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映像授業の講師が思う、映像授業・オンライン授業で意識したいこと10項目。

 この記事は、映像授業暦7年になる筆者が、これから「映像やオンラインで授業やコンテンツを作ろう・置き換えよう」としたときに気をつけたいポイントを、今までの経験則からまとめたものです。意識しておきたいポイントから、機材の話まで、以下の内容です。

●映像・オンライン共通で意識したいこと
●オンライン授業について、機材類の話
●映像授業について、機材・編集の話
●著作権について

 学校や塾の先生(とりわけ中学・高校)が、映像・動画やWeb会議で授業する際に気をつけたいポイントとして記します。

 すでに動画の世界で生きている方には当たり前のことばかりかと思います。これから映像やオンライン化を始める方を対象として記します。

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はじめに

 私は中学校・高校の教員を勤めたのち、教育ITの世界にうつり、社会科の映像教材を制作してきました。今はフリーランスとして、おもに塾・予備校向けに、動画授業の制作や、オンライン授業を受けもっています。

 昨年は1年で1000本以上も動画を撮っていたこともあり、また、映像授業の世界で動画のアナリティクス分析(視聴分析)などもしてきたので、昨今のこの状況で、お知り合いから知見やアドバイスを求められることも増えてきました。

 学校の教員も、塾の先生も、映像授業でなんとか乗り切ろう、オンライン授業に取り組んでみようと、あの手この手で取り組まれている状況かと思います。少し慣れつつも、なんだかしっくりこないというご意見を聞くようになりました。

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 映像・動画・オンラインの世界には、ライブ授業(ここでは教室空間で行われる一般的な授業のことをこう呼ぼうと思います)とは異なる、特有の「癖」や「空気感」みたいなものがあります。

 きっと、その特性を少しでもわかった上で取り組まれると、ぐんとやりやすくなるのですが、なかなかそれをつかむのが難しかったり、時間がかかるものだと思います。

 子どもたちに学習の場・学習の機会を保障するのは、大人の責任でもあります。

 私なりの経験則を記すことにより、何かお役立ていただけることがあるかもと思い、映像授業・動画授業を作ろうとされている方、オンライン授業に取り組まれようとしている方向けに、筆を取りました。少しでも参考になれば幸いです。

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【1】 映像・動画・オンラインは決して万能ではない

 まずはじめにどうしても知っておいていただきたいのはこの点です。

 ライブ授業が実施できないことを、映像授業やオンライン授業で置き換えればすべて解決できるという「誤解」がありますが、映像もオンラインも、そこまで万能な、簡単なものではないのです。

 例えば、今までの講義型のライブ授業を、撮影した映像の配信でただ置き換えただけだと、生徒側からは、大変苦痛な動画を見させられているような感覚に陥ることが多いです。

 YouTubeのような動画で育ってきた彼らにとって、ただのネット配信の授業は、非常に間延びした、謎めいたコンテンツに映ります。

 オンライン授業にしても、カメラに映らない箇所でスマホやゲームに打ち込む「オンライン内職」みたいな光景が広がるのは必至でしょう。

 それもそのはず、多くの生徒さんは、あなたの動画や授業をスマホで、しかも自宅というプライベート空間で視聴されるはずです。

 スマホにはLINEの通知が届くし、Instagramでみんなの様子を見たいし、きっとあなたの真面目な授業動画よりも、好きなYouTuberの動画を見ていたいのです。

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 このように、対面の授業や講義と異なり、非対面の世界だと、すぐに「離脱」が発生します。余程「見たい!」とか「価値がありそう」と思ってもらえないと、継続して見てもらう・勉強に取り組んでもらうことがままならないのです。

