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「なぜウチの近所ではトイプーをよく見かけるのか?」をデータ分析しながら考えてみた(No.2)

関東某所のリサーチャー兼データサイエンティスト、もとい、なんでも調査屋のおっさんです。

noteで何か言おうと思ったきっかけである、「なぜウチの近所ではトイプーをよく見かけるのか?」について、データ分析しながら考えてみます。
私の記事はこれから、日々の疑問×データ分析みたいな観点で書いていきたいと思っています。誰でもアクセスできるデータ(オープンデータ)を分析しながら、考察(屁理屈?)をまとめたいと思います。

No.1の記事でも触れましたが、私の自宅の近所では、散歩しているとワンちゃんとよくすれ違いますし、「犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」というくらい、トイプーを見かけます。久々の晴れ間には、「雨後のトイプー」さながらにトイプーと邂逅します。なぜトイプーが多いのだろう?

なお、私は犬にあまり詳しくありません。
アフロなトイプーもかわいいなぁと思っていたのは、ビション・フリーゼという別の犬種でした。ヒゲ面っぽさから「賢トイプー」だと思っていたのは、ミニチュア・シュナウザーという別の犬種でした。最近知りました。
マルチーズ、ましてマルプーとトイプーの見分けも怪しげです。
各々のクリクリモフモフなお姿に可愛らしさを感じているので、許されると願っています。そんな私の「10匹中7〜8匹はトイプー」という肌感覚を前提にしています。


都合のいいデータはだいたい無い

私が住む「A県B市の人口○人あたりのトイプーの数」が分かり、それが日本全体に比べて多いことが分かれば、このテーマは終話です。
「ウチの近所は日本の中でもトイプーの数が多いので、そりゃよく見かけるるワケだ!」と言えるからです。

得てして、そんな都合の良いオープンデータはありません。
なお、「〇〇都道府県 or ▲▲市区町村で人気の犬種ランキング」のような主観に基づくランキングの類は、回答サンプル数等の調査条件が併記されていない限り、参照するのが不安です。私はあまり参考にしません。

都合の良いデータが無いときは、関連データを複数参照しながら解釈(ストーリー)を加えるのが、調査屋の習性なのかなぁと思います。主観です。
下記が分かれば、ある程度解釈できそうです。
A:私の住んでいる地域には、日本の中でも飼い犬が多いのか?
B:「犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」は、日本全体と比べると比率が高いのか?

AとBがどっちも当てはまるなら、「ウチの近所でトイプーをよく見かけるのは、犬が多いし、そのうえトイプー率も高いからだ」とか言っても良さそうです。

私の住んでいる地域には、日本の中でも飼い犬が多いのか?

これは厚労省の「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等(以下、「犬籍登録データ」)を参考にするのが良さそうです。日本で犬を飼うには、「犬籍」を登録する義務があります。理由は狂犬病対策。届出義務のある情報から作成される統計情報は、「業務統計」と言われます。全犬登録の義務(何らかの理由による手続き漏れや出生直後の子犬でない限り登録必要)があるため、登録頭数は「全数調査」のデータです。推測余地をできるだけ排除できる業務統計・全集調査のデータは、信頼できる一次情報でしょう。

令和四年度末(2022年3月末)の登録頭数は約600万頭。都道府県単位で最も登録頭数が多いのは、東京都の約54万頭。3大都市圏とか7大都市圏とか言われる地域の中核都市を抱える都道府県において、登録頭数が多い傾向です。
ただし表1のとおり、人口・世帯当たりの登録頭数が多いのは、香川県(7.4頭/100人、17.0頭/100世帯、いずれも47都道府県中1番目)や三重県(6.5頭/100人、15.3頭/100世帯、いずれも47都道府県中2番目)。香川や三重は、ワンちゃん好きな県🐩なのかもしれません。

表1 全国及び47都道府県ごとの犬籍登録頭数・総人口・総世帯数・可住地面積
およびそれらによる算出値(算出値は筆者にて算出)

いや、ちょっと待てと。私は香川にも三重にも複数回行きましたが、「犬多いな」と思った記憶がありません。簡単な話で、人口密度が関係します。めっちゃ単純化して、とある100m2(100平方メートル)の地域を散歩したとき、住民全員に出会えることとします。
①10人あたり6匹のワンちゃんが飼われている、100m2あたり5人の人口密度の場所
➡3匹のワンちゃんに遭遇できる
②10人あたり4匹のワンちゃんが飼われている、100m2あたり10人の人口密度の場所
➡4匹のワンちゃんに遭遇できる

人口・世帯当たりの登録頭数が大きく違わないなら、人口密度が高い方(上記②)がワンちゃんに遭遇しやすい!

