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親子に向けたメッセージ性が素晴らしい。だが、気になる点もあった『映画ドラえもん のび太の新恐竜』

8月7日に公開された『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(ちなみに8月7日はのび太の誕生日!本来は『STAND BY ME ドラえもん2』の公開日だった)本作はドラえもん連載50周年&映画40作目という事で、大々的なプロモーションを行うなど宣伝にも力を入れていたが(詳しくは下記参照)、新型コロナウイルスの感染拡大によって、3月から公開延期となっていた。

今回、夏休み映画として遂に公開されたので。筆者も8月9日に、TOHOシネマズ川崎の19:15~の回で鑑賞してきた(お客さんは自分含めて3人!公開週の日曜にしては少ない印象だが、ドラえもんは1日の上映回数がかなり多いのと、時間帯的に親子連れは厳しいのかもしれない)

ドラえもん新恐竜④

50周年という事で、公開前からかなり楽しみにしていた作品。脚本&作画、共に、物凄く気合が入っている事は感じ取れた。筆者的にはおおむね満足だったが、若干もやっとする箇所もあった。ここでは、筆者が思う本作の良かった点、気になった点を述べていきたい。

※内容のネタバレをしているので、鑑賞してから読むことをお勧めします。

【作品情報:『ドラえもん のび太の新恐竜』】

ドラえもん新恐竜②

製作年:2020年 製作国:日本 監督:今井一暁

夏のある日、皆で恐竜博に出かけたのび太は、化石発掘体験で卵の形をした化石を見つける。ドラえもんのひみつ道具「タイムふろしき」で化石を元の状態に戻したところ、卵の中から双子の恐竜が生まれる。それはまだ発見されてない新恐竜だった。2匹をキューとミューと名づけて育てるのび太だったが、やがて2匹を元の時代に返すことになる。ドラえもんや仲間たちとともに白亜紀の日本へ向かうのび太だったが…

【親と子、それぞれに向けたメッセージ性が素晴らしい…まさに親子向け映画の真骨頂!】

本作の監督×脚本は、今井一暁×川村元気。このコンビは興行収入53.7億円を記録し、シリーズ最大のヒット作となった『ドラえもん のび太の宝島』(2018年)のコンビでもある。連載開始50周年&シリーズ40作目という事で、製作側も最高の布陣を用意したことが伺える(『のび太の宝島』は筆者も鑑賞したが、近年の映画ドラえもんシリーズの中でも屈指の出来だと感じた。特に終盤のシルバとフロックのやり取りは思わず眼頭が熱くなってしまった)

のび太の宝島①

今作では、のび太と、のび太が育てることになる恐竜キューとの関係が、映画の見どころの一つとなるのだが、この見せ方が素晴らしい。映画ドラえもんシリーズは、小学生くらいまでの子供とその親の「親子連れ」がメインターゲットなのだが、本作は親と子、どちらから見ても楽しめるよう二通りのメッセージが含まれていると思った。一つはのび太がキューを育てる場面。映画冒頭で、ドラえもんはのび太に、生き物を買うのは大変だから君には無理、と言う場面がある。その後、のび太は2匹の恐竜を育てる事になるが、ドラえもんの言葉通り、食べ物を食べなかったり、病気になったりするキューに奮闘するのび太の姿が描かれる。そんなのび太の姿は、子供に「生き物を育てる事の大変さ」を教えるようにも思えるのある。

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そしてもう一つはのび太とキューの疑似親子関係。食べ物をもどしてしまったキューに対してのび太が慌てる場面や、キューと一緒に添い寝する場面、飛べないキューに対してのび太が怒ってしまう場面…これはまさに親が子供を育てる姿である。観ながら、我が子の成長過程を思い出してしまう人も多いのではないだろうか。親と子、どちらが見ても楽しめるように工夫された脚本、こういう巧みさは、さすが川村元気と観てて感心してしまった。