 そうならないためには、映像化やオンライン化の目的を明確にはっきりとさせることが何よりも大切です。

 何を目指した映像なのか、何をどうするオンライン授業なのかを徹底的に突き詰めることで、価値のある映像授業やオンライン授業が生まれていくことになります。

 あなたが映像やオンライン授業を配信したとき、さまざまな誘惑がひっきりなしに誘ってくるなか、いわば意を決して生徒さんはあなたの画面を開いてくれているのです。

 授業を受ける前からそんなに頑張ってくれている生徒さんのためにも、まずは良質なコンテンツを届けるべく、動画や授業を作り込むためにも、目的を明確にしましょう。

コラム1:「視聴者維持率」
 動画の世界で重視される指標に「視聴者維持率」という指標があります。TVでいう「視聴率」のような大切な指標で、その1本の動画(やオンライン授業)をどのくらいの人が最後まで見てくれているかを表します。
 100人のアクセスがあり、うち10人が最後まで視聴すれば、視聴者維持率は10%となります。一般的には10%台になればまずまずといった感覚です。
 そして、前述のとおり、動画の世界では「離脱」がすぐに発生します。視聴者は直感的に一瞬でこの動画を見たいか見たくないかを判別し、見たくないと思ったらすぐに別の動画へと移ってしまいます。多くの場合、動画開始15秒で視聴者数は1/2になり、開始30秒時点で2/3が離脱していると解されます。
 学校の授業で言えば、チャイムが鳴って30秒、板書を書き出すころにはクラスの2/3がいなくなっている(あるいは寝ている,内職している?)イメージです。そんな状況だったら、心、折れますよね(笑)。でも、そんなシビアな世界が動画の世界です。
 いまでこそ一般的になったYouTuberですが、彼らの動画はこのような世界でいかに視聴してもらえるかの探究を何年も重ねて今に至っており、並々ならぬ努力が詰まっています。
 シビアな世界を戦い抜いてきているYouTuberの動画と、あなたの映像授業やオンライン授業は、生徒から見たら同じ土俵にたつ「動画」です。
 何も一部のYouTuberのように奇抜なことをする必要はありません(一時的に話題になるだけですぐに埋もれますからオススメしません)。いかに真摯に、良質なコンテンツを作ったかという本質の部分が、自然と「視聴者維持率」にあらわれるのです。
 目的を明確にしたら、50本・100本と、自分のコンテンツが広まるまで、継続して出し続けていきましょう。

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【2】 どんな生徒が対象なのか、はっきりと。

 1とも似てきますが、自分がこれから作る動画やオンライン授業は、どんな生徒さんを対象としているのか、はっきりさせましょう。

 「ペルソナマーケティング」というマーケティング用語がありますが、その「ペルソナ(=架空の消費者)」を設定するようなイメージで、自分の動画や授業がターゲットとする典型的なユーザー像を考えましょう。そして、そのユーザーにグサっと刺さる授業を作るのです。

 なぜその作業が必要なのか、ここでは今まで普通に行われてきたライブ授業を例に考えてみましょう。皆さんが学生だったころ、すべてのライブ授業が楽しかったかというと、どうでしょうか。

 どうしても苦痛な、あるいは眠気を誘ってくる授業を受けなければならない場面ってあったと思います。

 いかにバレずに内職するか、どうやって終わりのチャイムまで時間を潰すかという「青春の思い出」があるのではないでしょうか。

 自分は理系だから文系の授業はツマラナイ、とか、ただ先生が一方通行で喋っているだけのように感じてしまうとか、そんなやつです。

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 これらの授業は多くの場合、誰に向かって授業をしているのかわからない(=対象が自分のレベルと合っていない)とか、授業の展開にメリハリがなかったり、マンネリ化してしまっているものかと思います。

 この状態、実は教師と生徒が噛み合ってないというか、生徒のニーズを満たし切れていないわけです。教師の力量というよりは「集団授業の限界」でしょうか。

 まあ、1クラスに40人もいれば、対象から外れてしまう生徒は少なからず出てしまいますし、出ない方がおかしいです。

 今までのライブ授業では、それで許されてきました

 教室という場まで、わざわざ生徒に足を運ばせることで「今から授業が始まる」というメリハリを生徒自身につけさせ、そしてチャイムがなるまで机と椅子に何十分も拘束をし、なんなら教員の威圧感で生徒に勉強を強制するという、教える側に極めて都合の良い空間で授業が行われていたのです。

