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【エッセイ】自転車日本一周記13
現実逃避とは物語への没入
京都を出立してからしばらくは思い出しては忘れようとするを繰り返していた。京都を出たら兵庫、鳥取、島根だ。
兵庫は通り過ぎただけ。というわけで、鳥取砂丘。
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朝早いこともあって人はまばら。ちょっと歩いただけなのに靴の中は砂まみれになった。梨がその辺りで売っているのを見て地元を思い出した。フルーツをそのあたりで売っているのは名産地ならではだ。
実のところこのあたりも順調で、特別なことは何も起きなかった。朝起きて、自転車を漕いで。暗くなったら寝て。その繰り返しだ。
ただ、その中で旅が折り返しているのは感じていたのでこれからさきどうするのかをぼんやりと考え始めていた。
ジャグリングは好きだった。でも大道芸人になる姿はしっくりこなかった。
小説を考えるのは好きだった。でも完成させたことはなかったし面白い文章を書けているとは到底思わなかった。
システムエンジニアだった。日本一周をしたあとにまた戻ろうとは思えなかった。
つまるところなにをしたいのか、わからなくなっていた。現実から逃げていただけかもしれない。
そんな中、物語を作るのは好きだった。ジャグリングを題材にした小説を書きたくてプロットを練ったりもした。未だに手元にあるそれは完成していないし、今読み返すとそんなに面白いように思えない。でも、いつか書き上げるつもりではいる。それも近いうちに。
そうやって物語のことを考えるのは京都でのことをあんまり思い出してくないからだとも思う。
島根は目新しいものがたくさんあった。神様にまつわるものが多い。出雲大社も立ち寄ったりもした。
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本当はそのまま海岸線を通って九州に向かう予定だったのだけれど。寄り道というか、予定があったので広島によることにしたのは出雲大社あたりでのことだったと思う。このまま南に下ればちょうど広島市。そこで公開される新海誠の最新作だった『言の葉の庭』を観ることに決めたのだ。
結局自然だけでは飽き足りなかったということなのかもしれない。
それともうひとつ。広島大学で活動してるジャグリングサークルへ顔を出すという用もあった。練習日との兼ね合いもちょうどよく、宇都宮で参加してから一ヶ月以上空いてのジャグリング交流ができそうだったのだ。
途中で見かけたバッティングセンターで動かさない部分を動かしたりだとかしながら着いた広島。緊張していた。
久しぶりに人と交流するつもりでの移動とこれから観る映画への期待度の高さがそれの原因だ。
映画は良かった。未だに人生の中でトップクラスに印象に残っている。刺激がありすぎてその日そのまま新作のプロットを書き綴った。ジャグリングの交流をしてからもう一度もどり、もう一回映画を見たくらいには心酔した。
ジャグリング交流も楽しいものだった。そのレベルの高さに驚き、意識の高さに打ちのめされ、才能の宝庫に感動した。そのままメンバーのひとりの家に泊めてもらったりもした。本棚に入っているマンガの趣味が同じ過ぎて楽しかったのを覚えている。
そうして徐々に京都でのことを忘れていったんだ。ここまで引っ張っているあたり、よっぽどショックだったんだなと今でもそう思う。
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