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仏教とフォーカシングの交差(1): 仏教との思いがけない出会い直し

「仏教」と「フォーカシング」の交差。以前から密かに、じっくりと考え続けているテーマです。ここ最近、ご縁がまたご縁を呼び、お話しする機会もいただいただいたので、仏教に関心を持つに至ったきっかけやその転機を少しずつ書いていきたいと思います。
※最後にイベント告知がございます。

2015年、深圳

お話は2015年に遡ります。この年の10月、中国・深圳にて、中国国内のフォーカシング&フォーカシング指向心理療法のカンファレンスがあり、当時の指導教官だった池見先生についていって参加、僕個人でも口頭発表の機会をいただきました。
当時の深圳はすでに「中国のシリコンバレー」と呼ばれ始めていた頃。到着してすぐ、とてつもなく大きく綺麗な空港にまず圧倒されたのでした。

深圳の空港。息を呑む美しい建築。

前夜祭からとんでもなく美味しく、とにかく「大量」の料理にこれまた圧倒され、すっかり大陸の凄さに気負ってしまったことを覚えています。マイクの音量も「大陸的」でした。

個人での口頭発表の時間となり、フロアには60-70名ほど。日本から来た院生が話すということで、皆さん関心を持ってくださっていたのでしょうか。日本で発表してきたよりも遥かに多い数の聴講の皆さんに対して、当時ようやく考えがまとまり始めてていた研究のアイデアをお話さした。「フォーカシングとメタファーの機能」の論考、そして「"なぞかけ"にみる交差の機能」という、自分の「本ネタ」で臨んだのでした。

フォーカシングでは、フェルトセンスに問いかける(asking)というプロセスを重視しますが、その際にいかにメタファー表現が重要な機能を担っているのか、ジェンドリンの用いる「交差(crossing)」の概念から捉える、という趣旨です。その時、「フォーカシングとは、いわば"なぞかけ"である」という、それこそメタファーを用いて、フォーカシングの創造的で探索的なプロセスの特徴を際立たせ、より精密に捉えることを狙ったものです。結局、これが僕の博士論文のテーマの中核な部分に至ります。

右の兄ちゃんが僕、隣の方は通訳の洪さん。非常に丁寧に訳してくださいました。

とても緻密な通訳をしていただいき、かつ、通訳が入るために僕自身も、普段よりも極力シンプルに、かつ、ゆっくりと慎重に言葉を選びながら話をしたことも功を奏したか、自分で言うのも何ですが、この時のプレゼンテーションはフロアから大変好評をいただき、その後も大会中にたくさんの方からコメントや質問を受けることができました。個人的にも、このアイデアはいけそう、と確信が持てた大きな転機となった発表でした。

発表の翌朝、相変わらずのテーブルを覆い隠すほどの朝食をいただいていると、大会のホストであり、中国のフォーカシング協会にあたる集まりのリーダーでもある徐钧先生が声をかけて下さいました。昨日の発表で聴きたいことががある、と。一緒に、長年日本にも住まれている日本語通訳でもあり、同じく中国でフォーカシング教師をされている李明先生も来ていただいて、日中訳をお願いしました。朝から、みんなで飲茶を囲みながらのフォーカシング談義です。

3泊4日の短い日程が、10日分くらい食べた記憶。食文化の中国。

徐先生は仏教学など大陸の思想の研究者でもあり、李先生も仏教瞑想の実践家でもありました。このお二方は国際フォーカシング研究所のコーディネーター(フォーカシングのトレーナー資格を養成する立場)で、実はのちに僕のフォーカシング・トレーナー資格のトレーニングをお願いすることになるのですが、それは未来のお話。

飲茶を突きながら、徐先生が最初に僕にした質問は、意外なものでした。

「君は、臨済禅からどのような影響を受けているのか?」

虚を突かれたような問いかけでした。

禅問答・なぞかけ・フォーカシング

「君の昨日のプレゼンテーションの中心的なもの、交差や問いかけに関する考察は、臨済禅に見られる公案(禅問答)とそっくりだ。どのような影響関係にあるのか?あるいは仏教的なテーマに個人的な関心があるのか?」というのが、徐先生からの問いでした。

あたらめて考えてみれば、確かに禅問答となぞかけは、解けそうで解けない問いに向かい続ける、探究し続けるプロセスであり、そこには創造性が、しかもいわば己そのものを変化させるような根本的な創造性が求められる自己変革のプロセスだとも言える。そして、いつもではないにせよ、フォーカシングでもそのようなことは生じる。少なくとも、フォーカシングの考案者ジェンドリンは、自身の哲学の議論では、そのような創造的な過程を自分の思想の中心的なものとして志向している。

徐先生に言われてみて初めて、自分は仏教、それも臨済禅、公案というものから何か影響を受けているのか、改めてということになったのでした。実家は浄土真宗系、でも初詣にはよく密教系のお寺へ…。実は道元の入門書を読んだことがあったり、大学の仏教学の演習の授業で「正法眼蔵」の講読を受けたこともあった。道元の思想には惹かれたことがあったけれど、でも臨済禅に関してははあまり記憶に浮かばない。