注:無論、そう言った環境下で日々授業を少しでも良質なものにすべく多くの教員は精進していますし、一見無駄に思えても教育には必要な作業(例えばグループワークで他人の多様な価値観を共有したり、対話による問答法で理解を深めるなど)少なからずあるわけで、教員否定や学校否定ではありません。

 しかし、Webの世界ではそんな「授業」はほぼできません。前述のとおり、生徒さんはすぐに離脱できる環境下ですし、これからコンテンツが増えてきたら、生徒さんは授業を好きに選べるようになっていきます。

 よって、生徒さん1人ひとりに合わせた授業の提供が求められるようになってきます。

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 そうなったとき、あなたの動画やオンライン授業が、特定のターゲット層(ペルソナ)にズバッと刺さる、魅力あるコンテンツである必要があるわけです。

 ライブ授業で言えば、必ずしも平均的なレベルを対象とした授業である必要はないということです。たとえ大半の子が十分に満足できなかったとしても、クラスの「あの子」にだけは「先生の授業めちゃめちゃ面白い」と言わせるような、何か刺さるものがあれば、それは良いコンテンツになる可能性を秘めているのです。

 何も授業に限った話ではありません。例えば、zoomなどで双方向の面談をし、生徒さん1人ひとりに今まで以上に適切な面談・指導ができるようになったら、それがあなたの価値になってきます。

 あなたの価値はなんなのか、どこに価値を置くのか、自分はどんな生徒を対象としていくのか、その生徒はどんなメディアでどのように授業を受けていることを想定するのか、そのターゲットを非常に明確にしておくことが、この後の映像化・オンライン化で有効になってきます。

コラム2:ペルソナマーケティング
 ペルソナマーケティングは、本来データなどから自身の顧客層を分析、具現化し、マーケティングに活かしていく手法です。このうち顧客層を具現化するという箇所が着目され、それをペルソナと呼ばれるようになってきました。
 広義のペルソナとして知られたのがスープストックトーキョーの「秋野つゆ」の例でしょうか。自身のブランドを構築していく、ターゲットを明確化していく作業として、非常に細かな人物(人格)設定をし、その架空の人物像のニーズを満たしていくことが企業のブランディングにつながっています。

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【3】 とにかく準備、準備、準備!

 動画撮影や、オンライン授業を実施する場合は、ライブ授業の比ではない綿密な授業準備が必要です。

 慣れてないから準備が必要…というのもありますが、それ以上に意識しておいていただきたいのが、オンライン独特の空気感です。この空気感を乗り越えるための用意周到な準備が大切なのです。

まずはオンライン授業の場合です。

 今までのライブ授業では、生徒さんの反応や様子を見ながら、伝わってないなと思ったら説明を一言足したり、言い回しを少し変えてみたり…という「調整」ができました。

 ちょっと授業準備が足りていなくても、生徒の反応を見ながら授業を展開すれば、それなりに良い授業として成り立ちましたし、生徒さんの反応に合わせて「変化」をつけるのが教員の技術だったりしたわけです。

 しかし、動画やオンライン授業では、それが途端に難しくなります。そこにはネット特有のタイムラグ(遅延)があるのです。

 生徒さんの反応を待っている間に、途端に空間が間延びしてテンポの悪い授業へと成り下がってしまうし、その間に皆の集中力低下を招き、次第に伝わるものも伝わらなくなってしまうのです。

 発問のタイミングひとつとっても難しいということです。双方向の授業を展開するにしても、このテンポ感のコントロールの難しさが大きな壁になるでしょう。

 そして多くの場合、「ネットだと授業がやりにくいなあ」という一言でそれを片付けてしまうのですが、そのままでは授業の改善に繋がりません。

 オンライン授業はライブ授業と全く異なるものであり、今まで述べてきたような特性があるんだということを理解したうえで、相応の準備が必要になるのです。

続いて映像授業・動画授業の場合です。

 こちらはもはや、完全なる一方通行の授業ですから、相手の反応を知る由すらありません。

 生徒や教室の雰囲気を察しなくても、常に「今の生徒の理解度はこのくらいで間違いない」「この言い回しが視聴者にはベストだろう」と直感的に思えるまで、用意周到な指導案や板書案を準備するべきです。

