魔王転生 気がついたら魔王になってて、しかもレベル1ってどういうこと??
「・・・」
「・・・」
辺りを見回す
「ここは、、、どこだ?」
ふと目を覚ますと、見たこともない景色が広がっている。
どうやら今座っている"ヤケに座り心地の良いイス"に腰をかけたまま居眠りをしていたようだ。
(こんなに気持ち良けりゃそりゃ転寝だってするわな)
そう頭の中でボヤきながら、少しずつ冷静になっていく。
イスの肘掛けに頬杖をつきながら思考を巡らす…
(ふーっ)
だだっ広い広間
仰々しい装飾
見上げてはじめて気づく高さの天井
足下には横幅が10mはある広さの階段
しかし段数は10段程と多くはない
自身の座っているイスから階段を伝って広間の入り口まで30mはあるが、それだけの長いレッドカーペットが敷かれている
「…あり得ん…」
この何とも言えない状況に思わず口に出してしまった。
このタイミングで自分の身体に違和感を感じることとなる。
(なんじゃこりゃ?)
まずは視線の高さと手、足の大きさに気づく。それに驚き思わず立ち上がると少し頭に重さを感じる。
恐る恐る重さを感じる部分に手を伸ばすと何やら触り慣れない手触りのモノがある。
その触り慣れないモノは曲線状になっていて、手を滑らせていくと先端は尖っていた。
何だこれ?まさか……
そう思ったとき聞き覚えのない声が飛んできた。
「魔王様!!」
コウモリが言葉を発している。
あまりの出来事に自分の耳を疑いかけたが、すぐに持ち直すことに成功した。
驚きの連発で驚き疲れたということも一役買っていた。
「魔王様!ようやく復活なさったのですね!!このヒューイ、首を長くして待っておりました!!」
コウモリの首ってそんな長くねぇだろ、と言いたい気持ちを抑えて状況を整理する。
(ってコイツ、魔王様って言った?えっ?どういうこと??)
コウモリのヒューイは話し続ける
「あぁ魔王様、復活されたばかりなので状況を把握できていないのですね!よろしければ私めに魔王様に起こった現状を説明する許可をいただけませんでしょうか?」
(魔王様?復活??なんだか良くわからんけど、このままわからずにいるより説明を聞いた方が都合が良いとなこりゃ)
「よい、申(もう)せ」
相手(ヒューイ)が随分と下手に出てくるので、わざと偉そうな態度をとってみた。
そしたらなぜか目を輝かせてこちらを見てくる。
今までそんな目で見られたこと一度もねぇよ、とツッコミたくなるくらい直視してくる。
視線がムズ痒くて仕方がないので、目で早く話すように訴えかける。
それに気づいたヒューイはコホンッと一つ咳払いをして話しはじめる。
「魔王様ことギガアリア様は100年程前に当時の常人族を代表する勇者らと相対しました。その際、万が一に備えて倒されたら発動する転生魔法を魔法陣に組み込まれておりました。そして勇者らと激戦を繰り広げたのですが、惜しくも敗れてしまい………」
言葉が詰まると同時に悔しそうな顔を浮かべるヒューイだが、すぐ様気を取り直して続きを語る
「転生魔法が発動し、今宵復活なさいました次第でございます!」
嬉しいそうに告げるヒューイ
(…はぁ……んーまぁココに魔王ギガアリアが居る理由は理解した。うん、理解はした。で・す・が!魔王ってどういうことだ?ギガアリアって何だよ??俺は平凡な飲食店の雇われ店長で、12連勤が終わって帰宅して疲れてたからそのまま寝室のベッドにダイブして寝て起きたら……何がどうしてこうなったん??)
「ふむ、少し状況を整理するので待っておれ」
「はっ」
叫びたくなるようないろんな感情を抑え込んでヒューイに待つよう伝えた。
ヒューイは階段下のレッドカーペット中央に身を潜めるように着地し、左側の羽根を身体に巻き付けるな姿勢で待つ。
魔王ギガアリアは感情を表に出さないように全力で思考を巡らす。
(…考えれば考えるほど納得いかない点だらけだが、理解はした。それにしても、、、厄介だな、マジで)
考えてる間ヒューイは少しも動かず、また絶妙に視線を外しつつコチラの挙動を伺ってる。
おかげで見られてる気はせず、考え事に没頭できた。
なんてできるヤツなんだ!と思ったがココはあえて言わない方が良いと思い、スルーすることにした。
「ところでヒューイよ、お前はこの100年間何をしておったのだ?そして他の配下の者はどうしておる?」
(ん?そういえば、なんか言葉遣いおかしくね?こんな喋り方、したことねぇぞ?魔王ってことで変な補正かかってるんか、これ?)
