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6.30 ジブラルタルなう~アルへシラス

巡礼残り15日。昨日ポルトガルから再びスペインに入った。

正直、まったくテンションが上がらない。1ヶ月前まであれほど好きだったスペインなのに、ポルトガルを経由した今となってはここにいることに空々しさを感じてしまう。まさに「あんた他に好きな子ができちゃったのね」状態。嬉し恥ずかし、なつかしのアノ気分である。

スペイン自体は何も変わらない。アンダルシアということでヤシの木なんか生えているが、長距離バスに乗れば時計がなぜかキッチリ12時間半遅れていたり、隙あらば街中に巨大なフシギ建造物を造ってしまったり。そういうところはやはりスペイン、私好みの国である。

でもなぁ……胸にぽっかり穴が開いたようなこのキモチ、私はやっぱりポルトガルが好きなのだと思う。町を歩いている女の子にしても……改めてポルトガルの方がかわいい! まったくの個人的主観だが、マジでブラジルまで行きたくなったもん。

まあ、スペインにしてみればとんだ災難と言うしかない。そもそも今回の旅はスペインのサンティアゴ巡礼が本命であり、ポルトガルに関しては「せっかく行くんだし、ついでに寄っていくか」くらいのノリだったのだ。それがフタを開けてみたらポルトガルに魅了されてしまい……。

これってスペイン的にはアレじゃないか? ほら、私あなたに彼女を会わせたこと今も悔やんでるの、2人はスィンパシー感じてた昼下がりのキャフェテラスで……I can't stop! the loneliness 彼を返して悲しみがとーまーらーなーいー……ごめんなスペイン、こんな俺で。

 

ただ、最初のイメージと異なる方向にどんどん事態が展開する。頭で考えていたのと違う発見があり、その結果、新しい自分も見えてくる――。

私的には旅の醍醐味はまさにソレであり、スペインさんには申し訳ないが今回のポル子との熱愛は僥倖だったと感じている。

そう、ちょうどスペインに戻る直前、ファロでセビリア行きバスを待っていたら若い日本人夫婦に出会った。ポルトガルで日本人に会うのは2組目で、彼らはファロに住んで1年近く経つという。

私は久々に日本人と会った嬉しさから、自分がいかにポルトガルを好きか熱く語ってしまったが、2人はそうでもないらしく「素朴ですよね……」「友達がファロに来たけど1時間歩いたらもう見るものないねって……」とすげない様子。話している途中で「あれ? ポル子に入れあげてるの俺だけ?」とイヤな汗をかいてしまった。人の好みは十人十色、いつ誰が誰と恋に落ちるかなんて分からないのが現実である。


分からないといえば、そのご主人がぽろっと言った言葉に思わず耳を奪われた。「すごい旅慣れておられる雰囲気だったから最初日本人か分からなくて……」。え、旅慣れている? この私めが?

このnoteシリーズ、最初の方を読んだ方ならお分かりのように、私は旅に出る前、イヤでイヤで仕方なかった。旅の準備なんて何ひとつできてないし、どうして巡礼に行くなんて言っちゃったんだろう、早く帰りたいよー、ていうかSIMって何なん?というような人間だった。

しかしあれから2ヶ月、気が付けば私は「旅慣れたおじさん」風になっている。いつのまにか1,000キロ歩き、スペイン語・ポルトガル語の簡単な挨拶を覚え、アーハー?とかいう外人風相槌もテキトーに使い、首回りへろへろのTシャツを着て、下っ端の兵隊みたいに真っ黒に灼けている。

私はまた旅を自分の人生と重ねてみる。私は十代の頃、人が怖く、世の中が怖く、それゆえ社会に出るのも怖く、イヤだイヤだどうしよーとジタバタしていた。しかし社会に放り出され、必死にばちゃばちゃやっていたら、いつの間にかズーズーしく、フテブテしく、世間ずれしたおじさん風になっていた。

本当に、旅は人生のメタファーである。私は旅を通して「俺ってなんだかんだ言って適応力あんだな」とか「必要以上に怖がるくせに、一度火が付いたら今度は止まんないんだ」とか自分自身を発見する。旅の在り方はまさしく私そのもので、時には人生の真実のようなものまで垣間見せる。案ずるより飛び込んでみたら浮かぶ瀬もある、か?

旅に出て2ヶ月、最初の頃より私の荷物はずいぶん軽い。

道中読んだ本を捨て、懐中電灯もスマホで十分なので捨て、携帯コップも不要なので捨て、巡礼も終わったから雨具も捨てた。使わないものは片っ端から捨てていく。もともと「え、ホントにそれで行くの?」と心配された荷物だったが、今はさらに小さい。私は荷物がなくなるたび嬉しくなる。身軽になればなるほど自由になれた気がするからだ。

今日着いた町・アルへシラスで私とスペインの付き合いも最後になる。ひとまずヨーロッパともお別れだ。昼間、港に行ってフェリーの切符を買い、明日はここを渡るのかと目の前の海を眺めてきた。

うっすらと向こうに島影が見える。まさか自分がここまで来れるとは思わなかった。ジブラルタル海峡を越えると、そこはアフリカ大陸だ。何ひとつ分からないアラビア文字、文化も歴史も人種もまったく違う人たち、イスラムという一度も接したことのない世界観。今また私の心の中は「怖いよう怖いよう~、アフリカなんか行きたくないよう~」という声がかまびすしいが、それもすぐに消えていくことはこの旅ですでに証明済だ。

ここからは旅のボーナストラック、パーティータイムのようなもの。

もっと未知で、想像を超えた世界へ。未来はもっと読めない方へ。

「ぼんやりした巡礼」最終章、モロッコ編に突入じゃー!



声に出して読みたいJ-POP。まるでかつての月9的物語。シティポップと呼ぶには甘すぎる味付けが、酷暑の地中海性気候に合うー! うーん、どっかでANRI BEST売ってないかな。









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