【特別公開】日経インタビュー書き起こし全文 #6curry
年末、6curryの代表として、日経新聞の2020年頭特集「逆境の資本主義」のインタビューを受けた。その内容は、1月8日の朝刊一面に掲載され、多くの反響があった。
インタビュアーの方がすごく気持ちいい方で、沢山お話してしまった。せっかくなので、そこで語ったことを、記録も兼ねてこのnoteに綴っておこうと思う。「これからの消費のあり方」について、興味ある人は読んでみてください。
(以下、許可を得て全文掲載しています。僕の答えはそのままですが、記者の質問は意味を変えない範囲で改変しています。)
―なぜ、6curry KITCHENのような場所を作ったのですか?
現在CEOを務めているNEWPEACEの一事業としてスタートしたのが6curryです。NEWPEACEは「20世紀的なシステムからの解放」がビジョン。今まで、みんなが同じように働いて、同じように消費するのが豊かさでしたが、それって終わりつつあるのではないかと疑っているんです。そうじゃないものを、21世紀的な価値観のものを世の中にもっと広げていくことが、結果的に多様な世の中作っていくんじゃないかと。NEWPEACEでは、シェアリングエコノミーとか、SDGsとかを仕掛けている会社と一緒に世の中に新たな潮流を広げています。ビジョンを作って、それを表現に落として、世の中に訴えかけるということをやっている。企画制作会社であり、コンサルタント。それをパートナー企業と一緒にやっているうちに、もっと自分たちで実験したいな、何かやれないかなと思っていました。
きっかけはなんでもよかったんですけどね。たまたまヨーロッパ行ったら、ラーメンが広がっていたんです。ラーメンで起業すれば絶対にうまくいく、みたいな勢いで。たしかにラーメンっていろいろ進化していて、日本食として理解されているけど、僕はカレーのほうがもっと自由でおもしろい食べ物だし、カレー使って何かできないかと思いました。最初はUberEATS専門店としてデリバリーに特化したカップカレーなんかを作ったりしていたんですけど。色々と小売業をやっているうちに、根本的に、消費の仕方自体、もの買うとか、何かを所有することの豊かさって今もう変わりつつあるなと感じて。
例えば、食べログ4.0以上のところいっても、それが自分のアイデンティティーを形作ってくれるわけじゃない。みんなもっと、何者かになりたかったりとか、自分の居場所のほうがほしかったりするんじゃないかなと。カレーのような広い受け皿をフックにして何ができるかを考えるほうが、今らしいチャレンジができそうだなと。そう考えたとき、お店側とお客側を分けて経済合理的な形で売るのではなくて、非合理的な構造にして、みんなで一緒に作るような場のほうが、結果的に豊かな消費行動になるかもなと思いました。その実験のかたちが「6curry KITCHEN」という場。
―コンセプトとして大事にしていることは何ですか?
僕らはカレーを売るというより、コンセプトは「EXPERIENCE THE MIX.」という、混ざることを楽しむことを掲げています。カレーはきっかけなんです。あえて6curryレストランとか、ストアじゃなくて、キッチンとしているのは、作る場だから。イメージしてほしいのは、修学旅行とかキャンプとかで、みんなで一緒にカレー作ると仲良くなるじゃないですか。体験としては、あれです。お客さんがキッチン中入って一緒にサーブしたりとか、または会員さんが得意なことを持ち寄って、最近ハマってるローストビーフが〜とか、地元のお酒が〜とか、うちの地域では今こういう食材が旬だよとか、コラボレーションしてカレー作ったりとかして。
カレーって、だいたい何を混ぜてもうまくなるのがいいんです。結果的にそこで新しいつながり生まれたり、関係性が濃くなるみたいな。会員費は、月3980円なんですけど、なんのお金かよくわからないですよね。1日1杯食べられる権利があったりとか、1日店長やれる権利とかあったりするけど、あえてこうだからこの値段とは、はっきりさせてないんです。僕らとしては、別にカレー代だとは思っていないですよ。とはいえ毎日のように来たら、すぐ元取れちゃいます。めっちゃ来店する人ももちろんいますが、明らかにgiveしてることを自覚するから、スタッフのようにめっちゃ働いてくれるんですよ。僕らもお金もらっているから、カレーだけでなく、イベントなんかで関係性が生まれるコンテンツを作ったり。サブスクという形ですけど、これは企業側もユーザー側もお互いが、相手に対しての最適な価値を出し合うことを創発するビジネスモデルだと思うんですよね。
例えば、500円のビール買っても普通はそれで終わっちゃうじゃないですか。等価交換が起これば、関係性は終わる。関係ってどっちかに偏りがあったりとか、重みがあると続いていくわけです。人間関係と一緒だと同じ。誰かにおごったら、お世話になったねとお返しがあったりして。お裾分けもそういうもんだと思っていて。あえて続く関係性を作りたいなと思って。サブスクというかたちでやることで、めっちゃくる人はどんどん関わってくれるし。そういう場になっているのかなと思う。もちろんビジネスとしての側面もあるので、やりながら最適解を探ってはいるんですけれど。お裾分け制度っていうのもあって、勝手に持ち込んでOKで、その代わり僕ら代わりに売っちゃいますっていう。それもあくまで関係性を発生するための装置なんです。
―関係性を発生させる、人と人を混ざり合う場を作ろうと思ったのはなぜですか?
