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「制約」って意外にいいものかもね!

先日、はじめて賞をもらった!!

よく考えたら20年以上仕事しているけど、今までデザインで何か賞的なものをもらったことってなかった。

造本装幀コンクールというものがあって、
そこで「日本印刷産業連合会会長賞」なるものをいただいた!

第57回受賞作品
日本印刷産業連合会会長賞「逆風に向かう社員になれ(特装版)」
出版社:Gakken、装幀者:井上新八、印刷・製本:大日本印刷

初めてのことだったので、めでたい!と思っている。
ただ、これを知ったのが、たまたまXで投稿が流れてたのを目にしたからで…
編集者からも、誰からも連絡がきてない!?
なので、わたしとは無関係なのかもしれないという…。

実際、この本。
何がすごいってデザインではなく造本なのだ。

とにかく造本がすごい。
わたしがデザインを担当した本では過去いちばん予算のかかった本だと思う。

箱の内側の見えない箇所に社名を箔押したり(写真にしても見えにくい)、

表紙は布張りに銀の箔押しをした上に、黒い紙を貼ってそこに銀で印刷して水墨画のような世界を作ったり、加工にもめちゃくちゃ凝りまくって、

見返しには銀と黄の糸がランダムに練り込まれた「てまり」という紙を使って有機性を出してみたり、

本文用紙に和紙の風合いの新局紙を使ったり、

もっと細かいところもいろいろ手が入っていて、細部の紙から、インクの種類まですべてにこだわってつくられた。
一般流通させるものではない「特装版」だからできることだと思うけど、とにかく見える部分も見えない部分も、とことん作り込まれた1冊(ページの最後に仕様書を載せておきます)。

なので、デザインがいいというより、印刷と造本がすごい!ので、印刷所がいただいた賞ということなのだと思う。

この本のデザインへのオーダーはひとつ。
「何でもやっていい」だった。
つまり制約なし。
何やってもいいし、予算は気にしないでいい
ということだった。

まじ!?何でもやっていいの?って思って、最初は大喜びだった!
ただ、やりながら思ったのは「好きに何でもやっていい」は、けっこうツラいってことだった。

制約がないって、けっこうきつい。
やりながら「制約って大事じゃね?」ってなった。

とにかく、何でもやっていいとなると発想ってなかなかわいてこない。
「特装版」で流通もしないから、「売る」ためのことを考えなくてもいいし、とにかくすべてがオールフリー!

そうすると、どうなるか…。
うーん、何していいかわからねーー!!!
ってなる。

やっぱり、ある程度何かのしばりがある方が、制約がある方が発想ってしやすいんじゃないか?

制約、つまり制限のよさって何かというと「選択肢が減らせる」ということだ。

制約があることによって「これとこれとこれはできる」という状態で選択肢が生まれる。
これが大きい。
もっと制約が厳しくなると「これとこれはできる」けど、そのどっちかしかできないという状態になったり、より選択肢が減っていく。
より強い制約がかかることで「できる」ことがかなり限定的になる。
これをすごく窮屈に感じることはあるけど、でもじつは限定されることで、その一点に注力してそこだけを磨くという集中力を生む作用を生んでくれてもいる。

じつは制約が、発想の幅を広げてくれてるんだなと、そう思った。
そう考えると「制約」というのはとてもありがたいものだなと思えてくる。

「締切」という概念も同じだ。
ものづくりをしているとたいていは締切に苦しめられる。
でも、締切のないもの作りを想像すると、どうだろう…。
いつまで時間をかけていい、となると永遠に手を入れ続けて終わりが訪れない可能性がある。終わりが来ない地獄。
そもそも「いつまで」という期限が限定されることで、重い腰を上げてつくりはじめられるわけで、締切がなかったら作り始めることすらしないかもしれない。

恐らくこれはタイプの問題でもあって、例えば制約が何もなくて、青天井で自由な発想で作るのが得意な人もいるはずで、そういう人のぶっ飛んだ発想がとても大きな創作物を生み出していくんだと思う。
トップクリエーターやすごいアーティストはきっとこういうタイプなんだと思う。
もの作りに「制約」がいらない人。
妄想や発想が止まらなくて「これやりたい」があふれてる。
たぶん「作りたい」が止まらなくていつまでも作り続けるだろうから締切も不要だろう。

そういう人に憧れる。
ただ残念ながらわたしはそういうタイプではないらしい。
衝動ではないところで物作りをしている。
そういう人にとっては「制約」こそが、物作りの糧になってるんじゃないかとさえ思う。
「制約」に楽しみを見いだしているというか…。