「僕は臨済禅からあんまり影響を受けてないかもしれません」とお答えしようとした時に、ふと頭をよぎったのは、大学生の時にいっとき(ひょっとしたらジェンドリンよりも)ハマったのが、哲学者の西田幾多郎であったことを思い出す。鈴木大拙の盟友で、自身でも参禅していた西田…。そう、西田幾多郎の特に中期から後期以降の、「論理と生命」などの生命論、そして場所の論理や述語論理など、「はたらき」についての言語論に惹かれて、読み漁ったことがあった(かぶれたと言ってもいい)。その時に、主語ではなく述語、個物ではなくて場所、主題ではなくて背景的に機能するものと、ジェンドリンの「暗在(the implicit)」の機能との関連に、ずっと関心を持ち続けた。3年生の最初のゼミのレポートで一番最初に書いたのが、確かそんなことを論じた「西田哲学とフォーカシング」だった(生意気にもセッションの分析などもした記憶が)。

確か、その時は、徐先生には「西田幾多郎を通じて臨済禅から影響を受けたかもしれない」と李先生の通訳と漢字まじりのメモを共有しながら説明したと記憶しています。そこから公案とフォーカシングの関連や、仏教以外の道家や八卦との関連など、引き続き飲茶をいただきながら色々とレクチャーをしてもらい、気がついたらもうお腹いっぱいという(字義通りの意味でも、比喩的な意味でも)。いくつかの重要な文献の情報共有をいただいたり、貴重な時間となったのでした。

2019年のAFIC第2回アジア大会(上海)で再会した徐先生。出産祝いのお守りをいただきました。

また、この時には李先生からも、日本でいう「三段なぞ」と呼ばれるタイプのなぞかけ("回転寿司"とかけて、"影の支配者"と解く、その心は…”裏で握っている”みたいなもの)は、中国文化にもあるということをお教えいただいた。これも、なぞかけなどの言葉遊びに見られるフォーカシングの遍在性という、のちの自分の研究テーマにつながる重要な示唆となります。

こちらは2017年のAFIC第1回アジア大会(神戸)で李先生と。
池見研究室メンバーで執筆した本の中国語版訳者でもある。

中国で「なぞかけ」とフォーカシングについて話す中で、思いがけず出逢い直すことになった公案との関連というテーマ、そしてその先にある「仏教とフォーカシング」という大きな主題。これ以来、特に禅問答(Zen riddle)となぞなぞやなぞかけ(riddle)という「謎」をめぐる考察が大きな関心ごととなり、それは今でも続いているのでした。

この時の交流はとても大きな契機となりました。フォーカシングの本質を煎じて煮詰めようとしたときに、不意に1つの「謎」として、思いがけず出会い直したものが、仏教、それも臨済禅に顕著な公案、禅問答だったのです。それ以来、いつも頭の隅には、「仏教とフォーカシング」という”公案”がいつも存在ています。その後も定期的に行なっている李先生とのディスカッションだけでなく、今は日本も仏教実践者、そして僧侶で心理士の方々(!)との思わぬ巡り合わせ、交流が生まれ、この探求は更なる展開へと進んでいくのでした。

(次回へつづく)

【告知】オンラインイベントのお知らせ

「フォーカシング・プロジェクト」主催の『ジェンドリン哲学や仏教を体験的に語り合おう』という企画にお招きいただき、なぞかけとフォーカシングのお話をいたします。僕は「禅問答となぞかけで際立つジェンドリン哲学〜問いかけのコツ〜」という視点から話題提供を行い、ひとりでも実践しやすいセルフケアとしてのなぞかけフォーカシングのお話をいたします。
またこれを受けて、心理士であり、僧侶でもあり、フォーカシング・トレーナでもある土江正司先生からは、「人生からの問いかけに気づいてますか? ~仏教的思考法に触れる~」というテーマでお話いただく予定です。ご参加の方とのディスカッションの時間もたっぷりとっておりますので、ご関心をお持ちいただいた方はぜひご参加ください。事前申し込みなしでどなたでも直接参加できる無料企画です。

ご参加をお待ちしております。

<詳細>

「ジェンドリン哲学や仏教を体験的に語り合おう」 (その3)
期日:3月6日(日) 14時から16時 オンラインZOOM

話題提供者 : 岡村心平(ジェンドリン哲学)
        土江正司(仏教)
司会    : 笹田晃子(フォーカシング・プロジェクト代表)

トピック: Focusing Project_ジェンドリン哲学 × 仏教 企画
https://jwu-ac-jp.zoom.us/j/96067715558?pwd=T2QrWW0wUm9rUDV1WkdmdUpwVW9WUT09
ミーティングID: 960 6771 5558
パスコード: 631364

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