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映画を通じてサイコパスの定義を見つめなおす【サイコパス映画7選】

皆さんは『サイコパス』という言葉を聞いてどんな印象を持っているだろうか?

言葉自体は世間に広く知れわたっている。殺人事件などの犯人の特徴を指す言葉として使われたり、映画を始め漫画、小説などの創作物にも多く登場する言葉だ。

現代社会で生きてて「サイコパス」という単語を聞いた事がない人はいないだろう。だがサイコパスとは何なのか?その言葉の意味をちゃんと理解できているのだろうか?

今回、サイコパスが登場する映画を調べるにあたって、その定義から調べなおしてみた。その結果を下記項目にまとめたので、興味ある方は是非読んでいって欲しい。

【そもそもサイコパスとは?~定義とその特徴~】

サイコパス①

まず、サイコパスという言葉だが、Wikipediaによると「異常心理学や生物学的精神医医学などで使われる反社会的パーソナリティ障害の一種を意味する心理学用語、精神病質(サイコパシー、psychopathy)。その精神病質者をサイコパス(psychopath)と呼ぶ」とある。

精神病質とは「性格が逸脱し、そのために社会を困らせたり自らが悩むもの。性格異常、人格障害」という意味である(三省堂 大辞林 第三版)

その特徴は大きく分けて以下の7点になる。

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他にも、サイコパスの特徴として極端な冷酷さ、結果至上主義などの特徴が挙げられているが、いずれも共通して言えるのは、感情の欠如による極端な冷酷・無慈悲さ、感情の欠如、結果至上主義であり、異常人格者であるという点である。

日本の厚生労働省では、反社会的パーソナリティ障害を精神疾患に含めている。つまりサイコパスは病気であると考えられている。

【サイコパスの原因】

脳科学者のジェームズ・ファロンによると、「前頭前野から扁桃体へつながる機能の低下」、「遺伝子などいくつかの遺伝的要因」、「幼少期の身体的、精神的虐待」の3つの要因が、サイコパスを成り立たせる原因としている。

しかし、近年の研究では、サイコパスは脳の構造の違いによるもの=先天性であるという説が濃厚になっており、幼少期の身体的・精神的虐待などの環境要因の結果=後天性によるものをソシオパス(社会病質者)と呼ぶようになっている。

ソシオパスの定義と、サイコパスとの違いについては次項で述べたい。

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【ソシオパスの定義とサイコパスとの違い】

ソシオパス(sociopath)は、幼少期に受けた身体的・精神的虐待による幼少期のトラウマによって形成された社会病質者の事を指す。サイコパスとの共通点は、どちらも反社会的者であるという事である。

両者の違いが明確に定義されていないこともあり、サイコパスとソシオパスは混同して使用されがちだ。

下記の記事によればソシオパスはサイコパスに比べて、より衝動的で行動に一貫性がないことと、同じ考えを持つ他者に共感することなどが違いとして挙げられている。サイコパスとソシオパスの違いを下記の図にまとめてみた。

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こうしてみても両者を分ける境目は、曖昧な事がわかる(どちらの特徴も抱えてる場合など、区分分けも不明瞭)。その為、上述したように両者は同義として扱われる事が多い。

【診断方法】

現在、一般的に用いられてる方法として、ロバート・D・ヘアによって作成されたPCL(サイコパシー・チェックリスト)が挙げられる。

この方法は、20点程の下記の図(PCL-Rサイコパシー・チェックリスト改訂版)のチェック項目に沿って当てはまるかどうかを採点していき、点数が高ければ高いほどサイコパスの特質を持ってると判断される。

「サイコパス 診断」で検索をすると、ネット上で診断での診断サイトも容易に見つける事ができる。ただし、このチェックリストは、しっかり訓練を受けた専門家が使用するものであり、安易に使用して診断してはいけないとしている。

その為、専門家でない一般人によるサイコパス診断なとの確実性はかなり怪しいと言えるだろう。PCLはあくまでも診断方法に用いられる道具の一つであり、サイコパスの定義とは異なる事も記しておきたい。

