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【エッセイ】自転車日本一周記21

半島はやっぱり大変?

和歌山県から三重県までぐるりと紀伊半島の海岸線を進んだ。そこは日本の端とまではいかないけれど、それなりに人の気配がない。店もなければ寝る場所も苦労する。
それでも順調に進めたのはこれまでの経験が積み重なっていたからだろう。


伊勢神宮はちょっとゆっくりした。修学旅行の学生があれって日本一周かな。俺もやってみたい。みたいな声を聞いて。おう。やれ。きっと楽しいぞ。遠くから思った。流石に近づいたら不審者だから止めた。


そしてこのころから本格的に夏が顔を出し始めていた。ここで新たな問題が起きる。虫と朝が早い。だ。
虫が耳元で飛び交い寝れなくなり朝日が早く登る関係上、どうしたって目はすぐに覚める。寒いほうが快適だった。もとから冬が好きなのでよりそう思ったね。

伊勢神宮を出てすぐ。三重県の公園で、いつも通り寝床を探し終えて日課のジャグリング練習(多分毎日のようにやってた)をしているとおじさんが近づいてきた。
質面攻めにあった。
何をしているの? どうしてしているの? なんで自転車? ボールを投げるのはなぜ? そんな質問に答えているうちに自分のことを話し始めた。ずっと漁師をしてきて酒だけが楽しみでそれで病気になってそれも楽しめなくなった。娘は喧嘩して出ていったし、妻はもういない。なんのために生きているかわからなくなって絶望した。51歳になって初めてのことだ。
日本一周をすることは修行になるんだろう? 洗濯は川でやるのか? 俺も修行すれば希望を持てるのか? そう質問に戻った。

修行しているわけではない。コインランドリーを使う。楽しいからやってるから希望もなにもない。ここから先はわからないなどなど。
まるで禅問答のような時間はあっという間に過ぎていき。飽きたのかおじさんは気づいたらいなくなっていた。

自分があの歳の頃にそんなことを思うのだろうかと想像して、そんなことにはならないと思った。
思ったから今もまだ絶望しないで希望をひたすらに探し求め、それを手にして来れたのかもしれない。
あの出会いにもきっと意味があったんだ。たまにそう思い返す。


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