そういう場って、わかりやすい言葉だと「サードプレイス」ですよね。1989年にレイ・オルデンバーグという人が書いている本があるんですけど、おもしろいことを言っていて。サードプレイスって家庭でもない職場でもない第3の場所ですが、なぜサードプレイスが必要なのかというと、個人になれる場所だからだと言っているんですね。家族のなかでは役割は一定ある、役割はあることは別にいいことなんですけど、会社のなかでも肩書がある。フラットな個人にはなれないんですよ。個人になれる場所がサードプレイス。
その人アメリカの社会学者なわけですが、「アメリカ社会の不幸は、あらゆる余暇がすべて消費に回収されてしまう構造にある」とも言ってるんです。日本もアメリカ的な消費社会だと思うんですけど、会社の外でると消費しかないんですよ。僕もそれすごい思っていて、2011年に会社辞めた時に、会社やめた瞬間、なにかを生産する場所がない。今でこそコワーキングスペースとかできてますけど、当時は全然なくて。消費って長期の関係性を構築する手段になりづらいじゃないですか。何かを作ったりするほうが、そのプロセスの中で深く互いに交わり合えるというか。文化祭で仲良くなるのも一緒ですよ。そういう場が今の社会にはないなと。アメリカでいうと、教会とかコインランドリーなんかが一部サードプレイスとして機能していたみたいですけど。日本はほとんどないなと思っており、能動的に参加する場をつくりたいなと。
それを作ることで、仕事にはならんかもしれないけど、趣味でマジックやっている人も、ただの消費で終わらせるんじゃなくて、誰かを喜ばせることができれば、小さな生産活動になるじゃないですか。それを応援してくれる人がいたら、もっと上達するエネルギーになるかもしれないし、おもしろいねって話から何かプロジェクトが立ち上がるかもしれないし、そういう場があるといいなと思ったんですよね。もちろん、カレー食べながら、最近こういうことあったなんてという話している人もいますよ。ただ他のいわゆる飲食店と比べると、知らない人同士が、こういう仕事しているんだよね、しかもそれが会社以外の仕事とかを、紹介したり、話あっていて、個人としての自分の活動をお互いプレゼンし合ったり、共有することで、結果的になんか一緒にやろうよってなったりしていると思いますね。
―会社でも家庭でもない、個人を求める人が増えているんでしょうか?
個人になって、もっとフラットにいろんな人とつながりたい、交流したい人が多いんじゃないですかね。それって必然的なもので、副業や複業、働き方改革が進んでいき、年々急速に会社自体の濃度が薄まっている。終身雇用みたいに、ずっと会社を人生として生きていきますっていう人はほぼいないと思うんです。会社があって自分があるではなくて、自分があって会社がある。家族もそうで、選択的に独立を選んでいる人が増えている。あえて籍いれないとかもそうだし、シングルもそうだし、両方から個人になっているんですけど、それって油断すると孤独になっちゃうと思うんですよ。孤立しちゃうというか。新しいキャリアにチャレンジした人ほどそうなってしまうリスクがある。
だから6curryは、新しい生き方、ライフスタイルを手にしようとしている人たちにとって、居心地のいい場所にしたいと個人的には思っていますけどね。僕は日本社会全体にこういう装置が必要になっていくと思う。種類ちょっと違うけれど、イギリスとかって孤独担当大臣とかあって、政府でコミュニティカフェとか作っている。日本も、悲しい話でいうと、早期リストラとか、老後の人とか、居場所がなくなる人は今後、びっくりするくらい増えていくと思うんです。僕らは今、若い人寄りでやっていて、良くも悪くも個人になってしまう人たちが交流するサードプレイスですけど、この流れは世代問わず広がるでしょうね。ハードとしての第3のプレイスってことだけはなく、ソフトとしてのコミュニティーっていう意味を強調して、「サードコミュニティー」と最近呼んでいます。会社と家族の二元社会だった日本だからこそ、これからサードコミュニティは必要になると思う。
―今は、どんな人をターゲットにしているんですか?