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【現実社会におけるサイコパス】

サイコパスと聞くと、殺人犯などの凶悪犯のイメージを思い浮かべる人もいるだろう。実際、シリアルキラーの多くは、サイコパスという報告も見られるし、日本でも凶悪な殺人犯がサイコパスと診断されるケースは多い。

しかし、PCL-Rを作成したロバート・ヘアによると、サイコパスの大部分は、身近にひそむ異常人格者であるとしている。

サイコパスは日本では「100人に1人」の割合で存在するとされているが、割合については、「30人に1人」、「50人に1人」など文献によって異なっている。いずれにしても、サイコパスは希少な存在というよりは、思っているより身近な存在だということが言えるだろう。

サイコパスは、結果至上主義、無慈悲などの特徴を持ち合わせていることから、社会的に成功している人が多いとされている。サイコパスの多い職業としては、弁護士、外科医、政治家などが挙げられている。

政治家①

【創作物におけるサイコパス】

創作物におけるサイコパスが登場した時期を明確にするのは難しい。
理由は、サイコパスの定義自体が曖昧であること、シリアルキラーの多くがサイコパスに該当する可能性等によるものである。

映画だと、代表的なもので『羊たちの沈黙』(1990年)のハンニバル・レクターなどを凶悪犯としてのサイコパス、『ウォール街』(1987年)のゴードン・ゲッコーを成功したサイコパスとして挙げてる文献も見られたが、その2人をサイコパスとは断定できないと述べている文献もあり、やはり明確な登場時期は分かっていない。

映画以外の創作物においてもサイコパスの登場時期は明確には分からないが、代表的なもので挙げると漫画家の荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する吉良吉影というキャラクターがサイコパス気質を持った人物として知られている。(ア二メンタリズム様参照)

吉良吉影

1.【映画における様々なサイコパスが登場する作品3選】

ここでは、サイコパスが登場する邦画・洋画をサイコパスのタイプごとに3作品紹介していこう。
※ただし、上述した通りサイコパス、ソシオパスの明確な定義は難しいため、サイコパスに一括りしている。

【Excellent!! サイコパスによる一晩の虐殺ショーの幕が上がる『悪の経典』】

悪の教典ポスター画像
製作年:2012年 製作国:日本 監督:三池崇史

「サイコパスが出てくる映画」と聞いたら、本作を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。本作に出てくる蓮実聖司こと通称ハスミンは、まさしくオードソックスなサイコパスと言えるだろう。

頭脳明晰・容姿端麗・口も達者と表向きは好青年で魅力的だが、裏の顔は、他人への共感能力が欠如し無慈悲、目的達成の為なら手段を選ばないし、人を殺すことにも何の躊躇もないというサイコパスの特徴を兼ね備えた人物だ。

物語は、教師であるハスミンが淫行関係にあった女子生徒を自殺に見せかけようと殺害した場面を、他の生徒に見られたため、それを隠ぺいするためにクラスの生徒全員を惨殺しようとするというもの。まさに木を隠すなら…という話だ。

悪の教典①

本作の原作者は『青い炎』、『鍵のかかった部屋』などで、これまでにも数多くの作品が実写化されている貴志祐介。監督は『クローズZERO』(2007年)、『十三人の刺客』(2010年)の三池崇史。主演のハスミンを演じたのは伊藤英明。当時、海猿シリーズなどで爽やかな好青年の印象があった伊藤英明がサイコパス役を演じるというのも話題になった。

また、ハスミンの異常さにいち早く感付き、対峙することになる生徒役に二階堂ふみ、染谷将太や、他にも林遣都、松岡茉優、岸井ゆきの、山田孝之など今の邦画で活躍する役者陣が出てるのも見所の一つだ。

頭脳明晰の割にツッコミどころのあるハスミンの行動や、サイコパスとしての描かれ方がいささか類型的過ぎる気もするが、ハスミVS生徒の構図や、彼らを取り巻く人々の描き方など見所の多い作品でもあるぞ。


