卒業

卒業

久しぶりの予定のない休日。

なんとなく付けていたテレビから知っている街の名前が聞こえた。

ふぅ。一息つくか。

部屋の掃除を休んで、コーヒー片手にその番組を見る。

あ。この店知ってる。なつかしい。

少し胸がうずく。
いくつもの思い出がある、その店。

あー…、これ以上見たらやばいかなぁ…
そう思いつつも画面から目が離せない。
画面はどんどんと知っている建物に近づいていく。

あいつが働いてる会社じゃん。
まさかね、と思っていたのだけれど
1年ぶりの再会は、テレビ画面越しで。

ふふ、前と同じような顔で笑ってる。
そうそう、こんな顔するよね。
はは、あいつ困ってる。
困ったときに、いつもよりテンションが上がって
明るく振る舞うクセもそのままだ。

そのせいで、困ってるように見られなくて、困ってる。
っていつも言ってたな。
だけど、これは確かに困っては見えないよ、きみ。
ふふふ、わたしとか
きみのことよく知っていないと、これはね。

あっと言う間に終わった
あいつの出演シーンだったけれど
ふと気が付くと、番組自体も終わっていて
コーヒーもすっかり冷めていた。

うん。
なんかすっきりした。

まったく平気とか
なんにも思わないとか、
そこまではいかないけれど
こんなにも冷静に
あいつを観れた自分が
なんかほこらしかった。

やるじゃん、自分。

2年前はいつも一緒にいたよな。
こんな番組も一緒に観てたっけ。

別々の部屋で暮らすようになって
それでも仕事の関係でたまに会ってはいたけど
会ったあとは数日、胸がずんずんとしてた。

今はその街を少し離れて
しばらく会うこともなくって。
テレビで再会。一方的だけれど。

なんて番組だったっけ。
番組表を見たら「再」のマーク。
何ヵ月前の放送だったんだろうか。


あぁ、遠くに来たなぁ…。
そう思った。しみじみと。
物理的に離れようと思ったのは正解だったかも。
直感に従ってみてよかった。

あいつがテレビに出る。
芸人さんにいじられてる。
そんなおもしろい情報が
自分に届かなかった。
数ヵ月も知らなかった。
でも、偶然に出会えて
こころ静かに見終えることができた。

こころ静かは言い過ぎたかな?
でも、想像してた以上に、冷静でいられた。
テレビだから?

すーーーっと
身体から何かが抜けていくのを感じた。
なにかに覆われていたような胸が
解放されて、すとんと落ちた。


ばいばい。

この数年間の自分を卒業できたように思えた。

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