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【炙り出される】映画『聖なる犯罪者』【人間の業】

1月15日の金曜日から公開されているポーランド映画の『聖なる犯罪者』。本作は2019年のヴェネチア国際映画祭で上映されたほか、トロント国際映画祭など世界中の映画祭で上映され数多くの賞を獲得している。アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたほか、ポーランドのアカデミー賞とされるORL Eagle Awardsでは作品賞、監督賞、脚本賞など11もの賞を受賞している。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)、『ベイビー・ドライバー』(2017年)のエドガー・ライト監督からは「とんでもない映画だ!生々しい現実をスリル満点に描いている」とのコメントが、『タンジェリン』(2017年)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2018年)のショーン・ベイカー監督からも「大胆で、面白く、情け容赦ない映画だ」との絶賛コメントが届いている。日本でも映画レビューサービスのFilmarksで初日満足度1位を獲得している。

監督はポーランド出身の若手監督のヤン・コマサ。長編2作目の『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』(2014年)はポーランドでは180万人を動員する大ヒットを記録し、Netflix作品の『ヘイター』(2020年)も高い評価を得ている。ということで、筆者も公開前から気になっていた本作。1月16日の土曜日に、新宿武蔵野館の15時25分の回で鑑賞してきたぞ。(ちなみに緊急事態宣言下ではあったが、公開初週の土曜ということで自分が観た回はほぼ満席だった)

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鑑賞後は、しばらく余韻をひきずるような頭を打ちのめされたような感覚を覚えるすさまじい映画だった。ここでは本作の魅力を筆者なりに紹介していきたいと思う。

【作品情報:『聖なる犯罪者』】

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製作年:2019年 製作国:ポーランド・フランス合作 監督:ヤン・コマサ

過去を偽り聖職者として生きる男の運命を描き、第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたポーランド発の人間ドラマ。少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けないと知りながらも神父になることを夢見ていた。仮釈放され田舎の製材所で働き始めた彼は、ふと立ち寄った教会で新任の司祭と勘違いされ、司祭の代わりを命じられる。村人たちは司祭らしからぬダニエルに戸惑うが、徐々に彼を信頼するようになっていく。数年前にこの土地で起きた凄惨な事故を知ったダニエルは、村人たちの心の傷を癒やそうと模索する。しかしダニエルの過去を知る男の出現により、事態は思わぬ方向へと転がっていく。(映画.com参照)

【神父になりすました青年が村の秘密に挑む。まるで良質なミステリーを読んでるかのよう】

少年院から仮出所した若者が、成り行きでとある村の神父になる。そんな導入部で始まる本作は、実際にポーランドで起きた事件が基となっている。実はこうした神父になりすます事件はポーランドで頻繁に起こっているらしく、脚本をつとめたマテウシュ・パツェビチュはその理由をこちらで分析している。(映画.com様参照)
そんな本作、鑑賞前は、予告編やあらすじの印象から「神父になりすました青年が、バレそうになるのをかわすサスペンス」だと思っていたが、実際は「神父になりすました青年が、村の暗部に対してどう挑むのか?」という物語だったから驚いた。鑑賞中は、まるでミステリー小説を読んでるかのような感覚。小さな村の謎に迫るような要素もあって、気付いたら映画の世界にすっかり引き込まれていた。

【善悪を超えた先に炙り出される人間の業】

本作のテーマの一つとして『人は変われるのか?』ということが挙げられると思う。
ダニエルが神父をつとめる村の人々。最初こそ突然表れたダニエルに戸惑っている様子だが、ダニエルの熱心な姿もあって次第に打ち解けていく。
何の変哲もない良い人々の別の面が見え始めるのは映画の中盤ごろ。村に起こったある事件がきっかけだ。そして、それを機にダニエルは村人の隠れた姿に直面していく。
この村の暗部に偽物である神父が挑むという構図自体が皮肉的で面白い。(しかも本来、この問題に立ち向かうべきであろう本当の神父が…という状況なのも余計その状況を際だたせる)

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ここで描かれているのは、善と悪といった単純な二元論では割り切れない人間という生き物の複雑さ。ダニエルは村の人々を変えようと必死に行動するが、『人は変われるか?』という問いは、実はダニエル自身も問われている。人を必死に救おうとしたダニエル自身はどうだったのか?その答えがあのラストシーンなんだろう。
見終わった後に振り返ると、この映画は、人間という生き物がもつ不安定さや危うさといった「業」のようなものが炙り出しているようにも思える。

【主演のバルトシュ・ビィエレニアの演技の凄まじさ】

本作をより面白くしてる要素の一つが、主演のダニエルを演じたバルトシュ・ビィエレニアの演技力だ。映画.com様のプロフィールによると、7歳の頃から舞台を中心にTVや映画などで活躍してるベテラン俳優のよう。
このバルトシュさん、目力が凄い。特に印象的なのが序盤の少年院を仮出所してからのクラブの場面、もう目がバッキバキでいかにもジャンキーといった感じ。

聖なる犯罪者①

冒頭の場面から神父になるまでの、いかにもヤバげなジャンキーといった雰囲気から(そりゃ神父といっても信じられん訳だ)、神父として活躍していく場面はダニエルの目の光も輝いているように思える。
そして特に注目して欲しいのはラスト、臨場感あふれるカメラワークも相まって迫力が凄いのだが、特にダニエルの表情が印象的。あの表情は脳裏に焼き付いて忘れられない。

ということで、いかがだっただろうか?なかなか外出するのも難しい時期だとは思うが、気になった人は是非チェックして見て欲しい。


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