黒い家①
製作年:1999年 製作国:日本 監督:森田芳光

ちなみに貴志祐介原作だと同じサイコパスを描いた作品で黒い家』という小説があり、筆者個人の意見で言えばこちらの方がリアルなサイコパスっぽい気がする。

『黒い家』は1999年に故・森田芳光監督によって実写化されており、こちらは大竹しのぶの怪演が見所といえる。また2007年には韓国でも映画化(こちらは邦画版よりホラー色が強い)されており、こちらの2作品もお薦めしたい。

【将来は間違いなくブラック企業の社長『ナイトクローラー』】

ナイトクローラーポスター画像
製作年:2014年 製作国:アメリカ 監督:ダン・ギルロイ

サイコパスは社会において成功を収める者が多い。そういう意味で言うなら、本作はまさにサイコパスが出世街道を突き進んでいく物語といえるだろう。

軽犯罪で日銭を稼いでいたルイスは、偶然居合わせた事故現場で報道スクープ専門のパパラッチの存在を知る。パパラッチに興味をもったルイスはテレビ業界へ踏み込んでいく…というあらすじなのだが、ルイスの躍進ぶりが凄い。

目的達成の為には、工作、捏造、脅迫等、ありとあらゆる手段を使っていく。結果至上主義である事、犯罪行為にも躊躇がなく、そこに一切の後悔や罪悪感の感情が欠落してる点など、まさしくサイコパスの特徴と言えるだろう。

ルイスを演じたのは、『ドニー・ダーコ』(2002年)、『ブロークバック・マウンテン』(2006年)のジェイク・ギレンホール。カメレオン俳優で知られるジェイクだが、ルイスを演じるにあたって、体重を12キロも落として役作りに望んでいる。そのかいあって、ルイスの容姿は、目がギョロっとしており、見る者をどこか不安にさせる不気味な容貌をしている。

演技派としてしられるジェイクの怪演こそが、本作の最も大きい見所といえる。ルイスを通じて視聴率至上主義の放送業界の裏側を描いてる点にも注目したい。

ナイトクローラー①

結果のために手段を選ばない人の多くがサイコパスというなら、社会的成功を収めてる人達の何割かはサイコパスの可能性もある(ブラック企業の社長とか)。

手段を選ばないルイスの姿からは、そんな成功者たちの影を感じ取る事ができるし、出世していくのも納得させる説得力がある。社会で大きく認められたい、成功したいという人にとっては、ルイスは参考になるかもしれない!?

【サイコパス+殺し屋=最強という図式『ノーカントリー』】

ノーカントリーポスター画像
製作年:2007年 製作国:アメリカ 監督:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン

「殺し屋」が登場する映画は数多くある。主人公や登場人物が命を狙われたり、殺し屋自身が主人公の作品もある。その中には狙った獲物は外さない腕利きの殺し屋も多く出てくる訳だが、本作のアントン・シガーも一度狙われてしまったら命はないと覚悟しなければならない。

本作は1980年代のアメリカンテキサスを舞台に、偶然大金を手にしまったベトナム帰還兵の男と、彼を執拗に追いかける殺し屋、そして彼等を追い掛ける事になる老保安官の視点から描かれた物語だ。

ジョッシュ・ブローリン、トミー・リー・ジョーンズと往年の名優が共演する中でも、とりわけ異彩を放つのがハビエル・バルデム演じるアントン・シガーだ。

ジョッシュ・ブローリン演じるベトナム帰還兵を執拗に狙うが、その道中での冷酷、無慈悲っぷりが本当に凄まじい。表情一つ変える事無く淡々と人を殺していく辺りは観てて本当に背筋が寒くなる。

ノーカントリー①

筆者が特に好きなのが、道中のガソリンスタンドでの店主との会話の場面。この場面のシガーの不気味さと不穏さはピカイチ!素晴らしすぎて、この場面だけ繰り返しみてしまう。

アントン・シガーが少年のシャツを買い取ろうとする一連の場面は、シガーが感情が欠如してる=天性のサイコパスである事も推察できる。本作は作品としての評価も非常に高く、アカデミー賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞している。

ノーカントリー②

実は本作は、本物の精神科医が選ぶ最もリアルなサイコパス映画に選ばれている。詳細は下記のGIZMODE様の記事を読んでみて欲しいが、本物の精神科医が400本以上の作品から3年の歳月を費やして選んだ映画ということで、専門家によるお墨付きの映画といっても間違いないだろう。