【主題歌はMr.Children!気合の入った作画と演出は必見の出来!】

本作の見どころとして、脚本以外に主題歌がMr.Children、ゲスト声優が木村拓哉と渡辺直美という点が挙げられる。この起用にも親世代を強く意識している点が伺える。Mr.Children木村拓哉、どちらも現在も人気はあるが、本作を観に行く親世代(90年代のカルチャーに慣れ親しんだ世代)にとっては特に刺さる世代となっているのではないだろうか。

ミスターチルドレン①

そして50周年という事で、作画のクオリティはさすが。画に圧倒的な説得力がある。このアニメーションの素晴らしさは、劇場で体感するに相応しい。映画ドラえもんシリーズは、タイアップ主題歌を劇中の場面とシンクロさせるという演出が恒例だが、今作では、ドラえもん達の旅する姿に、Mr.Childrenの『Birthday』が重なって描かれている。川村元気が関わっているという事で、筆者は『君の名は』や『天気の子』を少し思い出してしまった。

【観ててもやっとした点】

素晴らしい作画に、良くできた脚本。おおむね満足だったが、観ててもやっとする場面もいくつかあった。何点かあるので項目ごとに述べていきたい。

①『のび太の恐竜』との整合性:今回観てて、気になったのが『のび太の恐竜』の扱いだ。今作の中で、のび太はピー助の事を一切憶えていない。鑑賞後に調べたら、今作は『のび太の恐竜』の2度目のリブートにあたるという事で、納得したのだが(てっきり『のび太の恐竜』の続編にあたる話だと思っていた)知らない状態で観たから、中盤の場面で?になってしまった。リブートと分かれば、あの場面は親世代へのファンサービスというのは分かったのだが、鑑賞中は『あれ、やっぱり知ってるの?でも何で一度もピー助に対して言及しないんだろう』とモヤモヤしながら見てしまった。(しかも漫画版や原作小説では言及しているので尚更そう思える)

②結局できる=正解なのか?:本作の劇中で、のび太が逆上がりができなくて皆に馬鹿にされる場面がある。ここは、空が飛べないキューとリンクする本作でも重要な場面だ。キューも空が飛べない事で、仲間外れにされる。キューのために、のび太はスパルタともいえる特訓を行うのだが、いつしか自身も逆上がりの練習を行う。その甲斐あってキューは空を飛べるようになる。まさしく感動的な場面なのだが、引っかかったのが『結局できなければ駄目なのか?』という事。いくら努力してもできないこともある。本作のラストで、のび太は逆上がりができるようになるのだが、「それまで逆上がりの練習から目を背けていたのび太が、逆上がりの練習をするようになる」。筆者はこれだけでも充分な成長だと思うので、結果、できなかったとしても努力するという姿の方が、子供へのメッセージとしては素晴らしいのではないだろうかと考えてしまった。

③育てた恐竜を元いた時代へ返す=のび太のエゴか?:これは、筆者ではなく本作を鑑賞した人の感想であったものだが、本作でのび太は恐竜の卵を孵して育てるが、結局育てられないから生まれた時代へ返しに行く。この行為はのび太のエゴではないか?と書かれてる方がいた。筆者は特に気にならなかったが、言われてみるとなるほどという気もしなくない。映画ドラえもんは、基本的にのび太の願い(子供の願い)が物語の起点となっているし、恐竜は今の時代では飼えないだろうから、筆者はエゴとは違うと思うが、確かにそう思う人もいるのも分かる気がする。

【感想まとめ】

細かいところで気になった点もあったが、その点を含めても筆者は充分に楽しかった。特に親と子、それぞれに向けた脚本の巧さに感心した。筆者にもし子供がいたら、間違いなく一緒に観に行くだろう。ドラえもん、時間帯変更などで視聴率低下などのニュースも聞くが、やはり親子を繋げる存在として貴重な存在だと思う。来年の(リトルスターウォーズかな?)ドラえもん映画も楽しみだ。

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