ことし9歳になる娘から凪良ゆう著『流浪の月』をプレゼントされた
『流浪の月』凪良ゆう
これは、ことし9歳になる長女が僕の誕生日に選んでくれた本です。
本のあらすじを知っている人はゾッとするかもしれません。いや、ちがうんです。そうじゃないんです。
長女は、「お年玉は大事な買い物をするときにだけ使いなさい」という親の言いつけを守って律儀に貯金しているような立派な小学生です。
お年玉をもらった瞬間にドンキですぐ飽きるだろう雑多なおもちゃを買ってしまう「宵越しの金はもたない」6歳の長男と比較するにつけ、大人になったら姉弟よくよく助けあって生きていって欲しいなと思うわけでありますが、そんな長女が「父ちゃんの誕生日にプレゼントを買って渡したい」というじゃありませんか。
「大切な買い物をするとき」のシチュエーションに「オヤジの誕生日プレゼントを買う」がリストアップされたという栄誉とその無垢な気持ちを無下にするわけにも行かず、かといって高額なものを買わせるのは忍びないので「1000円ちょっとの本」にしようと思い「本屋大賞というのがあって、それの1位の本が欲しいです。書店の人に聴いたら教えてくれますよ」と伝えておいたんですよ。
その当時はまだ大賞が発表されていなくて、まあ小川糸とか砥上裕將とかが順当だろうしそれなら本の感想を語るにもわかりやすいなとおもっていたのですが、まさかの凪良ゆうですよ。
で、僕の誕生日の日に長女がキラキラする目でこのブックカバーを僕に手渡すわけですが、その時の僕は、感謝と当惑と後悔がいりまじった複雑な笑顔だったと思います。
さてあらすじを知らない人のためにざっくり「流浪の月」のストーリーを説明しますと、両親から見放され、軽く性的虐待を受けていた”9歳”の少女が、19歳の小児性愛者と思われる男に誘拐されたという事件を軸に展開する、少女と男の物語です。
そうなんです、これを9歳の娘からプレゼントされたわけです。
さて、誕生日から1ヶ月近くが経ち、長女は折に触れわたしの本棚からこのブックカバーを持ち出し「ねえ、これ読んだ?面白かった?どんなお話だった?」とキラキラした目で聞いてくるわけですよ。
いや、この本は本当に名作なんです。誘拐事件の当事者たちの人物の枷とか、性愛を超えた「人生にとって必要な存在」という2人の執着と達観とか、人間とは?愛とは?という本質を考えさせられる悲しいけれど最終的にはポジティブな話です。
ただ、それを9歳の長女にどう伝えるか。読んだ後も「ごめん、まだ忙しくて読めていないんだ」と返していました。
さらに数奇なのが、この小児性愛者の男の名前が文(ふみ)というんですね。パラパラと本をめくっていた長女が「あ。わたしと同じ名前だ!」と嬉嬉として言うわけです。そうなんです、たまたま長女の文海(ふみ)と同じだったものだから長女はますますこの本に興味津々なんですよ。「この文ってひとはどんなひとなの?」と聞かれるわけです。答えられるわけないじゃないですか。
悩んだ結果、最終的には、「これはとても面白い本だけど、文海さんにはとても難しいので、大人になったら分かると思いますよ」という伝家の宝刀「大人になれば分かる」で切り返してしまいました。長女は「そうなんだ…」と少し寂しそうな顔をしていました、いや、そう見えただけかもしれません。
私たち大人は、どれほど子供の無垢な好奇心をこの一言によって黙殺してきたことでしょう。そりゃ大人になればわかりますよ。でも豊かな感性をもつ子供のうちにその本質の一端でも感じさせてあげれば子供の可能性はもっと広がるというのに。
って、さすがにこの本は無理でしょ。
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