回想する美術館_02

深夜3時と美術島

深夜3時に目が覚めた。部屋は一面にわたって真っ暗で、外も深い静寂に包まれていた。
最近、引越したばかりの23平米の小さな部屋。まだ、ここで生活している実感が薄い。

部屋には延々と響き渡るエアコンの微かなブーンという音。換気扇のボタンには赤い光が微弱に点滅している。wi-fiのルーターは、エメラルドグリーンの光でゆっくりと点滅し続けている。窓からはわずかに光が漏れている。
深夜だからこそ、暗闇と静寂が生活の中で見過ごしていた微細な出来事を浮き彫りにする。

意識を集中させると自分自身の呼吸音まで聞こえる。
ぼんやりとした意識の中で、僕は天井を見つめていた。
その時、2年前に訪れた美術島を思い出した。

正確には、東京都の猿島でやっていた「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島」と言うアートイベントのことで、略して美術島と読んでいる。
島内のほとんどで、スマホの使用が禁止され、感覚を研ぎ澄まし、アートを通じて猿島の自然を体感出来るのがコンセプトとなっている。友人に誘われ、チケットを予約し普段は滅多に訪れない猿島の地に降り立った。

その中のとある1つの作品が、深夜3時のあの瞬間に繋がった。
作品名は「Theatre me」。猿島内で当時使われていた軍事施設の小さなトンネル内に作品が展示されていて、防音パネルが配置されていることもありトンネル内はとても静かだ。
猿島の無人島の環境やスマホ禁止の条件も重なり、自身が世間から切り離されたような感覚に落ちいた。

普段の生活から離せない、人・もの・情報 が一気に削ぎ落とされ、僕はトンネルの外に見える繊細な草木の動きや美しい光の煌めきをじっと眺め続けた。
静かに腰を下ろしてゆっくりを呼吸をする、それだけで猿島の膨大な自然や母なる大地と一体になっているような感覚と、自身がこの無人島にいる非日常的な興奮の表裏一体であった。

まさか、深夜3時の暗闇と静寂が過去の美術島での体験と結びつくとは思いもしなかった。
また、あの島に行く機会を楽しみにしている。

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