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思い返せばあいつは俺のヒーローだった『佐々木、イン、マイマイン』

2020年11月27日に公開された『佐々木、イン、マイマイン』第33回東京国際映画祭で上映された本作は、初監督の作品『ヴァニタス』(2016年)がPFFアワード2016観客賞を受賞し、ロックバンドの「King Gnu」や、平井堅のMVなどを手がけている内山拓也監督の青春映画。

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下記の写真は、池袋シネマ・ロサであったが舞台挨拶上映の様子。登壇者は、内山拓也監督、藤原季節、細川岳、遊屋慎太郎、プロデューサーの汐田 海平の5人。

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【作品情報:『佐々木、イン、マイマイン』】

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製作年:2020年 製作国:日本 監督:内山拓也

俳優を目指し上京したものの、くすぶり続けている悠二。恋人のユキと別れたものの、今もダラダラと同棲を続けながら無気力な毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト先で高校時代の友人多田と再会した悠二。多田との出会いをきっかけに、自身の高校生活と、かつての友人「佐々木」と共に過ごした日々を思い返すようになる。そしてそれは悠二の今の生活にも少しずつ影響していき…

【誰の心の内にあるであろう青春の残像】

お調子者でクラスのお騒がせ者。誰の学校のクラスにも似たような存在は1人はいたであろう『佐々木』。本作は、彼の友人である悠二が佐々木を通じて、高校時代を思い返しながら少しずつ自身の人生の転機も迎えていく物語だ。友人宅でダラダラ過ごしたり、自転車で一緒に帰ったり一緒に出掛けたりと、学生時代のあの何の変哲もない日常が描かれる。NINTENDO64(やってるゲームはカスタムロボ)など、小道具にまで拘りを感じる本作は、存分にノスタルジーに浸らせてくれる。

また、筆者は別の記事でも挙げているが、ブロマンス好きなので、本作は4人でわちゃわちゃしてる姿や、悠二と佐々木の関係性だけでもかなり好感がもてる作品だった。(下記はブロマンスとブロマンス映画についてまとめたものなので気になる方はどうぞ)

しかし、本作は青春の懐かしい面を見せるだけの作品ではない。映画が進むにつれ、次第に明らかになってくる佐々木の境遇。ふとした時の虚無感や作品全体に漂う死の香りなど、人生の影の部分が描かれる。本作は青春映画ではあるが、いわゆる「リア充万歳」なキラキラ映画ではなく、アンニュイな雰囲気漂う青春映画なのだ。

そして、本作はノスタルジックに浸るだけの映画ではなく、今に繋がる映画でもある。悠二の佐々木の回想は思わぬ形で現在と結びつき、そして悠二の燻ってる現状を大きく変えることとなる
注目したいのは、悠二と佐々木の関係性。悠二達は基本4人でつるんでいるが、その中でも悠二と佐々木は特に仲が良いようにみえる。(少なくとも悠二の主観ではそう描かれている)佐々木は皆の前では決して見せない本心といえる表情を悠二にだけは見せるし、悠二も佐々木のセンシティブな部分を理解し気遣うようになる。

佐々木インマイマイン②

悠二は現在、役者をしているが、高校時代に役者を目指してることを、恐らく佐々木にだけ打ち明けていたであろう場面が映される。その時に佐々木がかける言葉「やりたいことやれよ。お前は大丈夫だから。」。記憶の隅に押しやっていたが、実は佐々木のこの言葉こそが、悠二の人生を決定づけた言葉なのかもしれない。筆者にはそのように思えた。またこの時、佐々木が静かに涙するのが印象的。推測するに、佐々木は自分の家庭環境などから、好きなことができないであろう自分の将来を悟っていたのではないだろうか。もしかしたら、悠二への言葉は、そうした自分の思いを悠二に託していたのかもしれない。そう思うと胸が締めつけられる。

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おまえはいま、普通じゃない。わかるよ。まるで糸が切れた凧みたいに、ぼんやり虚空を見つめてるんだ。わかるよ。おまえはいま、過ぎゆくものたちをぞっとする思いで見つめてるんだ。まるで、死んだ誰かを懐かしんで、墓場をさまよう道化のように。でも、ここはおしまいだぞ、ジョー。もう、どうしようもないんだよ。

物語終盤、ある出来事をキッカケに悠二は、ずっと決断できなかった事をついに実行する。『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラーの方ではなくテネシー・ウィリアムズのほう)の台詞を叫びながら歩きだす悠二の姿を見て、観客はこの物語の主役は佐々木ではなく悠二なのだと改めて気付かされるだろう。そして、これはノスタルジックな思い出に浸らせる話ではなく、今を生きる者の物語なんだという事を知る。
回想は現在へ繋がり、佐々木がまるでバトンを託したかのように悠二へ受け継がれていく。そのキッカケをくれたのは間違いなく佐々木の生き様なのだ。

佐々木インマイマイン④

悠二自身がどこまで気付いてるか分からないが、彼の人生は、佐々木の言葉や生き様に導かれていたりように見える。そういう意味で悠二にとって佐々木は友達であると同時にヒーローであったのではないだろうか。
最後の最後、この映画のエモーションは最高潮に達する。道中で何度も出てきた佐々木コールが伏線となり、映画と観客の心は一つに繋がる。まさに映画史に語り継がれる最高のラスト。
正直、すかしてたり、格好つけ過ぎだと感じる場面もあった映画なんだけど、根底にあるものは間違いなく熱い。これから観る人は、その熱が一気に爆発するラストにきっと気持ちを持っていかれるだろう。

