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【何かエラいものを観た】『ジャッリカットゥ 牛の怒り』【まさに怪作】

7月17日から公開されているインド映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』。逃げた牛を追い掛ける人々の姿を描いた本作は、本年度アカデミー賞の国際長編映画賞のインド代表作品に選ばれた他、国内の賞レースを席巻している話題作だ。

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筆者が、本作を観ようと決めたのは、予告編のこのコメントを見たから。

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徒歩版マッドマックス!?あの傑作を引き合いに出されたなら観ない訳にはいかない。という訳で、渋谷のイメージフォーラムで鑑賞してたきた訳だが、予想とは違うが、何かエラいものを観てしまった…という気持ちにさせてくれる作品だった。ここでは内容の紹介とともに感想を記しておきたい。

【そもそも『ジャリカットゥ』とは?】

牛追い競技・ジャッリカットゥについて
ジャッリカットゥは、牛を群衆の中に放ち逃げようとする牛の背中の大きなコブに参加者が両手で捕まり続けることを競う牛追い競技である。参加者は、コブにしがみつき牛が逃げようとするのを力ずくで止める。また、地域によっては牛に取り付き、角につけられた旗を奪う。 インドのタミル・ナードゥ州を中心に2000年を超える歴史を持つと言われ、毎年ポンガルという収穫祭の頃に行われる。タミル・ナードゥ州ではプロリーグも存在している。 非常に危険な競技で、2008年から2017年の間では43人の人間、4頭の牛が犠牲となっている。動物愛護の観点からジャッリカットゥは2014年に一旦インド政府により禁止されたが、2017年には百万人を超える民衆が参加する大きな抗議運動が起こり、タミル・ナードゥ州では改めて競技開催が認められることになった。(公式サイトより抜粋)

上記の通り「ジャリカットゥ」は200年以上の歴史を持つインドの伝統競技ということが分かる。ただし、本作はこの競技を題材とした物語ではない。本作は、逃げた牛を巡って村が大騒動に発展するという話だ。恐らく、話の内容とジャリカットゥの競技内容が重なることから、このタイトルをつけたのだろう。また、劇中の牛は正確には「水牛」。なので、正確な邦題をつけるなら「水牛の怒り」となるだろう。

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【お馬鹿映画というよりは社会派?!】

本作はインド映画だが、日本で公開される通常のインド映画と異なる点が2つある。1つはインド映画なのに踊らないという点。インド映画と聞くと、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1998年)や、『きっとうまくいく』(2013年)、『バーフバリ 伝説誕生』(2017年)などダンスシーンが挟まれるのが定説だが、本作では挟まれない。

そして、もう一つがインド映画なのにキリスト教がモチーフとなっている点。これまでのインド映画だとヒンディー教がベースになっている作品しか見てこなかったために、これはかなり意外な点だった。
本作の舞台となっているケーララ州は、インドの他の地方に比べイスラム教徒とキリスト教を信仰している人々の割合が多い地域とされている。(パンフレットに詳細な記載があるので、気になる人はパンフの購入を薦めたい)この2つの点からも、本作がインド映画の中でも異色作だということが分かるだろう。

本作の予告編では、登場人物の紹介がされているが、本作のリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督曰わく「群集としての人々」を描きたかったという事で、感情移入するほど登場人物に焦点を当てているようには思わなかった。むしろ映画は一歩引いた視点から撮られてるような距離感が感じられる。

ジャリカットゥ⑤ (1)

逃げた牛を巡って村が大混乱になる。このあらすじと『徒歩版マッドマックス』というキャッチコピーからお馬鹿映画を連想するかもしれないが、本作で描かれるテーマや題材は至って真面目。アート系映画のような趣すらある。筆者のようにエンタメ系を期待して観にいったら、拍子抜けをする人もいることだろう。

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【ほとばしるエネルギーに圧倒される!】

それでは本作がつまらなかったかというと、それは全く違う。
まず、本作は全編通じて画面からほとばしるエネルギーが凄まじい。
出てくる登場人物全員がハイテンション過ぎるのだ。薬でもキメてるのかと思うようなレベル。

更にケチャを思わせるような音楽も臨場感を引き上げる。(この音楽のセレクトも従来のインド映画っぽくない)本作の音楽はサントラを発売して欲しいくらい格好良い。役者陣のハイテンションと素晴らしい音楽に引き込まれるかのような91分だった。

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後、映画好きとして挙げておきたいのが、あの傑作『ゼイリブ』(1989年)を思い出してしまうような珍場面があるということ。(どの場面の事を言っているのかは観てもらったらすぐわかると思う)『ゼイリブ』を知ってる人なら、この場面は思わず顔がにやけてしまうことだろう。

ゼイリブ① (1)

そして怒涛のラストシーン。それまで全く話の嚙み合ってない人々が一団となって一つになっていく場面。何かエラいものを見ている気持ちが最も良く味わえるのが、この場面だろう。この映画を観て、アリ・アスター監督が本作を好きと言った理由がよく分かった。

ここで注目したいのが、前述したキリスト教がモチーフになっているという点。本作の始まりと終わりで引用されているのがヨハネの黙示録。この文言も意味深だが、映画の終わりでラッパが鳴っているという事も気になった。果たしてラッパは何回吹かれたのか…もう一度鑑賞した際は是非この点もチェックしてみたいと思う。

ということで『ジャッリカットゥ 牛の怒り』、ハマる、ハマらないは別として、何かしらの衝撃を与えてくれる作品であることは間違いない。気になる人は是非チェックして見て欲しい。


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