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【エッセイ】自転車日本一周記11

順調と言うなの慣れ

長野を北上して日本海、そこから富山、石川、福井と走ることになるのだが、特段面白いことは起こらなかった。トラブルもだ。
ようは慣れてきたんだ。日本一周というやつに。
すると何が起こるのかというと人は歌い出すらしい。少なくとも自分はそうだった。
何事もない道。ただひたすらに漕ぐだけの日々。考えることはこの先の人生についてだけ。そしてそれは考えても埒が明かない問題。そういうのを吹き飛ばすためなのか。どうなのか。

確か最初に歌い始めたのは北海道だ。これは誰もいないというのが大きかった。あたりを見渡しても誰もいないのだ。これがトンネルとかに入るとさらに加速して歌いだしていた。反響してなにも聞こえなくなる中で不安をかき消したかったのかもしれない。

そうしてついていった癖みたいなものは北海道から離れても抜けきることもなく人気のない山道ではどうしたって歌いたくなった。気ままに歌うだけだ。そこに上手も下手も意味はない。

考え事や過去を振り返る時間が増えていったのもこのあたりから。余裕が出てきたのだろう。そりゃそうだ。一ヶ月半も同じような生活をしていればある程度のトラブルはそれなりに経験している。必死に考えないとならない時間は減っていく。

ジャグリングのことを思い出し始めたのもこのあたりだ。東北は練習しているところも少なく、北海道に関してはそんな余裕はなかった。本州に戻ってすぐにスマホをなくした訳で、ようやくその余裕が出てきたのだが、都合があう練習会は見つけられなかった。

福井に大学時代の友人がいたので合う約束を取り付け、時間に余裕があったので琵琶湖を見に滋賀まで行き、その日の間にとんぼ返りをし友人と昔話に花咲かせた。

旅の中で友人、先輩、後輩と色んな人と会うのだけれど、スタイルはそれぞれだった。一緒にご飯を食べるだけの人もいれば案内するから何日も泊まっていけという人もいる。親しさが関係しているわけじゃない。人に対する距離感が違うのだ。もちろんそれは生活環境に影響されるものだというのもわかる。しかし、そのことがなぜだか今でも印象に残っているんだ。

福井の友人とはご飯を食べただけだ。泊まっていけとは言われなかった。夏の先輩の結婚式には出るから、またその時と別れただけだ。

まあ。旅は順調だったんだよ。
これが物語だったら順調そうに見えると言うのはフラグでしかない。そしてこの旅もその例に漏れることはなかったんだ。

その話は次にしようと思う。



琵琶湖 湖北

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