 また、映像授業の場合、聴衆が見えないなか、というか1人しかいない場で、間延びしないようテンポよく授業を展開し続ける必要があります。

 教師というよりは演者になったような感覚で、ハキハキとした授業展開が必要になります。映像や動画は間延びしますから、意識的にかなりハキハキと喋る必要があるのです。

 TVに出ている芸能人は、見ていると普通に喋っているように映りますが、実際はかなり大声で、ハキハキと、大袈裟なリアクションで撮影されています。そのくらい演じるつもりで授業する必要が出てくるでしょう。

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 ここまで、少しハードルを上げすぎと思われるかもしれません。でも、何も無理難題を言っているわけではないのです。

 ぜひ、人生で初めて教壇に立ったときをぜひ思い出してみてください。

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 どのくらいの準備をしたでしょうか。きっと数え切れないほど板書の練習をし、タイマーで時間を測りながら、板書案を何度も書き直したのではないでしょうか。

 より良い授業展開を目指して、たくさん参考文献を漁り、研究授業を繰り返し、教壇に立つときは相当な自信を持って立ったはずです。(それでも生徒の反応は案外イマイチで、とても悔しい思いをしたり。。)

 その積み重ねがあって、熟練の授業技術を身につけていかれたはずです。

 ライブ授業と、オンライン授業・動画授業はまったく異なります。あの時の自分に負けないくらい、用意周到な準備で「初めての授業」に望んでみてください

 そのハキハキとしたテンポの良い授業が、生徒さんをきっと惹きつけていくはずです。

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 そろそろ具体的な話に入っていきましょう。まずはオンライン授業についてです。

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【4】オンライン授業に最低限必要なもの

 オンライン授業のためには、まずWeb会議と同じ環境が必要です。

Web会議アプリ、コミュニケーションツール

 これは多くの方がさまざま試されたかと思います。レビューなども多いですからここでは簡単にだけ。

 まず一番簡単なのはzoomやskypeなどのWeb会議アプリをそのまま活用するパターンです。導入がスムーズですが、継続して利用していると、生徒一人ひとりとの連絡調整に難しさを覚えるかもしれません。(※また、zoom無償版は40分の時間制限が復活しますので、お気をつけください)

 そこで活用したいのが、コミュニケーションツールです。代表的なものとして「Google Classroom」と「Microsoft Teams」がありますが、個人的には、高校までは「Microsoft Teams」が使いやすいです。

 なお、もっと直感的な操作はその他のチャットツールが勝りますが、特に学校だと管理面やリスクヘッジ、あるいは教員の見えないところでの生徒間のやりとりにも意識を払う必要が出てきます。チャットのログを管理者が確認できるといったメリットも「Microsoft Teams」にはあるでしょう。

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Webカメラ

 学校現場だと、PCでオンライン授業することが多いと思います。PCには内蔵のカメラがついていることが多いですが、そのまま利用すると画質が粗悪なことが多いです。そんな時は外付けWebカメラを利用しましょう。

 安定のロジクール(Logitech)がおすすめです。C920、C922あたりが上位機種です。なお、テレワークで、自分の画質の悪さに悩んでいる方もこのWebカメラで解決できます。(ただし今は品切れが多発のようです。)

可能ならば、PCよりスマホからの配信の方が映像が綺麗(カメラの性能が良いです)になります。また、通信もけっこう安定している印象です。はじめのうちは授業前や授業をしながら、いろいろな環境を根気強く試してみてください。また、スマホ関連については【7】で紹介します。