まぁしょうがないと早々に割り切ってヒューイの応えに耳を傾ける。
「はい、私めは先程お伝えした勇者らに手傷を負わされ、これまでのほとんどを回復に時間を要しておりました。配下の者たちは私めのような一部を除き、現在はこの世にはおりません。」
「ふむ」
理解し難い表情を察したヒューイは話を続ける
「ほとんどの配下の者は精神世界に存在しておりまして、魔石や魔具などを依代にして魔王様の魔力を得ることで現世に顕現しておりました。それゆえに人間共は"魔族"と呼んでおりました。その魔族は肉体を倒されてその場にはいなくなっても魔王様の魔力を得ることで何度でも蘇ることができます。なので魔王様が以前のお力を取り戻されれば顕現し、これまで同様魔王様に付き従います。また魔族同士で子を成すこともしばしば見受けられます。」
「あい、わかった。とすれば一刻も早く力を取り戻すことが優先されることになるな」
「はい、その通りでございます。」
「さすればヒューイよ、なぜ貴様はココにおるのだ?」
ふと疑問を抱いたことを聞いてみた。
この世に顕現するのに魔力を必要とするのならヒューイがこの場にいることが不可思議なことなのだ。
「それは私めが魔族と吸血鬼族のハーフだからであります。父が魔族、母が吸血鬼族のため依代を自身で持つこととなりました。先程お伝えした"一部の者"は私めのような者と魔王様の魔力を必要としない種族らであり、かつ魔王様に忠義を払う者のことを指しております。説明が不足してしまい失礼致しました。」
「よい。よくわかった」
(さてはて、どうしたもんか……魔族だの吸血鬼族だの、こんなんゲームの世界じゃねぇかよ!…でも…どんな種族居るんかな??)
魔王は首を横に振る
(…いやいや、興味はそそられたが今はそれどころじゃない。まずは自分の状態(ステータス)を知らなきゃ何もはじまらん。…で、どうすりゃいいんだ??ゲームとかならコントローラーのボタン押しゃ何とでもなるんだけど…開けゴマじゃねぇけど『ステータスオープン』とか言ったら何とかならねぇかな?)
ブンッ!
何もない空間にステータスが映し出された。
(うおっ、出た!マジで出るとは思わんかった!まぁ何にせよ結果オーライ!!ではでは…)
ギガアリアは自分のステータスを確認する。
➖➖➖➖➖➖➖
名前:ギガアリア
職業:魔王(魔力を統べる民の王)
レベル1/?
HP8
MP21
物理攻撃力5
物理防御力9
魔法攻撃力24
魔法防御力18
属性魔法:火、闇
固有スキル:詠唱破棄、言語理解
究極スキル:魔王補正、魔力創生(LV1)
➖➖➖➖➖➖➖
へぇ、魔王って職業なんだ……
って、ちょっ、待て待て待てまてー!!
えっ?めちゃくちゃ弱くね?
いや、この世界の基準はわからんけども!
ってかレベル1?どういうこと??
俺、仮にも魔王だよね?
それでコレ(このステータス)って………はぁ???
想像もしてなかったステータスのあまりの低さに驚愕する……が、すかさず "ふーっ" と一息ついて気持ちを立て直す。
(ここは俺の家じゃない)
(ここは俺の知ってる世界じゃない)
(何が起こっても不思議じゃないから焦っても仕方ない)
(それより今一番必要なことは現状把握…)
自分に言い聞かせるように何度も繰り返す
「ヒューイよ」
「はっ!」
「我はまだ記憶が曖昧のようだ。よってお前にとって当然のことも我にとっては当然ではないと思うこともあろう」
「はっ!」
「なので幾つかお前に質問する。その際おかしな事を聞いていると思わず、真摯に返答してくれるか?」
「当然でございます!」
「うむ。感謝する」
「滅相もございません!」
「では早速だが、どうやら我の力は戻っておらぬようだ。それについて何か知っておるか?」
「はい…あっ、いえ、詳しくは分かりかねますが、考えられるのは転生の影響かと…」
「ふむ。では"魔王"とはいかなるモノか?」
「はっ、それは魔力を統べる民の王のことを指し示します。魔力を統べる民とは元は常人族でして、なかでも魔力を秀でし者たちが常人族から離れ、独自の文化を形成した民族であります。ギガアリア様はその民族のトップに立つ御方になりますゆえ "魔王" と呼称されております」
「ふむ。元々は同じ種族というわけか…常人族とはいかようなモノだ?」
「常人族とは別名ヒト族。ヒト族の操る魔力は生活のために必要な魔法を使用することが精一杯。しかし彼らは "気" を操ることに長けておりまして "気" は主に狩猟などに使われており、特に秀でてる者は戦闘の際にも使います」
「それを "勇者" と呼ぶのか」
「左様でございます。正しくは一番秀でてる者を勇者とし、数人のグループを形成する様を常人族は《勇者パーティー》と呼称しております」
「となると、先刻の戦争は元を辿れば同じ民族の戦争…ケンカと喩えてもおかしくないということか………(100年前の戦争の)事の発端は何だ?」
「そこだけは不明であります」
「…不明?」
「はい…。100年前、当時の勇者パーティーは何の前触れもなく我々を襲ってきました。それまでは(大別すると)常人族・魔族・亜人族の3種族間は仲良く…とまではいきませんが、暗黙の了解(ルール)で其々の生活圏内で平和に暮らしておりました」
※人口・種族数の割合は2:6:2
※地上占有率 ヒト族:魔族=3:7
※動物種は常人族の家畜を除き、魔力の大小に限らずすべて魔力を有するため魔族に分類され基本的に魔族(魔力を統べる民)圏で生活している
※魔力を様々な属性変化をさせるなどコントロールする方法のことを魔法と言う
※地上で主に文明を発展させたのが常人族と魔族
※ヒト族は魔法をうまく扱うことはできない分、気と技術を磨き発展させた
と、ヒューイは説明した。
「…なるほど、良くわかった。事細かに、すまんな」
「な、何を仰いますか!当然のことをしたまでです!」
「ところでヒューイよ。我が復活したのなら、また勇者らは戦いを挑みに来るのであろうか?」
「おそらくは…」
「だろうな。まぁその件は後(のち)に片付けるとして、まずは我の力を取り戻すことを優先することとしよう」
(そうしないと何もはじまんない気がするんだよなー。それにしてもいろいろややこしい話だな、ホント…)
改めて自分のステータスを確認する魔王
(さすがに魔王がレベル1ってのは格好がつかないな…って、どうやってレベルアップすんだろ?)
