回想する美術館_01

突風と湖の美術館

突風で帽子が飛ばされた。
去年、UNIQLOで購入したキースヘリングの紺の帽子は大のお気に入り。
ドブにでも落ちてしまったらひとたまりもない。
出勤中、小さな商店街通りでのハプニング、ついてない日だ。
早急に相棒を救い出し、また飛ばされないようにといつもより深く被る。

その時、ふと2年前に訪れた美術館を思い出した。
帽子が飛ばされて、美術館を思い出すなんて変かもしれないが、実は似たようなハプニングを体験していた。何事もなかったかのようにスタスタ歩きながら、当時の記憶をたどっていった。

大学3年生、5月のゴールデンウィーク初め。僕は、市原湖畔美術館に訪れていた。
市原湖畔美術館は、千葉県市原市の高滝ダム湖横にあり、落ち着いた美術館だ。
多様なワークショップやイベント、芝生広場を生かしたプログラムを行っていて、見どころは多い。中でも、建築が特徴的だ。
2013年に「カワグチテイ建築事務所」がリノベーションしており、写真を見ての通り既存建物の全ての仕上材を剥がしてスケルトンにしたりと古いと新を残しているのが風通しの良い空間となっている。この抜け感が、作品全体と見事に調和をしていて心地が良い。

ただ、実際に訪れた際、大きな敵と遭遇した。それは風だ。
その日はとにかく風が強く、展望台に登ったら吹き飛ばされそうなぐらいの暴風だった。
特に、帰りはすごく、僕は帽子がとばれないように片手で押さえ、友人は美術館近くの橋を渡っている最中に思いっきりメガネが飛ばされた。不幸中の幸いに、友人のメガネは橋の鉄骨に奇跡的に引っかかり川には落ちなかった。

心理学にピークエンドの法則と言うものがある。
「人はある出来事に対し、感情が最も高まったとき(ピーク)の印象と、最後の印象(エンド)だけで全体的な印象を判断する」例えば、映画のラストシーンがイマイチだと映画全体がイマイチとなってしまう。また、映画全体の作りは甘くても、あるシーンに強く興奮して楽しめれば最高の映画を見たと結論づく。

この法則通り、僕らは市原湖畔美術館でさまざまな展示物を見てきたが、全体の印象は「とにかく風が強かったこと」こととなった。橋上で飛ばされた友人のメガネが、奇跡的に無事だったことはその日に見たどんな展示よりも興奮し、全体の印象を大きく変えてしまった。

だから、展示に訪れてから2年後の突風で僕は「市原湖畔美術館」を思い出したのだ。
単語だけでは何の関係性もないが、記憶はしっかりと結びついている。

帰宅中の西武線、満員の車内で僕はふと市原湖畔美術館のホームページを見た。
2023年6月3日今現在、末盛千枝子さんの絵本の展示がやっているらしい。
気になる展示内容だったので、「今度、また行かないか?」と友人にLINEをした。もちろん、千葉県市原市の風予測はチェック済み。
電車は中井駅の踏切を通り抜け、次の停車駅へと向かっていく。
来月の土曜日が楽しみだ。


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