一言で言えば、スラッシャー。SNSでスラッシュで書いているような、つまり複数のテーマを持っていたり、複数所属しているような人です。副業したりとか、そういう話をしたり、会社や家庭とは違う顔をみせる。それが、若い人だけでなく、おじさんにも広がっているんだなと。年齢は幅広いですよ。中心は30代くらい。けっこう仕事とか、パラレルキャリア化したり、転職考えたり、そういう人たちが多いかなという印象。 渋谷区って土地柄もあるかもしれません。
―どうして1日店長など、参加できる仕組みを色々取り入れているんですか?
きっかけづくりですね。キッチンに入ることを、僕はイベントで登壇するのと一緒だと思っていて。トークイベントは聞きに行くよりも、喋る方が有意義なんです。考えるし、みんなみてくれるから繋がりもできるし、なんなら主催するほうがいいんです。大変な分、関わりが増えるから。普通に座ると、隣の人としか喋れる。中に入ると10人と喋れる。しかも自分がプレゼンできることがあると、知ってもらえる。
SNSもそういうことできるけど、SNSは競争が激しすぎて、ほとんどの人は埋もれるから、オープンなチャンスだけど、そこからのし上がれるのって、すごいコミュニケーションにたけている超一部の人だけ。リアルのよさって、オープンじゃないからこそ、安心感もあるし、注目してくれる。全体として参加する人の数は実は重要ではなくて、自分が関わった人の数と濃度が充実度になるんです。
関わるきっかけづくりは、スタッフの役割だと思っています。だから僕らはスタッフのことを「MIX STAFF」と呼んでいます。みんな関わりを持ったり、知ってもらうための機会を求めている。そこをちょっと背中をおしてあげる。コミュニティにはおせっかいおばちゃんが必要というか。自分からテーマをもって知らない人に話かけるのってけっこう難しいと思うんですよ。大道芸でもない限り。そういう場の設定を与えてあげる。設定があるとやる人ってけっこういるんですよ。場の設定を店長だったりがしてあげる。
僕昔シェアハウスやっていたんですけど、関係性が充実したり、自分自身のアイデンティティーが見つかったり確かなモノになることが幸福度を感じると僕は思います。でも、それが入り口だと抽象的だから参加しづらい。シェアハウスもみんな、ほぼ経済的理由から始めるんですよ。安いとか、会社から近いとか。でも住みはじめると、仲間がいいとか、居場所ができたとか、そういうことに意義を見出して住み続けるわけです。最初からそれを自覚できている人ってほぼいない。経験するうちに、この場いいな、この人たちといる時間いいなとか、俯瞰してみると、関係性が広がったってことなんだけど。関係性を広めたいか?と聞いても本人たちは答えられないと思います。意味は後から分かってくるものなので。
―ミレニアル世代の消費性向は、モノからこうしたコミュニティや場に移行していくんでしょうか?
そうですね。お金使わないですよね。僕はファッションが好きだったから、ファッションブランド立ち上げたんです。でも自分でもなかなかモノを買わないなと、自己否定してしまうことがありました。何に自分がお金使っているか考えたら、食でした。なんで食にお金使っているかといったら、何かのプレートを食べたくて行っていることなんてほぼありません。だれかとの関係性深めるための時間だから行っているんです。初めての人と、ミーティングスペースで喋るのって大変ですよ。ごはんとかお酒飲むリズムがあることで、仲良くなる。食にお金を使っているのは、つまりは関係性に投資しているのではと思いました。関係性に投資することで、結果的に自分がアイデンティファイされるというか。
――「共感」は消費のキーワードですか?