本作の趣旨とは少し逸れるが、記事の中で、世間ではサイコパス映画として認識されてるが、実際はなんちゃってサイコパスが出てくる映画として『羊たちの沈黙』(1991年)、『アメリカンサイコ』が挙げられている事にも触れておきたい。

2.【実際にあった事件をモチーフにした作品3選】

実在したサイコパスをモチーフにした作品は、これまでにも数多く作られている。ここでは、現実で起きたサイコパスが関わってると思われる事件3作品を紹介したい。

【埼玉愛犬家連続殺人事件『冷たい熱帯魚』】

冷たい熱帯魚ポスター②
製作年:2010年 製作国:日本 監督:園子温

1993年、埼玉県でペットショップを営んでいた元夫婦が、犬のつがいを法外な値段で売るという詐欺的商売を繰り返し、トラブルに発展したお客数人を毒殺していた。この事件当時のマスコミによる先行報道、残忍な手口などから話題になり、のちに埼玉愛犬家連続殺人事件と呼ばれるようになった。

この事件でサイコパスと思われるのが、主犯格の犯人である関根元。彼はいかつい見た目とは裏腹に、巧みな話術で人の心につけこむのに長けており、業界では有名人だった。虚言壁の持ち主で、メディアの取材でも嘘を平気でついていたらしい。

そしてこの事件を広く知られるようにもなったのが、その残忍な殺害方法だ。関根は自身の殺人哲学を掲げていたが、その中でも一番大事としていたのが「遺体を消す」こと。(関根本人は、このことを「ボディを透明にする」と呼んでおり、この言葉は有名になった)

関根は、元妻の女性と共謀し、死体を骨・皮・肉・内臓を数センチ単位に骨はドラム缶で衣服や所持品と共に、灰になるまで焼却し山林や川に遺棄していた。

この行為だけでも充分怖いが、関根は鼻歌を歌い、軽口を叩きながら死体を解体していたというのだから恐ろしい。こういった関根の特徴はまさしくサイコパスの特徴と合致するといえるだろう。

冷たい熱帯魚①

この事件をモチーフにして映画を撮ったのは、『愛のむきだし』(2009年)、『新宿スワン』(2015年)の園子温監督。ペットショップを熱帯魚に変えているが、元夫婦で殺人を犯すさまや、死体解体など実際の事件の経緯をなぞらえている。園子温監督作品の特徴でもあるハイテンションさと疾走感が本作の面白さを引き立てている。

本作の一番の見どころは、でんでんの怪演。でんでんは、関根をもとにした村田を演じでいるが、これまでのイメージを覆すかのような凄まじい演技力で、その様はまるで本物の関根がそこにいるかのよう。もとになった事件には、関根の証拠の隠滅に協力者がいるのだが、本作では吹越満がその役を演じており、彼の豹変ぶりも見所だ。

解体シーンなども含めてエロ・グロ要素強めのため、人も選ぶ内容にはなっている(本作はR-18指定となっている)が、サイコパス映画として興味ある方にはお薦めしたい。

冷たい熱帯魚③

園子温監督は、本作以外にも東電OL殺人事件をもとにした『恋の罪』(2011年)や、北九州監禁殺人事件にをもとにした『愛なき森で叫べ』(2019年)など、実在のサイコパス、ソシオパスを想起させるような事件を扱った作品が多い。こちらの2作品もお薦めしておきたい。

【スコット・ピーターソン事件『ゴーン・ガール』】

ゴーンガールポスター画像①
製作年:2014年 製作国:アメリカ 監督:デヴィット・フィンチャー

一般社会におけるサイコパス存在率については上記で述べたが、その男女比は、男性の割合のほうが多いと言われている。

これには理由があるとされ、女性のサイコパスは心配性で、感情的な問題を抱えており、また不特定多数の相手と関係を持ちがちだという特徴が挙げられているからだという。

ある心理学者によれば、女性サイコパスには感情をコントロールできない、衝動的な反応、突発的な怒りといった特徴が見られ、境界性パーソナリティ障害と診断されることがあるそうだ。

