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知ってほしい。そして、想像してみてほしい。指導者に今、求めること。


選手は、指導者のことをよく見ている。

その指導者がどんなことを考えていて、良い悪いの線引きをどこに置いているのか。どんな風に振る舞うことが、その指導者にとっての”良いアスリート”なのか。

指導者が思っている以上に、選手は指導者のことをよく見ていて、指導者が思っている以上に、指導者の価値観はそっくりそのままクラブの価値観になり、選手個人の価値観になっていたりするのである。

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「”なんだお前、その髪型。男みたいじゃん”って監督にいじられるんです」
「コーチにカミングアウトしたらキャプテンにまで伝わっていて…」
「チームの忘年会で指導者が、特定の選手にホモコールをしていました」

全部、現実。全部、実際にあったこと。

カミングアウトを公表してから、TwitterのDM上でメッセージをくれた選手や、イベントにわざわざ足を運んでくれて自分の置かれている状況を話してくれる選手がいた。

そして、そのほとんどの選手が自身が所属するチームでなんらかの悩みや問題を抱えていた。チームメイトに相談することもできなければ、指導者に相談することもできない。競技は大好きだけど、チームは息苦しい。一体、だれに相談したら良いんだろう、と悩んでいた。

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先日、指導者の方を対象にした「スポーツとLGBTQ」をテーマにした講演会があった。LGBTQというワードすら聞いたことがない人から、自分のチームに当事者の選手がいる人まで、知識量にバラツキがある指導者の方々がぞろりと揃う。

まず初めに、LGBTQとはなんですかから始まり、実際にLGBTQ当事者の選手の困っていることや他国の解決事例などを共有。そして、当事者のリアルな声として自分自身の経験をお話しさせていただき、ロールプレイという流れ。

事前にかなりの情報を伝えた上でのロールプレイ。内容は、当事者選手が悩んでいることに対して、それぞれが『選手・指導者・チームメイト・家族』の立場で解決策を考えるというもの。参加者のみなさんは大人の方ばかりだったし、柔軟に対応しながら参加してくれるんだろうと思っていた。始まる前までは。

グループに分かれてディスカッションをしているとき、1人の不機嫌そうな男性指導者が目に入った。「どうしたんですか」と声をかける。

「あのね、僕は当事者じゃないから当事者選手の気持ちなんて分からないよ。当事者だったらどう思うかなんて分からない」

ほう。どうやら当事者選手の役に当たったようである。

「当事者の気持ちが分からないと気づけたことが第一歩なのかもしれませんよ。さっき学んだ情報を踏まえて、当事者がどんなことに悩むのかを想像することはできるかも。どうですか?」

「そんなこと言われてもねえ。分からないものは分からないんだよ」

ぶっきらぼうに言い放った彼の隣で、ずっと黙って話を聞いていた指導者が急に話し出した。

「もうね、チームの輪を乱すような選手は辞めてもらうのがお互い良いと思うんですよ。今はどこでだってスポーツはできるだろうし、そのチームに合わなかっただけかもしれない」


ひえ〜〜〜。こんな指導者がチームにいたらキッツイなあ。心底そう思ってしまった自分がいた。

自分個人の意見だけど「私たちはこんなに困っている。こんなに悩んでいる。」を当事者ではない人に押し付けるのはあまり好きではない。当事者の想いに共感できないのは当たり前で、そこに「なんで分かってくれないの?」と押し入るのは強引すぎると思うから。

でも、指導者(や学校の先生)はちょっと違う。大人と子供の関係であれば影響力が大きすぎること。指導者の価値観がそのまま組織に反映されやすい環境であること。選手の一生を握っている立場であること。悩んでいる選手の環境を"自分には分からない"で済ませるのはあまりにも怖すぎる。そして、職務放棄だとすら思う。

指導者にはLGBTQ当事者選手が置かれている環境をまずは知ってほしい。その上で共感はできなくても、当事者の悩みや困難を理解できるようになってほしい。そう思っているのだけれど。

”分からない”の一言で解決策を放棄しようとするその指導者の姿を見て、リアルタイムで悩んでいた選手たちの顔が頭をよぎった。指導者が変わらなければ、彼らは救われないなと。

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過去に、あるチームにいた同性カップルが指導者に呼び出されて別れさせられるという出来事があった。