たぶん、出版の中でも「実用書」や「ビジネス書」を主戦場にしているのにも、それが関わっているのかもなと思う。
わたしが本のデザインをはじめた20年くらい前は、ビジネス、実用のジャンルの本のデザインの現場はまったく面白みのないところだった(と記憶している)。
面白さを盛り込むような余地がなさそうな場所で、デザインするならマンガだったり文芸だったり、そっちが華やかで、クリエイティビティも発揮できそうで、ちょっと憧れるような目で見ていたりもした。
ただ、続けているうちに、そんな考え方が変わっていった。
面白みのない制約だらけと思っていた中だからそこ自分の力が発揮できるのでは?と思うようになってきた。
面白みがないと思っていた世界が全然別のもの変わっていた。
はじめは「ありえない」と否定されデザインが、いつのまにか当たり前のものになっていったり、それが当たり前になってみんなが真似するようになったり、そうやって自分の周りの小さな世界を変えていくことが楽しみに変わっていった。
好きなものを好きなようにデザインするより、全然こっちの方が楽しいじゃん!と今は本気で思っている。

限られた世界で、どれだけ工夫をするかで世界は変わる。
つまらないと思っていたものは、じつは面白いものになるかもしれない。

2年以上「クッキングシティ」という反射系のゲームをやっている。
客のオーダー通りに料理を作って提供するだけのゲーム。
ゲームとしてはそれほど面白いと思ってないんだけど、これをもれなく毎日やっている。
1日最低1ステージクリアするというルールでやっている。
それと絶体に「無課金」で遊ぶこと。
これは大きな制約で、面が進むと難易度が上がって、コンティニューしないとクリアできないようになっていく。
コンティニューには宝石が必要で、それは課金すればいくらでも買えるし、正直そんな高い金額じゃない。
買えばすんなりクリアできるだろうけど、絶体に買わない。
で、この宝石は毎日広告を見たりすれば小さくたまっていく。
1日多くて5個くらい貯められる。
35個で1コンティニューできるので、1週間で1回分のコンティニューができることになる。
後半のステージにいくと難易度が上がるのでコンティニューは必須になる。
なので前半の簡単なステージをゆっくり遊んで宝石を貯めていく。
1日1ステージだけ、それ以上は進まないようにしながら、じっくり宝石をストックしていく。毎日コツコツと貯める。2ヶ月近くコツコツ貯める。それを後半のステージで放出する。できるだけコンティニューしないようにしながら、でもここぞというところでは迷わずに宝石を使う。下手な使い方をするとコンティニューを何度もすることになるので、そこは細心の注意を払う。せっかくコンティニューしたのに凡ミスしてまたすぐにコンティニューすることになって悔しくて叫んだり…
この前半のコツコツと後半の宝石が足りるか足りないかの緊張感がけっこうたまらなく面白い。
制約があることでゲームが楽しくなっている。

結局、仕事もゲームも、じつは制約って楽しさを生み出すためのツールなんじゃないかとさえ思えてくる。

映画も予算がないとかいろいろな悪条件しかないような映画から、めちゃくちゃ面白い映画が生まれてくる。最近見た「侍タイムスリッパー」も時代劇で低予算というありえない条件の中で、アイデアと工夫で面白さを生み出した傑作だったと
思う。

とにかく、わたしとって「制約」というのは、縛るものではなくて、むしろ世界を広げるためにあるのかもな、という話でした。


同じようなことを話している「続いてるラジオ」です。


あと、9日(水)NHKラジオに出ます!
1時間!!



ちなみに「逆風に向かう社員になれ(特装版)」の仕様書。

【スリーブ(箱)】
用紙
表面/OKトップコート+(王子製紙株式会社)
中面/OK ACカードF まくろ(王子エフテックス株式会社)
裏面/マーメイド 緑(特種東海製紙株式会社)
加工
ベルベットPPフィルム

表面/グリームホイルSilver(村田金箔)
裏面/グリームホイルGold No.6(村田金箔)
インク
NCP/N NEO-T4 墨/藍/紅/透明黄(DICグラフィックス)

【表紙】
用紙
NTラシャ 漆黒(ダイオーペーパープロダクツ株式会社)
クロス
新日本の色 10番ポプリン206くろ(ダイニック株式会社)
加工
継表紙

Matt Silver No.24(村田金箔)
インク
LR輝 銀(大日精化工業株式会社)

【見返】
用紙
てまり 銀・白(山伝製紙株式会社)

【扉】
用紙
新だん紙 きらら/真珠(ダイオーペーパープロダクツ株式会社)
インク
 ベストワン GIGA 710 デビルブラック NC(株式会社T&K TOKA)

【本文】
用紙
 新局紙・白(ダイオーペーパープロダクツ株式会社)
インク
 ベストワン GIGA 710 デビルブラック NC(株式会社T&K TOKA)

【スタッフクレジット/仕様一覧】
用紙
 アラベール-FS スレートブルー(ダイオーペーパープロダクツ株式会社)
インク
 ベストワン GIGA 710 デビルブラック NC(株式会社T&K TOKA)

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