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【エッセイ】自転車日本一周記10
本州に戻って早速大事件が起きた
大した事じゃないといえばそう。大した事といえばそう。
場所は秋田県秋田市。何が起きたかといえば、スマートフォンをなくした。地図は持たずにスマートフォン頼り。青看板のほうが目標としては役に立ったが、細かいところや寝る場所の検索は非常に便利だった。それが手元に見当たらないのだ。
基本はいつでも見られるようにしていた。ズボンポケットとかではない。カバンの外ポケットとかに入れていることが多かった。それが急になくなったのだ。
あわてて近くを探すけれど全く見当たらない。どうしていいか分からずに近くの電気屋に飛び込んだ。しかし、どうすることも出来ないと言われ、紛失サービスを使おうにも、送る先を選ぶ必要があった。それがだいたい一週間かかると言われたのだ。
一週間後に自分がいる場所なんて予測できなかったし、その場所にいたとしても受け取る必要があるが、宿なのか、どこで受け取るかも分からなかった。
焦っていたのもあったが苦渋の選択。発送先は自宅を指定した。公衆電話で悩んでいる暇がなかったのもある。
そうしてスマートフォンなしの秋田から甲府の道のりが始まった。
いや、その前にだ。紛失届を交番に届け出たあと。暗くなってきたのでそのまま秋田市内で寝ることにした。市内の運動公園とかだったと思う。
そこで始めての職務質問を受けた。
記憶はほとんどない。寝ぼけていた気もする。いくつかの質問をされ自転車の防犯登録を確認、日本一周の事情を話した。
がんばってな。
正直温かみはなかったけれど嬉しかったな。
そして意外とそんなもんで終わるのかとも思った。もっと色々と突っ込まれるかもと思っていたのだ。
というわけで日本海側を走りながら山形、新潟と下り。群馬に入っていく。山形の山道では金髪のお姉ちゃんに追い抜かれ、ちょっと悔しくて食らいつこうとしたけど離され見失い、自分の脚力に自信がなくなり。
新潟と群馬の県境にあったスキー場で発展したであろう、夏は誰もいない集落を物珍しく思い、前橋の公園で寝ていて朝起きたら隣の東屋にホームレスであろう人が寝ていたり。見覚えがある東京に入ったが、知らない未知で甲府に入ろうと奥多摩湖の方からぐるりと回ろうとしたが、ダムは夜は立入禁止だからと追い出され、寝る場所を失って夜の峠をひた走ったり。峠の途中で寝ていたらこれから静岡の海までツーリングする人たちの休憩地点となり、寝ている隣で楽しそうにしているのを聞いたりと。
色々なことがあって。甲府まで一旦帰った。
とりあえずは自転車の修理だと、買ったお店に自転車を持ち込み。これまでの話を店主とたくさんした。自宅に帰ったものの、そこでゆっくりすると日本一周をしている感覚が薄れると思って靴すら脱がなかった。
山梨県にいるのにわざわざ野宿をした。そしてこのあたりで靴が壊れる。ペダルを踏み続けていた靴は寿命を迎え底が貫通したのだ。そんなことになるのかと感心しながら新しい靴を買い。長野へと向かう。
だから。この時期の写真が一枚もないのだ。記憶には焼き付いているかなと思う。でもだいぶ忘れたな。と思うと写真ってありあがたいなとそう思う。
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