小説とか映画みて、これおれの話やんっていうのが、最強の共感だと思います。自分の体験を肯定したり、過去を肯定したり。結局、共感は自己投資、自分を好きになるっていうことだと思う。それをしている自分が楽しい。6curryで店長をやるとか、そういうことも、最終的には自分のことを好きになっていくのがゴール。俯瞰した目線でみると、それが共感しているとみえるのかもしれませんけど、相手を自分のことのように思うとかはないと思う。相手を通して自分のことを考えているんだと思うんですよ。相手のことが重要だったら、こんなSNSでみんな発信しないと思う。みんな自分の話を聞いてほしいし、そのきっかけを求めているだけだと思う。
昔はそれを、服買ったりとかで、自分を形作ることだったけれど、今は第1印象とかも、その人の見た目から入るってほぼなくて、ネット上の情報や活動とかになるわけで、そういうものを作るほうが、ファッションになってる。しかもすごいコピー可能になっているから、貴族しか服買えない時代はそれがファッションだったかもしれないけど、誰でもそれっぽいもの買えちゃうし、全然アイデンティティーにならない。それより、ユニークな活動しているほうが全然アイデンティティーになるし、だからみんな自分の名刺、オリジナルの肩書とかほしいと思うし。それがファッションになっている。自分の価値を積み上げるための生産的消費をしている感じがありますね。
―6curryのようなコミュニティーの価値って、今の仕組みだと可視化されにくいですよね。資本主義や自由競争に違和感などを感じることは?
資本主義で価値化できていないことたくさんあると思っています。シェアリングエコノミーもそうだけど、資源が回っているのに、そこは経済化されないものってありますよね。家事って、GDPにはいらないけど、家事代行にすれば入るわけですよね。どっちが効率的で、どっちが最適なのかはよくわかんなくて。ボランティアとか、6curryのなかで起きている小さい経済活動とかも、そのもののほうが豊かにしている可能性もある。そういうものがたくさんでてきて、そういうものの価値を大事にするようになってくる気はする。
時間の価値って相対的に上がっていると思う。お金の価値は相対的に下がっていて、つまり、技術革新とかも起きることで使わなきゃお金が減ったりとか、でも時間は変わらないから、不死になっているとはいえ、年はとっているので時間の価値はあるわけで。というときに、飲食店って、金銭的なリターンで見れば美味しくこないですよ。ビジネスとしては相当きついものある。東京って毎年5万店舗生まれて、5万店舗つぶれるらしいですけど、この過激な自由競争が豊かな食文化を作っているともいわれるらしいですけどね。ただ飲食店やって思ったのは、時間価値がすごい。ふつうに2時間とかいるんですよ。しかも、めっちゃロイヤリティある。それってすごい価値だと思うんです。
インターネットで、ひとりあたり月何分、マインドシェアとるだったり、メディアで滞在時間何分ですみたいな細かい話とかよりも、普通に2時間くらいいるんです。それは換金化できていないわけで。そこに可能性を感じている。経済価値化されていないから重視されていないけど、幸福度けっこう高いのではないかと、その場にいる時間は。ほかの例でいうと、子育てしていると公園とか行くんですけど、公園ってすごい価値生んでいると思う。それ自体に収益性はないのに、公園のまわりのマンションは収益性あがりますよね。公園みたいな仕事したいなと。経済社会では換金されていないけれど。
もうひとつ、資本主義については自由競争になればなるほど、自由恋愛になればなるほど、こぼれる人でてくるわけじゃないですか。それをどうするかはまじでイシューだと思うし、貧困化していくと思うんですよ。日本もしつつあるといわれますけど。それは考えなきゃいけないなと切実に思います。
―6curryは、今後どのようにしていきたいと考えてますか?
街の機能にしていきたいと思っています。個人としてフラットつながる場とか、自分が活動をプレゼンして知らない人と仲間になる機会って、これから必要になると思う。まずは渋谷区を中心にそういう場所を幾つもつくっていきます。自分たちも飲食初めてなので、コミュニティーがどうやってできるのか実験しています。それをやりながら街のなかのひとつの機能として展開を考えていきたい。イメージで近いのは、蔦屋図書館ですね。あんな感じで公共的な機能と結びついたり、公民館みたいになったりしてもおもしろいかなと。カレーはきっかけなんです。コンテンツは人。でもきっかけはないと始まらないので、それがみんな大好きでコラボ自由度の高いカレー。それが6curry。食とコミュニケーションはめちゃくちゃ相性いいと思うし、これからサードコミュニティは公共機能になっていくと信じてますよ。