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【仕事を失った世界は人類に幸せをもたらすか?】SF小説『タイタン』を読んで思うこと

1月17日に発売された小説『タイタン』

AI「タイタン」により人類が労働から解放された未来。心理学を学んでいる内匠成果ないしょうせいかは、ある日、国連のエージェントから「仕事」を依頼される。

その仕事とは、労働力が低下してしまったAIのカウンセリングを行うことだった。

作者は『know』で第34回日本SF大賞にノミネートされ、劇場版アニメーション『HELLO WORLD』で脚本をつとめた野崎まど先生

私は普段、SF小説をそんなに読まない。
読んだとしても80~00年代の古い海外SFが多く(直近で読んだのはアンナ・カヴァンの『氷』)、もしかしたら国内のSF小説を購入したのは初めてかもしれない。

本書を読もうと思ったキッカケは、ダ・ヴィンチ恐山こと、品田遊さんの解説文を見かけたから。
ダ・ヴィンチ恐山さんは、以前からYourubeの『オモコロチャンネル』で拝見しており、小説家らしいユニークな受け答えが面白いと思っていた。
本書の帯に恐山さんの顔写真が載っていたのを見て、思わず手に取ったのだ。

ただ、いくら自分がよく見ている人がお勧めしていたとしても、それだけで購入することはない。

購入を決めたのは、解説文を読んでいた時のあるフレーズが目に入ったから。それは

仕事とは何か?

というフレーズ。

仕事。それは私たちの人生と密接に関わるもの。
時間にすると人は人生の大半を仕事に捧げている。社会で生きていく上で、誰しもがその意味を一度は考えるのではないだろうか?

私が考える仕事は「社会で生きていく上で必要なこと」。必要とは避けられないこととも言い換えれる。

つまり仕事は「義務」だ。人は社会で生きていく上で仕事という義務からは逃れられない。

とても後ろ向きな回答に見えるかもしれない。勿論、それ以外の意味も含んでいるが、仕事の本質は義務だと思っている。
そして私のように考えている人は多いのではないだろうか。

通常であれば、仕事の意味について考えることはそこで終わるだろう。現実問題、仕事の意味について考えても仕事から逃れられる訳ではないし、思考を巡らすより、目の前の仕事を片付けることが大事だからだ。

だが、本編の舞台となっている世界では、人は仕事という義務から解放されている。

仕事をしなくていい世界。

人と仕事が切り離された世界で「仕事」にどのような意味を見出すのか?

まずここが興味を引かれた点の1つ。

2つ目に

仕事が無くなった人類は幸福なのか?

という点も気になった。

ネタバレしない程度(本の概要やあらすじ文に書いてあること)に内容について書くと、主人公はカウンセリングしたAIと旅に出ることになる。その旅の過程での体験を通して仕事の意味を考えていく。

本書を読んで思ったのは、これがアップデートされたSFの価値観だといこと。人工知能が人類に対して反逆を企てるという設定はもう古い。人類とAIはもう対等ではないし、作者はその先を描いている。

作者は、本書で人間の目から見た「AIによる神話(もしくはAI史)」を描きたいたのだと感じた。それと同時に人間が生物界の頂点から降りる姿も描かれる。未来の世界では人類は脇役なのだ。

本書の最大のテーマでもある「仕事とは何か?」という問いに対しても、答えを出している。その答えは読んでいて納得いくものだった。

私が気になった「仕事がなくなった世界が幸せか否か?」という問いに対する答えも分かった気がする。

「仕事のない世界が幸せか否か?」それを決めるのは個々の主観でしかない。その人が人生において「仕事」をどう捉えているかで答えは変わる。

では、仕事を義務と思っている私はどう思ったか?
「仕事の全くない世界は物足りない、毎日仕事に追われる生活は嫌だ。なので適度に仕事があるのは嬉しい」という何ともワガママな答えに落ち着いた。

本書で描かれる世界は羨ましくあるし体験もしたくもなる(何より一軒の部屋数が多いのが最高)。だけど、仕事がなくなることは何か大事なものを失う気もする(それが本書で描かれる仕事の意味なのだろう)。

このままAIの進化が進めば、このような世界が実現する未来もあり得るのかもしれない。

だが、今は、少なくても自分が生きている内は逃れられないであろう「仕事」に向き合い励むしかない。

そういう意味でも、本書は「仕事」に対して前向きな気持ちにもさせてくれた。「仕事をする意味って何だろう?」そんな疑問符が浮かんだ人、浮かんでる人は読んでみてもいいかもしれない。

※ダ・ヴィンチ恐山さんが所属しているWEBメディア『オモコロ』のチャンネル。


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