるだろう。
【課題3】居場所のない国
孤人化ともつながるが、国に居場所がなくなっている。イギリスでは、2018年の1月に「孤独担当大臣」が新設された。イギリスの人口の14%(900万人)が孤独を感じ、そのうち2/3が生きづらさを感じている。子どもの400万人以上。子どもを持つ親の25%。成人の20%。介護をする人の80%。難民の60%が孤独。65歳以上の360万人が「テレビが唯一の友だち」 。孤独には年齢が関係ない。政府は、2023年までに孤独を感じる人全員がボランティア・コミュニティ活動に参加できる仕組みを作るという。コミュニティが次の社会保障になる。
2010年代後半から、日本でも少しずつコミュニティサービスは増えているが、運営者が口を揃えて言うのは「おじさん寂しい問題」とあうこと。つまり、おじさんが著しく増殖しているというのだ。確かに多くの40歳以上のおじさんは金はあるが、家庭でも職場でも煙たがられて居場所がない。だからコミュニティがあると集まりやすい。しかしよく考えてみてほしい。日本の年齢の中央値は世界一高く、45.9歳!!!つまりおじさん問題とは、日本のど真ん中の問題なのだ。誰もが明日の身だ。
2020年、家族のあり方・持ち方ももっと自由になり、未婚離婚が増え、結果的に個人で暮らす人は多数派になっていく。仕事も複業が進み、会社への所属意識は薄まり、個人化していく。さらに大量のリストラと定年退職が重なる。家族と会社という二大コミュニティに支えられた20世紀的なライフスタイルがいよいよ終焉に向かう。
【提案】個人を肯定するサードコミュニティ
2020年以降、社会の変化とともに自分の価値観も変わり、今のコミュニティと合わなくなる人は続出するだろう。そのときにわざわざ自分を殺して、無理に仲間を続けなくていい。ありたい自分で居れるコミュニティを選べばいい。家族でもなく会社でもない、多様性を支える第3のコミュニティ。ありのままの個を解放できる場を、僕は「サードコミュニティ」と呼んでいる。
サードコミュニティは新しい生き方のセーフティネットとして、孤人化だけではなく、企業の空洞化も、国の居場所問題も解決していく、つなぎ役になっていくだろう。
僕が代表を務めるNEWPEACEで事業展開している、6curryやREING、今作っている本屋、そしてそれらの基盤となるコミュニティプラットフォームはすべて、このサードコミュニティの社会実装だ。2020年以降、僕はこれを一つの主題として、様々な組織とアライアンスし、その浸透に取り組んでいく。
【問い】日本に必要な力とは
コミュニティは一つの有効な方法論だが、魔法の杖ではない。夏目漱石が「自己本位論」で述べたように、まず自己を確立してないと真に他人や他なる価値観を受け入れることはできない。氷川きよしやMISIAが表現した多様性も、それぞれの自己が先にあってこそ生まれるものなのだ。
2020年はオリンピックの年だと、メディアは煽る。1964年がそうであったように、2020年の東京オリンピックもなんだかんだで盛り上がるだろう。しかし外部が設定した物語で成長を感じられるのは限界にきている。祭りが終われば、日本はこれからどうするのかを突きつけられるだろう。
ビジョンの欠落。これは日本という国の課題だ。戦後のテンション(高度経済成長)によって形作られたアイデンティティから抜け出せていない。いつまでも大量の新品を作って消費して捨てるみたいなことを経済の原動力にしていては、人口が伸びている安価な労働力の国に負ける。資源が少なく人件費が高い日本だからこそ、「テンションからビジョンへ」と戦い方をシフトする必要がある。
ビジョンとは、社会アジェンダとも言い換えられる。それを設定して、その競争に持ち込めるかどうかが重要だ。それを僕は「VISIONING」と呼んでいる。2019年、世界の関心事となった環境問題は「脱炭素」というアジェンダセッティングの時点で西欧のゲーム。どれだけ日本が真面目にプラスティックをリサイクルしててもそれは競争力にならない。
日本が強い観光産業も同じだ。オランダ政府はいち早くオーバーツーリズムを問題視し、「量より質」「居住者最優先」という方針転換を行った。今後、観光を短期の移民政策として考えると、居住者と旅行者間のあつれきや格差拡大は無視できない。観光はプロモーションフェーズから、マネジメントフェーズへと新しい設定に入ったのだ。
これからは、国家においても個人においても、「自己設定力」が最も重要な力になる。
あらゆる情報が爆発する中で、外の目や物語に流されずに、内の物語に目を向けて育てることができるか。自分の道を信じられるか。それは自分で自分を評価するということでもある。これまでのように誰かが用意してくれた設定を生きるのではなく、自分のビジョンを持ち、独自の価値軸で設定して行動・評価を積み上げていかなければならない。
2019年にラグビー日本代表の大躍進が盛り上がったように、現代人は「昨日より今日、今日より明日」と成長していく物語を求めている。残念ながらその欲求はなかなか変えられない。それでは人口減少国日本は、どういう戦いの中で、何を学び、何を増やしていくのか。そろそろ右肩下がりのGDPではない、別の指標が必要なのかもしれない。そのためには自分たちがどういう社会を生きたいか、自己設定が問われるようになる。
【おわりに】
あぁ、新年の抱負を書くつもりが、気がつけば日本への問題提起文になってしまった。カバー写真に設定した息子に申し訳ない。しかし、僕は日本に悲観的なわけではない。むしろこれだけ変化が求められてる、問いだらけの時代。新しい社会をつくっていけるチャンスにワクワクしている。これからは自分たちの時代だ。さて2020年以降、直面するだろう「孤人の時代」「空洞化する企業」「居場所のない国」そして「自己設定力」。それらの課題に対して、あなたはどう向き合いますか?