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【真相は湿地に眠る】映画『ザリガニの鳴くところ』は女性にこそ観て欲しい

11月18日(金)から公開の映画『ザリガニの鳴くところ』。60年代のアメリカの湿地帯を舞台にある殺人事件の真相と容疑を掛けられた女性の人生を廻る物語だ。

原作は2019年&2020年の2年連続でアメリカで最も売れた小説で、全世界で累計1500万部を超える驚異的な売上を記録している。日本でも2021年の本屋大賞翻訳小説部門第1位を獲得するなど高い評価を得ている。

この作品、試写会で一足先に鑑賞してきました(ちなみに原作は未読)。
今回の記事ではネタバレなし(公式サイトに載ってるあらすじ程度の情報)で本作の感想と交えて紹介していきます。

2022年製作/125分/G/アメリカ

まず題名を見て、皆が一回は思うであろうことを。

ザリガニって鳴くの?

という疑問。

原作となった小説の原題は『Where the Crawdads Sing』。「Crawdads」は「ザリガニ」という意味なので、邦題が意訳ではない事もわかる。
※ちなみにザリガニの一般の英訳は「crayfish」で「Crawdads」はアメリカの一部で使用されてる方言のようなニュアンスらしい。

筆者も子供の頃は田んぼなどでザリガニを採ったものだけど、ザリガニが鳴いたところなんて聞いた覚えがない。

少し調べたが、残念ながら鳴き声に言及したサイトは発見できなかった(鳴かないと述べてるサイトはあったが…)。
もし詳細をご存知の方がいたら是非コメントなどで教えて頂きたい。

また下記のブログでザリガニの鳴き声について既に調べていたので興味ある方はどうぞ。

ということで、少し話が脱線したが、ここからは映画の紹介&感想を。

本作を一言で表すなら、ミステリーであり法廷モノであり1人の女性の人生を辿る物語といえる。

ポスターや予告編の印象から、ミステリー色が強い作品を想像していたが、それよりは主人公であるカイアの人生に焦点を当てた作品だと感じた。若干のファンタジー色も感じたので、本格ミステリーを期待すると肩透かしを喰らうかもしれない。

あらすじ:物語の舞台は1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める…。

(公式サイトより抜粋)

本作の特徴としては全編「湿地帯」が舞台となっていることが挙げられる。
「湿地」という言葉自体は知ってるが、自分にはあまり馴染みのない場所だ。生活圏内には見当たらないし出向いたこともない。北欧ミステリーの舞台となることが多いせいか、筆者は陰鬱なイメージを抱いていた。

劇中でも住民から忌み嫌われる場所として扱われてるので、実際「湿地」という場所自体あまり快く思われてないのだろう。

そういう意味で本作は湿地の印象を大きく覆してくれた。劇中にはさまざまな湿地の一面が映されるがその一つ一つが目を見張るよう。ここまで鮮やかで美しい湿地を描いた作品は観たのは初めて。

筆者が特に魅せられたのは、カイヤがムール貝を採りにいく場面。太陽が昇りきる前の空の色が美しくて見入ってしまった。美しい自然描写と多くの生き物が登場するのも作品の魅力の一つだ。 

劇中にはこの場面のような美しい景色が映し出される

映画は法廷で事件の詳細を明らかにしていく現在パートと、カイヤの人生を回想していく過去パートが交互に映されるという構成になっている。

カイヤの半生は壮絶だ。本作には子供や女性が弱者が受けるであろう「痛み」が描かれている。観客はカイヤの人生を追体験していくが、子供時代の描写など筆者は本当に怖くて観てるのがキツかった。

そうした苦難の中で逞しく生きていくカイヤが何とも魅力的。大事なのはカイヤは救いを待つ悲劇のヒロインではないということ。カイヤの前には何人かの男たちが現れるが彼らはカイヤの理解者でも救世主でもない。

カイヤは湿地で生まれ湿地と共に生きている、そしてその生活に満足している。この物語は女性が自分だけの力で人生を切り開いていく物語なのだ。

ポスタービジュアルのイメージから陰鬱で重い作品かと思ってるかもしれないが(実際そういう要素もある)、本作には恋愛要素もあり、淡い展開に心がくすぐられたりもする。カイヤの前には2人の男が現れるが、これが全く正反対という恋愛漫画にあるような展開が面白い。美しい自然の描写やカイヤ自身の設定と相まってファンタジー映画のような印象も感じた。

カイヤの美人で頭も良いという設定もけっこうファンタジック。

女性が生き抜くという要素に、こうした恋愛要素など含めて本作は女性にこそ強く刺さる作品だと思う(もちろん男性が観ても楽しめると思うが)。

そもそも本作は原作に感銘を受けた女優リース・ウィザースプーンが映像化権を獲得したというところから映画化の企画が始まっている(さらに自らプロデューサーも担当している)。

それだけではなく世界的シンガーソングライターのテイラー・スウィフトも原作に惚れ込み「この魅力的な物語に合うような心に残る美しい曲を作りたかった」と自ら懇願して楽曲を書き下ろしている。何の情報も知らずに観ていたのでエンディングでテイラーの曲が流れた時は驚いた(下記の動画が本作の主題歌)。

こうした製作経緯からも本作の原作が特に女性から支持を得ていることが伺える。

ということで、想像していた作品とは少し違ったけど面白かった。「今」、そして「これから」を象徴するような作品だとも感じた。

【追記】
筆者は上述した通り、最初は湿地をジメジメした陰鬱な場所だと思っていた。だけど、この映画で映される湿地は鮮やかで美しく想像と全然違うものだった。

これって町の皆がカイヤに勝手に抱いている印象と同じなんだよね。
皆、カイヤのことをよく分からない不気味な存在だと思っている。でも黒人夫婦を始め一部の人はカイヤの美しさや賢さを知っている。
なぜカイヤはここまで湿地を愛し湿地に拘ったのかと思っていたが、カイヤと湿地は表裏一体の存在だから当然だったんだな。
(ということを、この映画を考えてる時に思い浮かんだので追記しときます。2022/11/14)



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