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ハード面

 オンライン授業で、忘れがちなのがハード面です。オンライン授業をする場合は、インターネット環境の整備は欠かせません。専用の光回線を引き込むのが安心です。

 また、無線よりも有線の方が通信が安定します。PCで配信される場合は、有線LANケーブルの用意があるのが望ましいです。

 なお、PCから配信する場合、ある程度のスペックがあった方が良いです。スペックと言っても、高いものを求めているわけではありません。

 というのも、結構現場に出るとWindows XPのPCを見かけたりするのです。それだとさすがにちょっといろいろな意味で心細いですから、時代に合ったPCの活用が望ましいです。(次項のiPadを使うのもアリです)

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【5】こんな機材があればクオリティが高まります。

 実のある授業を展開しようと考えた時、まず大切になるのは板書している様子を映し出すことです。教員も、板書の様子を生徒に見てもらえることは授業のしやすさに直結するでしょう。

 教員の手元を映るようにカメラを複数台用意したり、Microsoft SurfaceのようなタブレットPC、あるいは電子黒板を活用するなど、方法はさまざまです。個人的なおすすめ例として、ここではiPadを活用した方法をご紹介します。

iPad

 iPadはタブレットの中で非常に導入しやすい端末かと思います。いくつかの種類が出ていますが、エントリーモデルのiPad(第7世代)は¥34,800-からです。

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Apple Pencil

 iPadの最大の特長は、書き心地の良いApple Pencilを使えることです。これで書き込んでいる様子を授業で配信すると、生徒も見やすいでしょう。

 iPad Proには第二世代、普通のiPadには第一世代が対応です。お手持ちのiPadに対応しているかどうか、ご確認ください。

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スイッチャー

 複数のアングルでオンライン授業しようとすると、カメラの切り替えなどが手間となります。そういった時に役立つのがスイッチャーです。YouTuberの間で人気となり、未だ品切れ続きなのがATEM Miniです。約¥40,000-という値段ですが、これはかなり安いほうで、コスパも良いです。

 HDMIで最大4系統の映像を入力させれば、ボタン1つで画面を切り替えることができます。大変便利です。

このほか、音声や照明などに工夫を加えるとよりクオリティが高まります。音声・照明は映像授業とも内容が重なりますので、詳しくは【8】の項目をご覧ください。

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 続いて、映像授業・動画授業についていくつか見ていきましょう。

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【6】 「映像」と「動画」は別物です。

 映像授業という言葉はだいぶ一般的になりました。スマホと4Gの普及に伴い、ここ数年でいろんな種類の映像授業が登場するようになったのです。

 よって、いざご自身で映像授業を撮影しようとした際の参考になるものが多くネット上に存在します。

 しかし、残念ながら教育業界は遅れている業界で、それらの映像授業の多くは、生徒たちからしたら一昔前の、少し古臭い印象のものが多いのです。

 それらを闇雲に参照していると、生徒にとって苦痛な映像授業が出来上がってしまう可能性があります。

 ここでおさえておきたいのが、「映像」と「動画」の違いです。言葉の定義はさまざまありますが、ONE MEDIA を運営する明石ガクトさんの定義が的を得ていて、一般的になっているのではないかと思います。

 彼は映像と動画の決定的な違いを時間当たりの情報の密度(Information Per Time)と表現しています。YouTube的編集がなされたものが「動画」で、1分あたりの情報量が非常に多く、凝縮されています。

 その"情報密度"になれている10代・20代から見ると、情報密度が薄いテレビ番組などの「映像」はかなり間延びして映ってみえるというわけです。

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 もう少し、実際の授業をみながら考えてみましょう。

映像授業:ライブ授業の録画(またはその延長)

 一つ目は、いわゆるよくある「映像授業」です。まだインターネットや動画配信サイトが流行する前、DVDなどで授業を視聴するスタイルのなかで作られ、その延長で現在も映像授業の中心にあるものです。

 大手予備校ですと、東進ハイスクールはこの映像授業を教室のみで閲覧できるようにし、急成長しました。(ここでは、YouTubeの東進公式チャンネルに載っている一番古い動画を載せました。)