【「佐々木」には実在のモデルがいた!?製作裏エピソードが熱い!】

製作裏に関わるエピソードも本作の魅力だといえるだろう。まず「佐々木、イン、マイマイン」が製作されたキッカケだが、居酒屋で、細川岳が俳優をやめるか悩んでる相談を内山監督にしていたことから始まる。悩んでる細川に掛ける言葉を探していた内山監督だが、その話の流れで、「もし自分が俳優をやめるならどうしてもやりたい役がある」と語ったその話の人物こそ、本作の佐々木に当たる人物であった。

その人物は細川岳の高校時代の友人。彼の事を忘れられなかった細川は、その忘れたくない時間を時間を映画に残しておきたいと語ったらしい。
その話を聞いた内山監督は、話自体が非常に面白かったこともあるが、「佐々木」にあたる存在は自分にも思い当たること、誰の人生においても佐々木のような人物はいるのではないかと考え、本作を製作しようと考えたとのことだ。

こうした情報を踏まえて本作を振り返ると、佐々木を細川岳自身が演じてるということ、また、主人公の悠二=燻っている役者に細川岳自身を重ねるいう、とても熱い構成となっていることが分かる。内山監督の話によると、佐々木を演じた細川岳も、悠二を演じた藤原季節も役を演じることを怖がり戸惑いながらのぞんだらしいが、結果として彼等でなければならないといえるくらい見事にハマりきっているというのも、本作の特筆すべき点だろう。

また、パンフレットにも書いてあるが、内山監督がかつてアルバイトとして働いていた新宿武蔵野館で凱旋上映を果たしたというエピソードも熱い。
筆者は上述した通り、池袋シネマロサの舞台挨拶回で観てきた訳だが、ここで舞台挨拶したのにも理由がある。内山監督がかつて武蔵野館でバイトしていた時期に、お世話になった番組編成の方のために、彼がいる映画館で映画館で上映をしたかった。その為にここで舞台挨拶を敢行したというものだ。こうしたエピソードも本作の内容自体に関わっているわけではないが、本作への熱い思いを感じれるエピソードだ。

【藤原季節をはじめ、萩原みのり、村上虹郎、井口理などの旬のキャスト×製作陣の見事な融合】

本作は主演の藤原季節、佐々木役の細川岳をはじめ、豪華キャストが出演しているのも見所の一つだ。悠二の後輩役の村上虹郎、佐々木の父親の鈴木卓爾、チョイ役ではあるがパチンコ店のチンピラにKing Gnuの井口理人などが出演しており、画面を引き立たせている。

佐々木インマイマイン⑥

男性陣だけではなく、悠二の恋人に『37セカンズ』(2020年)の萩原みのり、悠二の高校自体の友人の1人、木村が思いを寄せるクラスのマドンナ的存在に『初恋』(2020年)の小西桜子、佐々木がカラオケ店で出会う女の子に『アンダードック』の河合優実など、旬な女優陣が本作に出演している。(個人的なことをいうと、筆者が今年観た作品のなかでも特に好きだった作品の女性陣が今作に集結しているのが嬉しい)特に萩原みのりは今作だけではなく、同時期に公開している『アンダードッグ』や来年公開予定の今泉力哉監督の『街の上で』などにも出演しており、今後さらなる躍進が期待できそうな女優でもある。

河合優実

そして本作のスタッフ陣にも注目して欲しい。撮影に『君の鳥はうたえる』(2018年)、『さよならくちびる』(2019)年の四宮英俊。照明も『君の鳥はうたえる』、『人数の町』(2020年)の秋山恵二郎、スチールカメラマンに『愛がなんだ』(2019年)の木村和平と、今の日本映画を代表するクリエイター陣が集結してる。

佐々木インマイマイン⑦

【まとめとインタビュー集】

いかがだっただろうか。『佐々木、イン、マイマイン』、『桐島部活やめるってよ』(2012年)などと同じく(どちらも個人の苗字名が入ってる青春映画という事で共通している)、今後も語り継がれていく青春映画の一つとなることは間違いないだろう。という訳で気になった人は是非。

そして下は今回の記事を書くにあたって参考にさせていただいた動画のリンク先を挙げておきます。本作のことをより知りたい方などは、こちらの方がより深く語っているので是非。

上の動画は東京国際映画祭のディレクター矢田部さんと内山監督が作品について語り合っている内容の動画。本作の製作のキッカケなどについて語っています。

こちらは活弁シネマ倶楽部のゲストに内山監督が登場した回の動画。映画評論家の森直人さんと内山監督が語っています。内山監督、睡眠時間2時間で映画見まくっていたというエピソードが驚愕。

【6/3追記:内山拓也監督と萩原みのりさんが結婚!】

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『佐々木、イン、マイマイン』にも出演している萩原みのりさんが6月1日、本作の監督である内山拓也との結婚を発表した。(画像は萩原みのりさんのInstagramの画像から拝借)本作への出演をキッカケに交際がスタートしたとのことで、何とも嬉しいニュースだ。結婚おめでとうございます!

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