拷問と侮蔑

こないだ、深夜のスーパー銭湯に行ってぬくぬくした。そこは大手のパチンコ屋が営業している巨大なスーパー銭湯で、本当は、そういう場所にはあまり行きたくない。何となく街の銭湯に行く方が良いような気がするのは、古き良きを愛する市民のこころ。それでも安価で、タオルや石鹸も付いていて、サウナや露天風呂があって、夜中も営業しているスーパー銭湯は、合理的に造られた完璧な快適がそこにあり、俗世にまみれた自分はきちんと癒やされてしまう。

体を洗って、香草の湯に浸かり、露天風呂で空を眺めた。夜はすっかり涼しいなと思った。それから未来のことや卑猥なことを考えた。ぼちぼち汗を流すか、とサウナに入ると誰もいない。設置されたテレビでは、アラサーの女が香港一人旅で飯を食う映像が流れていた。こらええわ、と一人で汗を流していた。

5、6分経ち、アラサー女もワインでほろ酔いになったところ、そろそろ出ようかなと思ったそのとき、ぞろぞろと、20人ほどの裸の男が突如サウナ内に流れ込んできた。一体何事か。集団で犯されるのかと思ったがそんなことはなく、皆それぞれに座り、ほぼ満席状態、自分の両隣にもオッサンが座り、完全に気持ち悪かったので立ち上がろうとしたら、続いて大きな団扇を持った従業員が3人入ってきて、只今よりロウリュサービス、とか何とか言い出して、めちゃくちゃ熱なりますけど外に出たい方は今出てください、いませんか?いませんなら開始しますけど、と言う。自分は出ようと思ったが、周りの男たちが待ってましたとばかりに拍手したので、その雰囲気に飲まれて出られなかった。後で思うと、そのときに外に出るべきだった。自分の意思を明確にして、出ます、と言えば良かった。周りに流された自分は、ぼんやりとした顔で覇気のない拍手をしていた。

従業員たちは団扇でばさばさ客を煽ぎだした。それは異様なほど強烈な熱風で、自分は皮膚がただれて死ぬかと思った。出ます、と声に出したくても出せないほどの灼熱だった。周りの男たちは皆、やべえ、これこれ、とか言いながら、嬉しそうに我慢している。続いて従業員が、一人ずつの客の目の前で煽ぐ、個人ロウリュサービスが始まった。自分の番が来た。ツーブロックの兄ちゃん従業員が自分に向かって勢いよく煽ぐ。完全な拷問だと思った。息を止めて、殺すなら殺せ、とまで思った。しばらくして拷問が終わり、従業員が、それでは続いて2回目のロウリュサービスに参ります、と言った瞬間、自分は手を挙げて、出ます、と言った。意思など関係なく、残った微々たる力で手を挙げていた。そのときの周りの男たちの侮蔑の目ときたら。あいつ弱、しょぼ、へなちょこですやん、といった視線を感じながら自分はふらふら外に出て、水風呂に浸かった。ふやけた体で、ロウリュ、リョウルウ、ロウリュ、リョウルウ、と呪いのように呟いた。

それからなぜか異様にムカついてきて、先ほど侮蔑してきた男たちに、自分は5、6分のサウナを経験した後のロウリュサービスなんですけどねぇ、と説明しに戻ろうかと思ったが、覗くと3回目のロウリュサービス中だったので、逃げるように脱衣所へ行った。

何もいりません。舞台に来てください。