 ライブ授業を録画しているかのような感覚、というのがおわかりいただけるかと思います。何せ10年前の映像です。10年前からこのスタイルに取り組んでいたのが東進ハイスクールなのですね。

 撮影自体は生徒さんのいない場で行っても、一般的に「映像授業」を撮るとだいたいこんな感じになります。

 有名な先生の授業だったり、受験が迫っていて勉強に追われていない限り、おそらく今の生徒さんには、喋りや板書の「間」が離脱のポイントになりかねません

 もう1つ、最近人気のスタディサプリの映像授業もご紹介します。CMでご覧になった方も多いかも。スタサプも類型は基本的に同じです。

 撮影が比較的最近ですから、映像の綺麗さなどはありますが、基本的には同じ「映像授業」です。

 ただし、この関先生は、かなりの授業力のあるトップクラスの先生です。ライブ授業の延長に定義づけたとはいえ、映像の特性を把握された上で、テンポ感があり、無駄も少なく、生徒もわかりやすさを体感しやすいかと思います。スタディサプリの中でも群を抜かれているでしょう。

 映像授業を撮ろうと思われる方、あるいはオンライン授業の展開を考えている方は、上の2つの動画の違い(特に話し方・スピード)に着目いただき、テンポ感や「間」を意識されると良いのではと思います。

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動画授業:動画の特性を踏まえ、編集も入れた授業

 続いて、ライブ授業と動画授業は別物という意識のもと作成された授業です。「映像授業」に対しここでは「動画授業」と表現します。

 その代表例として、YouTube界隈では期待値が高い「ただよび」があります。執筆時点で最新の動画を見てみます。

 最初にひとネタこそ入っていますが、開始15秒でもう本題の授業が展開されているスピード感、そして、情報の凝縮が見られます。

 また、YouTube特有のテロップや効果音が随所に入れ込まれており、見ている人の離脱を防ぐ編集がなされています。

 なかでも、所々で「間」のカットがなされています。注視いただくと、途中途中、かなりの箇所でぶつ切りのようなカットがされています。

 この編集方法をジェットカット(ジャンプカット)と言い、離脱を招く「間」を効率よく取り除いていく、YouTube特有の編集手法です。

 多くの小中高校生はこれらの編集方法で作られた動画で育ってきています。よって、慣れ親しんだ編集を違和感なく受け入れ、またこのテンポ感で授業を視聴することができるでしょう。

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 一概に「映像授業」と言っても、ただ授業の撮影をする「映像」なのか、編集やYouTubeらしさを加味した「動画」テイストなのか、ここに大きな違いがあります。

 ご自身が展開したいコンテンツは、対象や目的から考えると、どんな映像(動画)にするのが望ましいでしょうか。ぜひ検討してみてください。

コラム3:「短いことこそ正義」?
 音楽の研究で、イントロ(曲の導入部)が短くなっている、テンポが早くなっている、サビから始まる曲が増えている、といった意見があります。ストリーミング再生が主流となり、また視聴者の集中力が短くなっており、ザッピングに負けないために、本質(サビや歌唱部)にたどり着くまでの時間が短くなっている、という主張です。この考えは動画やオンライン授業にも間違いなく活きてくるでしょう。
 なお、日本の楽曲でどれだけ広まっているかは研究を待ちたいですが、確かに流行した曲を振り返ってみると、そんな気もします。
1)米津玄師「Lemon」はイントロ0秒で、サビから入ります。今YouTubeをみたらもう5億再生超えてる。
2)King Gnu「白日」もイントロ0秒ですよね。意外にもAメロから始まりますが、あの引き込まれる高音アカペラが印象的です。
3)菅田将暉「まちがいさがし」もイントロ0秒。0秒多いですね。
とはいえ、別に全部の楽曲がそういうわけでもありません。例えばOfficial髭男dism、流行りの「I LOVE...」はイントロ22秒と長めだったり。
 あくまで傾向として、そういった曲が若い人に好まれているかもしれない、という感じでしょうか。

