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【エッセイ】自転車日本一周記2
いざ出発っ!
なんて、気合が入った初日とは程遠かった。
周りからも本当に行くのかと不安な顔をされたし、当の本人である自分だって実感はなかった。
普通に朝食を食べて、その辺に遊びに行く。そのくらいの気分で自転車に乗り込んだ。普段と違うのはその重さ。荷物を載せた自転車はたしかに重たかった。
ああ。出発地点は山梨県は甲府市。それも真ん中あたり。地理がわかる人は思い浮かべてほしい。360度を山で囲まれたその甲府盆地を出るには山を超えなくてはならない。正直舐めていた。いや。荷物がなければ楽勝なんだ。なんなら普通の荷物なら苦戦もしなかった。
これは実はあとから気がついた。何度か山を超えて徐々におやと思い始めた。
大量に積んだ五百円玉があまりにも重かったのだ。
五百円玉にした理由は自分でもよくわからない。五百円玉貯金で日本一周の資金を貯めた。ということと、これだけ細ければいざ盗まれたとき全部ってことはないんじゃないかって言う浅い思いだ。
お札やカードは危ない気がしたのだ。なんとなくだが。スマホにお財布機能なんて言うものはそこまで普及していなかったし、充電がなくなる機会なんてたくさんあった。
まあ、だから五百円玉なんだ。そう言われて納得する人がどれほどいるか分からない。そもそも自分でも今はその方法を取らないと思う。
それくらい重かったらしい。
そんなことはさておき。
初日の気分は今でも覚えている。特に前半。
やめるなら。今。
まだ引き返せる。笑って冗談にできる。そんな考えが頭を巡っていた。
国道20号線を甲府市から東に進むと新笹子隧道と言う全長3kmほどの長いトンネルがある。このトンネルを超えると大月市へと入るのだが、トンネルの先は長い下り坂。この下り坂を走っている間に。引き返そうなんて考えはすぐに消し飛んだ。
こんな気持がいいこと楽しまなきゃいけない。
ああ。そうだ。そうして勢いよく下っているときに自転車からあるものが吹き飛んだんだ。
いわゆるサイクルメーター。速度や距離を測る為の道具。その本体がどこかへと消えていった。
探したよ。そりゃ。今から日本一周をするのにどれくらい走ったかを測る機械を失ったんだ。
でもみつからなかった。
んで。諦めた。きっとそういう運命なんだと。そんなの気にしないで楽しめよ。
そう自分を納得させたんだ。
だから、日本一周で何キロ走ったのか分からない。
でも。精一杯楽しもうと。そのことで頭は一杯になっていたのは間違いない。
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