この事が女性のサイコパスが少ない理由なのかもしれない。(カラパイア様の記事参照)本作はそういう意味では、珍しい女性のサイコパスが登場する作品になる。

ゴーンガール②

2002年12月24日のクリスマスイブ。肥料メーカーに勤務するスコット・ピーターソンという男性から、「妻のレイシーが失踪した」という連絡が警察に入った。当時、レイシーは身ごもっており妊娠8ヶ月。このニュースは、瞬く間に全米注目の的となり、スコットは一躍「時の人」に。スコットは捜査に協力的だったが、言動に不審な点があること、スコットが浮気をしていた事実などから、警察は次第に容疑者として目を向けるようになっていく。

そして事件発生後から4ヶ月後の2003年4月13日にレイシーとその胎児がサンフランシスコ湾で発見され、4月18日にスコットは逮捕。状況証拠のみではあったが、スコットには死刑判決が下されたのである。これが本作のもととなったスコット・ピーターソン事件の概要である。

ゴーンガール①

この概要だけ聞くと、スコット・ピーターソンがサイコパスなんじゃないかと思うかもしれないが、本作の原作小説を書いたギリアン・フリンはこの事件をベースに見事なサイコサスペンスに仕上げている。

主人公のニックを演じたのは『アルゴ』(2012年)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)のベン・アフレック。妻のエイミーを演じたのは『007 ダイ・アナザー・デイ』(2002年)、『プライベート・ウォー』(2019年)のロザムンド・パイク。

本作を撮ったデビッド・フィンチャー監督は、これまでにも『セブン』(1996年)、『ゾディアック』(2007年)など、シリアルキラーが登場する作品を多く撮っており、本作のスタイリッシュな演出もお見事。本作は第68回アカデミー賞にて、主演女優賞、脚本賞にもノミネートされている。一級のサイコサスペンス、興味がある人は是非チェックしてほしい。

【北九州監禁殺人事件『クリーピー 偽りの隣人』】

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製作年:2016年 製作国:日本 監督:黒沢清

北九州監禁殺人事件、日本在住の方ならこの事件を耳にした人は多いだろう。事件発生が2002年と、割かし最近なのとその凄惨過ぎる内容は、連日ワイドショーを賑わせた(しかし事件内容が凄惨過ぎた事もあり、報道規制が引かれたが)。

事件の概要は松永という一人のサイコパスが、九州のある一家をマインドコントロールし、自分の手を下さず殺人・死体解体を行わせたというもの。この事件ではじつに7人もの人間が亡くなっている。

クリーピー③

事件の詳細はこちらを読んで頂くとして、その方法がとてつもなくえぐい。彼はターゲットとなる人物(警戒心が薄く、世間体を気にする等の特徴を持つ人物)に近づくとお酒などを使い弱みを吐かせたのちに、その弱みにつけこんだ。

拷問(電気ショック等)と虐待によって、被害者達を完全に自分のコントロール下におき、お互いの不満をぶつけさせることにより相互不信を起こして逆らえなくし、被害者同士で虐待をさせることで相互不信を一層深くさせ、自分の手は汚さずに用済みとなった人間を殺害して死体処理を行わせている。(Wikipedia参照)

クリーピー①

この事件は、その凄惨たる内容から様々なクリエイター達の題材となる事も多く、本作もそうだが、上記で挙げた園子温監督の『愛なき森で叫べ』や漫画家の真鍋昌平『闇金ウシジマくん』のエピソードの一つ(洗脳くん)などで、題材にされている。

本作は前川裕の小説『クリーピー』が原作となっているが、映画版の方がより北九州監禁殺人事件を意識してるような演出が見られる。

本作の監督である黒沢清は、『CURE』(1997年)などサイコ的な映画を撮っている事もあり、この事件に興味を持ったのも納得だろう。本作では、人をマインドコントロールする凶悪な男、西野を香川照之が演じており、不気味なクリーピーという名の通り、鳥肌が立つような怖さを発揮している。西野に巻き込まれる夫婦を西島秀俊と竹内結子が演じている。