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【7】 機材はスマホと三脚さえあればOK。

 さて、実際に映像や動画を撮影しようと思った時に、一番ハードルを感じられるのが「機材の問題」かもしれません。実際、どんな撮影機材を揃えれば良いの?という質問をいただきます。

 しかしこの21世紀、大変便利な世の中になりました。おそらくお手持ちのスマートフォンと、それを固定する三脚さえあれば、結構良質なコンテンツを撮影できます。順番に見ていきます。

●カメラ

 ちょうど発売されたiPhone SEは12MPの広角カメラをつんで¥44,800-から。コスパ最強すぎます。

 普通、インカメラよりアウトカメラの方が画質は良いです。しかし、インカメラを用いて、自分の映り具合を確認しながら撮影もできます。使い勝手も良いので、まずはスマホでチャレンジしてみるのが手っ取り早いです。

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スマホ三脚

 これまた便利な世の中、使いやすそうな三脚が数多く売られていますので、良さそうなものをポチッと買いましょう。

 なんとなくありもので固定するより、しっかりと三脚で高さや目線・角度を調整してから撮影すると、質が上がるものです。

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【8】 ワンランクアップした映像には音声と照明を。

 ワンランク上の映像を目指そうとすると、マイクと照明(明るさ)に力を入れる必要が出てきます。ホームビデオ感がなくなり、集中しやすい映像作りができるようになるのです。

マイク

 マイクにはいくつかの種類が存在します。マイクというと、カラオケに置いてあるマイクがイメージしやすいですが、あれは「ダイナミックマイク」と言われるものです。耐久性がある一方、ちょっと感度が弱めです。

 一方、電源を用いて繊細な音を記録するのが「コンデンサーマイク」です。基本的には、このコンデンサーマイクを使うことで、音質を高めることができます。

 また、マイクには「指向性」が存在します。マイクによって、どの方向からの音を拾いやすいか・拾わないかの違いがあるのです。

 1箇所に座った(立った)まま動かず喋るのであれば「単一指向性」のマイク、2人でマイクを挟んで対談するなら「双指向性」あるいは単一指向性を2つ、多人数で会議をするなら「全指向性」が適しています。

 単一指向性ならマランツのマイクはコスパがよく評価も高いと思います。また、まわりの環境音が入り込まないか、気をつけましょう。

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●スマホ向けマイク

 スマホ向けのマイクは多くの種類が出ています。まず黒板の前で授業をする場合などはピンマイクがおすすめです。

 無線のピンマイク(TVで使われている類いのもの)は少々値段が高いので、その場合は有線ピンマイクでも良いでしょう。有線のコードが気にならなければ試してみる価値ありです。

 ピンマイクだとやりにくいということであれば、カメラ用に販売されている外付けマイクが、スマホにも対応していることが多いです。

 喋る時は必ずカメラ(マイク)の方向を向くことをお忘れなく。

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●照明

 YouTubeにある映像を見比べても解る通り、明るさが十分にないと、どうしても素人っぽさが出てしまいますから、明るい場所での撮影をおすすめします。

 一般的な自宅とオフィスの照明を比べてみると、自宅はかなり明るさが足りないはずです。やはり、オフィスの蛍光灯ってとても明るいのです。ですからオフィス・学校・教室などでの撮影が望ましいです。

 どうしても明るさが足りない場合は、照明機材を活用したり、撮影時にカメラで明るさを調整するようにしましょう。

 また、顔に照明をあてるだけでも印象が変わるものです。

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【9】 編集の力は偉大、でも過信は禁物。

 前半部で紹介してきたとおり、YouTubeの動画に慣れている世代にとって、撮ったままの授業をそのまま視聴させるよりは、少なからず編集を入れた方が、クオリティの高い授業となります。

 いわば編集によって、あなたの授業が輝くようになるわけですから、編集=魔法のような、なんでもできるようなイメージを持ちがちです。しかし、何でもかんでも編集でうまくいくようになるわけではありません

