見出し画像

ノヴェッロの季節がやってきた

 以前イタリアのウンブリアからトスカーナにかけてドライブで周遊したことがある。ウンブリアといえば聖フランシスコ会の聖地である巡礼地アッシジ、トスカーナといえばイタリアルネサンスが花開いた大人気観光都市である花の都フィレンツェや、そのフィレンツェと覇を争った芸術の町シエナなどがよく知られている。

 ドライブ旅行の時には、もちろんこうした有名な町にも立ち寄ったのだが、それ以上に心に残った情景は、丘陵地帯に続くブドウ畑や、その合間の丘の上に点在する、大都市以上に中世の歴史をしっかり感じることのできる小さな町。特にトスカーナでは地元の美味なワインを求め、キャンティ、モンテプルチャーノ、ピエンツァ、モンタルチーノ、サンジミニャーノ、グロッセートなどを訪れた。

 レストランのウエイターは自慢げに地産ワインをすすめ、酒屋のオヤジは〈いかに地元のワインが素晴らしいか〉〈地元のワイナリーごとの味の違いはどうか〉をじっくりと説明してくれた。訪れた何カ所かのワイナリーでのワイン試飲体験も楽しかったし、まるでガソリンスタンドのように給酒レバーを扱ってセルフで日常飲みワインを瓶に詰めて買っていく地元の人の姿には驚いたりもした。アグリツーリズモ(農家宿泊体験施設)では、敷地内に広大なブドウ畑があった。僕が訪れたのは初夏で、畑を歩いて見たブドウはまだ色づく前の淡い緑色。ヨーロッパ特有の乾燥した暑いひと夏を越えると、糖度が増しブドウも色づく。9月半ばから10月には、トスカーナはもちろん、イタリア全土でワイン用ブドウの収穫が始まる。

note-ノヴェッロ02

ワインの量り売りは給酒レバーで

 そして10月30日。その年の新酒ワインであるヴィーノ・ノヴェッロ(通称ノヴェッロ)解禁日を迎える。日本でワインの新酒というと、毎年11月第3木曜日解禁のフランス産ボジョレー・ヌーヴォーばかりがもてはやされているが、ヨーロッパの主要ワイン生産国や日本の山梨などでも新酒ワインを心待ちにする人が多く、解禁日が決められている。イタリアの場合は2012年から解禁日が毎年10月30日と決められている。ボジョレー・ヌーヴォーのように産地、ブドウの品種の限定などはなく、もっとおおらかに――そう、イタリアらしく!――イタリア全土の産地、各ワインメーカーが造るさまざまなブドウ品種で、新酒を楽しむのだ。数は少ないが白ワインのノヴェッロもあるという。僕が訪れたトスカーナだとキャンティクラシコに使われている、肉料理によく合う赤ワイン種のサンジョヴェーゼを使ったノヴェッロが一般的だろうか。

 現地の情報を読むと、今年はイタリアのどの地方でも、かなりいいワインが出来ているらしい。僕も当日はノヴェッロを手に入れるつもり。新酒ということもあり、比較的軽めのワインで、本場イタリアでは焼き栗やきのこ料理を合わせることが多いと聞く。
 明日、日本でもノヴェッロが解禁される。今年はどんな味なのか、自宅で、きのこのフリットなどイタリア風前菜と一緒に味わうのが、今から楽しみだ。

(2020年10月24日 秋田魁新報『遠い風、近い風』コラム掲載を一部修正)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?