正直な話、元となっている北九州監禁殺人事件が凄惨すぎて、衝撃度だけでいうと、映画版はおとなしい気もする(これはウシジマくんを読んでも思ったことだが)まさに事実は小説よりも奇なりといったところか。ただ、映画も香川照之の怪演や黒沢清監督の不穏な演出など見るべき所も多い作品だ。


3.【日常生活におけるサイコパスの可能性『さよならみどりちゃん』】

さよならみどりちゃんポスター画像
製作年:2004年 製作国:日本 監督:古厩智之

ここでは少し毛色を変えて、サスペンスやホラー、スリラー等のジャンル以外でサイコパスが登場する作品について語りたい。上記で述べたとおり、サイコパスの大部分は、シリアルキラーのような凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者であるとされている。

つまり、日常生活の中にも、サイコパスもしくはサイコパス気質のキャラクターがでてくる映画がある可能性も充分にあると考えられる。そういった意味で、筆者はこの作品を挙げたい。

『さよならみどりちゃん』は、恋人のいる男性を好きになってしまった女性の心情を描いた恋愛映画である。主演のゆうこを演じたのは、テレビドラマ『3年B組金八先生』シリーズ、映画『私は猫ストーカー』(2009年)の星野真理、ユタカを演じたのは、テレビドラマ『MOZU』シリーズ、映画『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)の西島秀俊。

さよならみどりちゃん①

ここで挙げたいのは、主人公のゆうこが好きになるユタカという人物。彼は『みどりちゃん』という恋人がいながら、平然とゆうこと関係を持つ(ゆうこに恋人がいると告げるのは、初めて肉体関係をもった晩)。肉体関係はあるが、ゆうこはユタカの電話番号も知らなければ、人に紹介される時も恋人ではないと言われる。ここまでは、まだよくある事かもしれない。

しかし、ユタカはゆうこをスナックに勤めさせたり(勝手にお店の人と話をつけている)、他の女性との、子供を堕胎させた事を平然と言ってのけたり、ゆうこに目の前で「目の前で〇〇ニーしろ」と命令したり、見てて「コイツはサイコパスなんじゃないか…」と思わせる場面が多い。

本作の原作は、漫画家の南Q太の同名漫画を実写化したもの。漫画の方も見てみたが、正直、漫画だと絵柄や描き方もコミカルで、ユタカに冷たさも感じないのだが、映画はユタカを演じる西島秀俊の演技も相まって非常に冷たく見える。

無論、これだけでユタカをサイコパスと断定することはできないし、またサイコパス的特徴は少なからず、誰もが持ち合わせてる要素でもある。ただ、サイコパス=身近にいる存在なら、凶悪犯ではないサイコパスが登場する映画もあるのではないだろうか。そういう視点で、映画を観るのも面白いかもしれない。

さよならみどりちゃん②

本作は、星野真理の体当たりな演技とダメ人間だけど魅力的なユタカ演じる西島秀俊の演技が見所。特に西島秀俊の水浴びシーンは、ファンなら必見の場面だろう。

【サイコパスの治療法】

精神科やカウンセリングで改善効果が見られる傾向がある。ただし、現時点では完全な治療方法は確立されていない。

治療法には、心理療法だけでなく薬物療法も存在するが、薬物治療は、原因の治療ではなく、一時的な対処法と考えられている。

サイコパスは患者自身の治療に対する姿勢も効果に大きな差が生まれるとされており、グループ療法などが改善に向かう場合もあれば、逆に悪化する場合などもあるとの報告もある。

【まとめ】

いかがだったろうか、サイコパスを描いた作品は数が多いが、改めて調べるとその定義は、とても曖昧かつ区分分けしづらいものであることが分かった。

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サイコパスが出てる作品を調べてみて、「サイコパス=悪」という単一的な描き方が多いのが気になった。その特徴からそう描かれるのは至極当然だともいえるが、サイコパス=病気と定義するなら、悪人以外の描き方があってもいいかもしれない。また、その数の多さから共存なども考えていかなければならないかもしれない。

今回挙げたのは7作品だけだが、サイコパスが出てくるとされる映画は数が多いので、興味がある方は更に調べてみるのも面白いと思う。気になる作品がある方は、この機会に観てみてはいかがだろう。

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