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新製品が安いケーズデンキで最も安いノートパソコンを購入した件について
ノートパソコンが欲しい。
ここ1週間の僕は、常にそのことだけを考えていた。自宅のお風呂場ではパソコンのことを考え、気付いたら体を2回洗っていたし、夜はパソコンと同じ布団に入り、思い切り抱きしめている夢を3回は見た。物欲を通り越して愛情の域に達している。
購入を考えたきっかけは、先週始めたnoteによるものが大きい。もともと文章を書くことが好きだったこともあり、自分が情報発信できる媒体を求めていた。物知りな友人に「自分が書いた文章を世の中に公表したい。」と相談したら、ぶっきら棒な口調で「noteを書け」と言われた。それだけだった。
彼の助言を受けてから、僕はアカウントを作成して記事の投稿を始めた。何度か続けて投稿し、自分の書いた投稿に初めてスキがついたときは最高の気分だった。
「あなたのnoteに〇〇さんがスキしました」
それは、世の中に"スキする"という動詞の存在を発見した瞬間だった。それからというもの、この通知がスマホ上に点灯するたびに心の中では満面の笑みでガッツポーズをしている。しかし、顔には出さず、あくまで表情は真顔をキープしていた。電車内でスキの通知が来たときは、冷静さを保つために落ち着いてスマホを閉じる。それから先ほどの画面を脳内の映写機で映し出し、一人で楽しんだ。
スキしました。誰かがこの記事をスキになりました。そうだ、僕は好かれている。この世界のどこかで誰かが僕のことを好きになった。脳汁が溢れ出す。僕は今、最高に変態的な顔をしている。周囲にいた親子が一歩だけ退いた気がした。
そんな変態でも、やはりパソコンが欲しい。今まで2本の記事を書いたが、どちらもiPhoneでちまちまと書いていた。間違えたところをタップしないように指の先端だけで画面に触れる作業は高度な技術が必要だった。誤って自分の記事にハートをつけそうになる。
もしも僕がノートパソコンを購入したら、スタバのテーブルでそれを開き、ドヤ顔でタイピングを打ちたい。敢えてマグカップで注文したカフェミストをすすりながら、周囲には仕事ができる風を吹かせよう。ただ者ではない雰囲気を漂わせ、威圧感を与えておきながら、いざ、画面を見るとタイピング練習用ソフト「寿司打」で大赤字を計上している。嗚呼、そんな大学生活を早く送りたい。
記事を書いて誰かを笑わせるため、そして好かれるため、僕は勇気を出して家の近所にあるケーズデンキまで行くことにした。
ケーズデンキは新製品が安いことで有名だ。旧ドリフターズの大御所達が出演しているテレビコマーシャルを見たことある人は多いかもしれない。
新製品が安いことは僕にとっては非常にありがたい。
なぜなら、僕の現在の貯金額は10万円だからだ。貯金額から判断して、今回の買い物の予算は4万円に設定した。
予算4万円がどれくらいの価格なのかわからない人のために解説すると、Mac book air が約10万 円、Surface Laptop 2 が約13万 円と、高性能で有名なパソコンには到底手が届く価格ではないことがわかる。
しかし、僕がノートパソコンを購入して成し遂げたいことはnoteの執筆。それだけである。画像や動画の保存は全てクラウドかUSBに保存する予定なので、パソコン自体の容量は必要ない。
さあ、勇気を出してパソコン売り場へ。
ふむふむ。Surface goでこの価格か。予想よりも遥かに安い。さすが新製品が安いケーズデンキだ。しかも、特典でカバーが付いていて、お得感も出ている。
これにしようかな。
5分前に定めた自分の予算を一瞬で蹴散らすところだったが、ギリギリで踏みとどまった。
良いパソコンを見ていると欲しくなってしまう。早いところ最安値のパソコンを見つけ、心を落ち着かせたい。
着いた。
素晴らしく安い。
ここはASUS(エイスース)の売り場である。同じアルバイト先の友人によると、ASUSはコストパフォーマンスが良く、そこそこ有名な台湾のPC メーカーだそうだ。(ちなみに僕はまったく知らなかった。)
しかし、自分が定めた予算は4万円。これでは予算の達成には満たない。あと少し、もう少しだけ安いパソコンはないのか。周りのパソコンを確認してみる。
ん?
見つけた。
怖いほど安い。というか怖い。
破格の値段である。僕はこのASUSを「破格ASUS」と呼ぶことにした。
早速、「破格ASUS」を起動してみる。
ウィーン。
おお。低価格帯のコンピュータとは思えないほど画質が鮮明だ。壁紙に映し出された画像は、一眼レフで撮影した写真のように美しかった。優しくタッチパッド(マウスの代わりに動かせる部分)に触れてみる。
スッ。
おお。指の動きに合わせてスクリーン上の矢印が踊っている。
これなのか、僕が求めていたものは。
確認のため店員にこれ以上安いパソコンの在庫を聞いてみると、「破格ASUS」が最安値だということがわかった。もはや4万円払っても1万円のお釣りが来るレベルだ。しかも、値段のところをよく見ると展示品・在庫処分品限りと書いてある。今が絶好の機会なのかもしれない。
これ買います。
気がつくと、店員にそう告げてレジへと直行していた。店員は「お客様、本当に運が良いですね。こちらが残り一品の破格ASUSでございます。」と言いながら、倉庫の奥から新品のそれを持ってくる。デビットカードを手渡し、署名欄にサインをした。僕は感動して、ついにパソコンを買うのか、と変態的な笑みがこぼれそうになった。カウンターに置かれた「破格ASUS」は箱までかっこい...ん?
レジの店員がにやけている。
なんだろう。顔に何かついているのだろうか。しかし、店員は別の方向を見ていた。目線は私が購入した「破格ASUS」。
あれ。
Very pink.(めっちゃ濃いピンクやないかい)
やってしまった。
筆者はごく一般的な男子大学生である。特におしゃれなわけではなく、スタイルも平凡である。そのため、好んでピンクの服やモノをとりいれることはなく、むしろ黒や紺などの暗めの色を好む。しかも今回はベリーピンクだ。
これではスタバで執筆作業を優雅にこなすという僕の夢は見事に打ち砕かれてしまう。たとえ大学の図書館でさえも常に角の席をキープし、体でパソコンを覆い隠すような姿勢を保つしかない。
さすがにこのような地獄は避けたいので、店員に他の在庫があるのかを尋ねたのだが、これが唯一の在庫だと言われた。どうしよう。
ここで一度冷静になるために、僕はパソコンを購入した本来の目的を思い出すことにした。
僕がノートパソコンを購入して成し遂げたいことはnoteの執筆。それだけである。
お買い上げありがとうございます。
さりげなく3年のあんしん延長保証を付けた。
僕は購入したパソコンを抱え、ケーズデンキを立ち去った。
家への帰り道では色々なことを考えた。パソコンをどこかに忘れたら、名乗り出る勇気が自分にあるのだろうか、と自問自答を繰り返したり、教室でパソコンを使うときはどの位置に座ろうか、とこの先の大学生活の不安に思いを馳せたりした。
しかし、どこか清々しい気持ちもあった。これは「ノートパソコンを購入する」という目標を達成した満足感からくるものに違いない。
さあ、箱を前に置き、開封する。
パカッ
ケーズデンキで買ってよかった。
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