というのも、指導者は以前からチームにカップルがいることはチームの雰囲気を乱すと考えていて(現役時代のチームメイトのカップルが、ずっと2人でいたことで気を遣ったという経験があったらしい)、それを汲み取ったキャプテンが2人の関係に気づいて告げ口したという。

そのカップルは指導者の目の前で別れさせられたのだけれど、カップルの片方が精神的に参ってしまってしばらく練習に来られない状態になってしまった。スタメン選手だったので、他のチームの選手間ではみんなその選手がいないことを不思議がっていて。

一部始終が知れ渡った時、肝が冷えた気分だった。

自分のチームの指導者も同じ考えだったらどうしようと。

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自分のチームにはLGBTQの当事者はいないと信じて疑わないという指導者。いたとしても、どうしたら良いのか分からないという指導者。
いること自体が苦痛に感じてしまう指導者。

指導者の中にもいろんな指導者がいる。

ただ、どの指導者でも共通していることは、自分のチームで何か困難を抱えている選手がいるという事実は指導者にとってもかなり苦しい状態だということ。LGBTQというワードはようやく日本のスポーツ界でも可視化されはじめたところで、ほとんどの指導者にとっては経験したことのないはじめて直面する問題。だからこそ、何が正解なのか分からずに目をそらしてしまう指導者や排除してしまう指導者がいるのかもしれない。

指導者と選手といっても、結局は人と人との関係で、その関係の築き方に正解なんて絶対にない。だからこそ、何か問題が起きた時の対処で失敗することなんて当たり前で、「分からない」と思うことも当たり前なはず。

だって、他人のことを100%理解できることなんて、ありえないでしょ?

だから、今は「分からない」「嫌だと思ってしまう自分がいる」のフェーズにいる指導者はそうやって気づけたことにまずは自信を持ってほしいし、だからこそ選手が置かれている状況を知ってみてほしい。そして、自分のチームの選手で何か問題が起きた時に、その選手の背景を想像するための基盤を作っておいてほしい。

今は、様々な組織が「スポーツとLGBT」をテーマにしたガイドブックを作っていたりする。

【日本スポーツ協会】
体育・スポーツにおける多様な性のあり方ガイドライン

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【プライドハウス 東京】
SPORTS for EVERY ONE スポーツフォーエブリワン

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LGBTQに関する基本的な情報から実際の事例に至るまで、情報量はかなり豊富だと思う。当事者視点から見ても「わかるわかる、これ嫌だったな〜」と思うことが載っていて、とてもありがたい。

なんかよく分からないけど、よく分からないことで困っているんです、という指導者の方は是非一度ご一読を。何か困っていることがあれば自分にDMでも飛ばしてくれれば。

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追記だけれど、「指導者の中にも当事者っているのでしょうか」という質問をされたことがあるのでここに書いておきたい。

自分の知り合いに、当事者の指導者がいる。彼女は同性が好きなのだけれど、それを自分が指導する選手たちには言っていない。言う必要性を今は感じていないという一方で、親との関係が気になることも理由の1つだという。

「自分の子供が狙われたりしないか心配だ」

そんな風に言われるのではないかという思いからなかなか言い出せないようだ。そんなこと言ったら、男性で女子サッカーチームを指導する人なんていっぱいいるし、その人たちはどうなのよという感じなのだが、同性が好きな人というとそうやってなりふり構わず同性を狙っているというイメージをいまだ持っている人も少なくない。

自分も「しもと一緒に大浴場入りたくない〜」と言われて「いや、別にお前の身体みて興奮するわけないから」と思ったことは多々あるし。


そして、ゲイの指導者の方から、自分がゲイであることがバレるのを隠すために、選手に対するホモいじりに参加してしまうことを悩んでいるという話を聞いたこともある。

自身の恐怖心と選手への申し訳なさ。その間に押しつぶされながら、でも、仕事である指導者を続けるためにホモいじりをし続ける。分かりたくはないけれど、彼の気持ちは理解できる。

当事者の指導者も、それぞれがやっぱり悩みを抱えていて、どうしたら大好きなスポーツと自分らしく向き合えるのかを模索している。

いくら競技が大好きでも、当事者の選手や指導者につきまとう恐怖心や不安な気持ち。それを取り除くために、実際にチームで活動し日々彼らと仲間として過ごす指導者の変革が急速に求められている。




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