ここからちょっと面倒です。日本の国土は森林が多いです。
人が住んでいない山奥ではトイプー、というか犬との遭遇確率はほぼ0です。人が住めない森林面積を含めた総面積で人口密度を比べるのは、フェアではないでしょう(首都圏は都道府県の面積に占める森林面積が少なく、東北や中四国は多いです)。
そこで、可住地面積を参照します。総面積から森林や湖の面積を引いた、居住地に転用可能な既に開発された面積の総計です。表1には、可住地人口密度(総人口/可住地面積)の算出結果を併記しています。
人口100人当たり登録頭数よりも可住地人口密度の方が、だいぶ都道府県差があるように見えますよね。

単位が異なる(「頭数/100人」と、「人数/1km2」)数値を単純比較すべきではないので、表1の一番右に、可住地面積1km2当たりワンちゃん密度(登録頭数)を算出しました。これで、人口密度が高い≒ワンちゃん密度が高いということも、より分かりやすくなります。
表1を見ると、ワンちゃん好き県の香川、三重はそれぞれ、68.6ワンちゃん/km2、55.2ワンちゃん/km2であるのに対して、東京・神奈川や大阪は約400~300ワンちゃん/km2です。都会のワンちゃん密度すげぇ!
私の住まいは大都会東京に近い、集合住宅が多く、県平均よりもだいぶ人口密度の高い地域です。私の住んでいるところは、比較的ワンちゃんに遭遇しやすい、ワンちゃん密度が高めの地域であると想定されます。


「散歩中の犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」は、日本全体でみると多い(比率が高い)のか?

私が調べた限り、厚労省の犬籍登録データには細かい犬種内訳がありません。業務統計・全数調査の代替として、(一社)ジャパンケネルクラブ(JKC)の「犬種別犬籍登録頭数」を参照します。ざっくり説明すると、国内における純血種の血統書登録がされた犬の頭数が集計されているデータです。
厳密には全頭把握ではありませんが、JKCのウェブサイトには下記の説明が掲載されています。

「犬種別犬籍登録頭数」について
出典:https://www.jkc.or.jp/archives/enrollment

雑種を除く純血種について、日本全国にいる凡そのワンちゃん数を把握できる、ということですね。
2023年の1年間に登録されたワンちゃんは310,473頭。最も多い犬種は…

プードル 80,631頭(26.0%)!
(内訳:トイ77,908・ミニチュア233・ミディアム308・スタンダード2,182)
プードル種の内訳はほぼトイプーですよ。そりゃぁ月面の石にも「(トイ)プードル」って名前が付くわなぁ🐩
日本のワンちゃんの26%くらいはトイプーじゃないか?と、大まかに見積もれそうです。
※より正確を期すならば、10~15年のトレンドを加味した「移動平均」で比率を見積もるべきかなと思いますが、今回は省略します(移動平均もいつか取り上げてみたい)。

ちなみに登録数が多い犬種は表2のとおり。

表2 2023年にJKCに犬種別犬籍登録されたワンちゃんたち
出典:https://www.jkc.or.jp/archives/enrollment/24042
(一部抜粋・比率は筆者算出)

私の主観的広義のトイプーたる「プードル+ミニチュア・シュナウザー+
+マルチーズ+ビション・フリーゼ」でも35.5%。小型犬のチワワやミニチュアダックスフンドを中心に、他の犬種の比率も高いですね。日本の犬の大半は純血種という推計結果((一社)ペットフード協会「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」主要指標 サマリー)もあるようなので、マルプー(マルチーズとプードルの雑種)が数10%いるということも考えにくそうです。
ということで、「犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」というのは、日本全体と比べると比率が高いと思われます。


「なぜウチの近所ではトイプーをよく見かけるのか?」

今回のテーマについては、下記の分析ができました。
A:私の住んでいる地域には、日本の中でも飼い犬が多いのか?
➡ウチの近所は、東京中心部ほどではないものの、全国的には比較的ワンちゃん密度が高い(それだけ散歩中に犬に遭遇しやすい)地域でありそうだ。
B:「犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」は、日本全体と比べると比率が高いのか?
➡日本全体のトイプー比率は、20%台から拡大解釈したとしても40%台程度であると考えられるため、「犬10匹とすれ違ったら、そのうち7~8匹はトイプー」のうちの近所は、日本全体でもトイプーが比率が高そうだ。

AとB の結果から、「ウチの近所でトイプーをよく見かけるのは、ワンちゃん密度とトイプー比率が日本全体と比べて高いと想定されるゆえに、日本の中でも散歩中に高頻度でトイプーと遭遇する地域であると考えられるからだ」といえそうです。

以上、微笑ましくデータ分析の結果をご覧いただけておりましたら幸いです。

【補足1】表1の算出値は、厳密を期するならば分母・分子の数値の年代を揃えるといった丁寧な作業が必要です。ただ、今回参照したデータは数年のうちに大きく変化する類のものではないので、それぞれ最新数値を参照しています。
【補足2】世界的な自動車メーカーのウェブサイトに、小型犬の中でもトイプーとチワワでは散歩時間が違う、といった言及を見つけました。曰く、トイプーはチワワの2倍散歩するらしいです。出典表記が無かったので今回は分析資料にしませんでしたが、散歩時間も多少、遭遇頻度に影響を及ぼしているかもしれません。

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