しばらく考え込んでしまっていたところにヒューイが…
「差し出がましいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、申せ」
「魔王様はご自身のお力を取り戻す方法を画策してるご様子に見受けられます。それには2つあります。1つは魔力を使うこと、もう1つは……失礼」
そう言うとヒューイは姿を消した。
ギガアリアは驚きのあまり頬杖をついていた手を顔から離しつつ上半身を仰け反らした。
カキィーーーン!!
頬杖をついていた右手に衝撃が走る
ヒューイの右手(翼)が刃物のように形状変化しており、こちらの右手と交差する形で眼前にある。
(えっ?何?どういうこと?これって俺攻撃されてるよね?それに全然見えなかったけど)
「さすがです、魔王様」
えっ?えっ?
何がさすがなの?
ってかお前俺のこと敬ってなかった?
なんで攻撃してきてんだよ!
「転生が明け、間もないこのタイミングで魔族随一のスピードを誇る私めの一撃を防ぎ悠然とされてるお姿…さすがでございます」
いやいや!
『さすがでございます』じゃねぇよー!
こちとらめちゃめちゃ戸惑ってますけど!
めちゃたまたまで俺何もしてないし!
まぁ結果的に問題なさそうだったから良いけど、とはいえ結構イラッとしてますけど!!
ビックリしたし怖かったし
…それなのに悠然って、、、もしかしてこのスキル(魔王補正)の影響か??
普通に話そうとしてもなんか偉そうことも、たぶんそうだろう…なんか、微妙だな…
「で、我に刃を向けるとはどういうことだ?」
「はっ、失礼しました。魔王様がお力を取り戻す方法の一つに実戦がございます。そのことをご理解いただくために不意を突いた次第でございます」
「ほう」
「厳密には生死が掛かったり、瀕死の状況からの回復など、窮地の場面に陥いることが重要となっています。ですので正面からではなく死角からの攻撃を行いました」
だったら先に言ってくれよ!
なんなん?マジで…って、あれ?
えっ?人?しかも女性??
どういうこと??
もしかして…
目の前に見た目麗しき女性が膝まづいている。
ギガアリアは自身に向けられる視線などからその女性がヒューイであることを察したが驚きは隠せない。
一応確認のため問うことにした。
「お主はヒューイで間違いないのか?」
「はっ、左様でございます」
「その姿はどういうことだ?」
「本来蝙蝠族は人型に変化(へんげ)するにはかなりの魔力を要しますが、私めは魔族と蝙蝠族のハーフのため人型の因子を持ってこの世に生を受けました。そのためどちらの姿でもいられるのですが人型では飛行はできず、また戦闘においては人型でないと本領が発揮できない身でありますゆえ、人型となり手合わせ致しました」
「・・・」
いろいろ納得はいったけど…
それにしてもめちゃくちゃ美人じゃん!
ってかよく見ると出るとこ出てて凹んでるとこは程良く凹んで、スタイル抜群やん!
それでいて何あのセクシーな水着みたいな布面積は!?
あんな姿、人前で晒しちゃアカンでしょ!
……眼福眼福
「失礼しました。こんな醜い姿を晒してしまい申し訳ありません!」
「よい、そのままでおれ」
「しかし…」
「我の言うことが聞けぬというのか?!」
「め、滅相もありません!」
「ならば良い」
願ったり叶ったりなんだからそのままでいてくれ!
…さて、レベルアップするには訓練が必要なのはわかった。
(ヒューイの人型を見ながらは僥倖だな)
あともう一つは『魔力を使う(魔力行使)』だったか…