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【トラウマ級恋愛映画】『猿楽町で会いましょう』が恐ろしくて素晴らしい!

6月4日から公開されている『猿楽町で会いましょう』。駆け出し写真家の小山田と読者モデルのユカ。ユカの写真を撮ったことをキッカケに、小山田はユカに惹かれていく。徐々に距離を縮めていった2人は付き合うことになるが、ユカにはある秘密があった…というあらすじ。
主役の小山田を演じるのは『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』(2019年)の金子大地、『イソップの思うつぼ』(2019年)、『左様なら』(2019年)の石川瑠華がユカ役を演じるほか、栁俊太郎、小西桜子、前野健太らが脇を固めている。

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本作は、次世代のクリエイターを発掘する「第2回未完成映画予告編大賞MI-CAN」において、グランプリを獲得したことをキッカケに制作された作品だ。監督の児山隆は本作が初長編監督作品となる。

さて、そんな本作だが、まずこのポスターを見て欲しい。ポスタービジュアルからどんな印象を受けるだろう?映っているのは、仲睦まじい男女の若者。この姿から『愛がなんだ』(2019年)、『花束みたいな恋をした』(2021年)のような映画を連想した人も多いのではないだろうか?筆者も本作を観る前はそうだった。しかし、実際観てみると、これが恐怖すら感じるトラウマ級の恋愛映画だったから驚いた。ここより以下は本作の感想と共に内容を紹介していく。なお、直接的なネタバレは避けているが、内容に触れているため、未見の方は自己責任でお読みください。

※これより下はネタバレしてます。未見の方は自己責任でお願いします。

本作は一言で言うと「痛い恋愛」だ。小山田は信じた恋人の酷い裏切りにあう。ユカは一見清純そうだが、その実は嘘だらけ。行動だけ見るとメンヘラといえるだろう。LINEの下りなんて、小山田の気持ちを考えると胸が痛くなる。証拠を突きつけても、徹底的にしらをきるユカの姿は空恐ろしい。そりゃ「頼むから本当のこと言ってくれ!」ってなるよ。だけど、こういう恋愛は珍しくはないし、ユカみたいな子も実際いる。本作は身近に感じる話だからこそ観る者の胸に刺さるのだ。

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これだけだと普通の恋愛映画だが、本作が面白いのは、ユカの視点の物語が描かれていることだ。ユカの視点から物語を見ると、ミステリアスかつ悪女に思えるユカの別の面が見えてくる。そこから分かるのは順風満帆とはいえないユカの境遇。例えば、ユカは俳優育成スクールの多大な授業料を稼ぐために性的なマッサージ店で働いている。「無料」という謳い文句で、実際は高額な費用が掛かるというのもよくある手口だ。最初は、授業料返還のために働いていたマッサージ店も生活のため、辞めるに辞められなくなっていく。こうした描写から分かるのは、何も知らない少女が都会に搾取されていくという構図。そして、もう一つがユカが出会う男達だ。雑誌に掲載する代わりに性的関係を強要する編集者や、性的マッサージ店に来る客やバイト仲間など、ユカの前に表れるのは傍から見てても気持ちの悪い男たちばかり。こうした男たちと出会ってきたからこそ、ユカは男性を心の底から信じられなくなってしまったのかもしれないとすら考えてしまう。

展開も時系列を入れ替えてるからこそ、より効果的。前半で「ユカってどんな子なんだ?」と思わせておいて、後半でユカの置かれてる状況を明かしていく。サスペンス要素のある本作においては、まるで犯人の過去が分かるかのよう。だからこそ、スクリーンにより引きつけられる。時系列順ならここまで胸にせまることもないだろう。

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ユカの真意は分からないが、筆者は恐らくユカは嘘はついてないんだろうと考える。瞬間、瞬間、その時の喜びで生きる、そういう人は確かにいる。他人の言葉で喋る様子から、ユカの自己肯定感が低いことも伺える。ラストの「本当の自分なんて知りたくない」と答えたインタビューこそ、ユカの本音だろうし、最後に街の奥に駆けていく姿は都会に呑まれてしまったように見える。本作は気軽に観たら、人のことを信じれなくなるような怖さを感じてしまう映画だ。だが、それだけじゃなく多面的な人物像も描かれている、そこが素晴らしい。

猿楽町で会いましょうポスター画像(1)

主演の小山田を演じた金子大地の絶妙なダサさもハマっているし(敢えて金髪にしたらしい)ユカを演じた石川瑠華の体当たりの演技は、文句なく素晴らしい。石川瑠華の存在なくして本作の成功はなかっただろう。ちなみに児玉監督はInstagramを通じて石川さんに連絡をしたとのことで、劇中の小山田とユカに重なる点があるのも面白い。また、本作を製作するうえで、児玉監督はトラウマ恋愛映画として有名な『ブルーバレンタイン』(2011年)を参考にしたとのこと。まさに本作は日本のトラウマ恋愛映画の一つといえる。児山隆監督、今作が初長編作品ということだが、今後が楽しみな監督だ。

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