 どちらかといえば、編集はあくまで「味付け」程度であり、できないことも多いです。でも、その編集をうまく扱うことができれば、あなたの授業が輝くようになるという感覚でしょうか。

 編集で何ができるのか、あるいはできないのかは、百聞は一見に如かずで、一度実際に編集してみるにこしたことはありません。

 例え外注して編集を入れるにしても、編集で何ができるのかを知った状態で撮影するのとそうでないのとでは、大きな違いが生まれてきます

 余力があればぜひ一度チャレンジしてみてください。

●編集ソフト

 編集ソフトの定番として根強い人気があるのは「Adobe Premiere Pro」か「Final Cut Pro X」です。後者はMacでのみ利用可能です。どちらも数万円という価格帯です。

 最近は無償版でけっこう事足りてしまうと言うことで「DaVinci Resolve」という編集ソフトが人気です。使い方を紹介するYouTube動画も多く出ていますし、今から始めるなら使ってみるのはアリです。

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【10】 著作権は守ろう

 これは映像授業でもオンライン授業でも気をつけなければならない点です。知的財産権、とりわけ著作権です。教材を、映像授業なりオンライン授業なりで画面に映し出す場合、ライブ授業とはまた異なる、著作権の扱いに気をつけなければなりません。

 たとえ生徒も教員も手元に同じ教材を持っているとしても、それを画面に表示させる場合は、別途、著作権者の許諾が必要になります。

 権利処理を手間に思われる方が多いのですが、これから映像授業やオンライン授業を「制作」しようとされているあなたは、今度はまさに「著作者」の立場になろうとしているわけです。

 本来守られるべき権利が守られない環境下では、映像授業・オンライン授業を含めたさまざまな創作活動が行われなくなるリスクがあります。将来のあなたの権利を守るためにも、コンテンツ制作においては、著作権を遵守しましょう。

 多くはいろんなサイトで紹介されていますから、ここでは簡単にだけ。

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●学校教員の方

 そもそも学校などの教育機関では、対面する授業のために必要な範囲であれば必要と認められる限度において著作物の複製が可能ということで、プリント教材などが作られてきました。

 (著作権法第35条1項の話です。なお、著作権者の利益を不当に害するとNGですので、問題集を丸々印刷するなどはアウトです。また学校であっても授業以外はNGです。)

 そして今回関わってくるのが2項の部分です。オンライン授業のように、遠隔でネット配信する場合(公衆送信)は、授業であっても著作権者から個別の許諾が必要でしたが、2020/4/28施行の改正著作権法により、教科書や資料集は「無承諾」での利用が可能になりました。

 お気をつけいただきたいのは、すべての教材において認められているわけではないという点と、2020年度に限って「無償」の利用が可能なのであって、本来は「有償・無承諾」(補償金支払いを条件に、著作者個別の許諾は不要)であるという点です。

 あくまで著作者を守る権利が、授業のために制限された、規制緩和されたのだという認識を持っておきたいです。

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塾など営利目的の会社や個人塾

 学校教育法に基づく教育機関ではありませんから、上で述べた著作権の制限の対象外です。よって、オンライン授業や映像授業の制作では「公衆送信権」や「送信可能化権」「口述権」など、著作権が広く適用されます。

 基本的には、オンライン授業や映像授業では、承諾を得られない限り、著作物を扱うことは避けましょう。すべて自作の教材や、著作権が切れている著作物を用いて授業を展開するのが望ましいということになります。

 このコロナ禍以前は、公衆送信権や送信可能化権があったため、なかなか私塾のデジタル化が進んでいませんでした。

 しかし、状況が状況となってきましたから、ご自身の塾で使われている出版社・教材会社と、オンライン授業時の権利の扱いなどを調整されてみるのも手かもしれません。

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おわりに

 ここまで長々と自由気ままに書いてしまいました。お付き合いいただいた方、ありがとうございます。

 とにかく、早く元の世の中に戻って欲しいところですが、これからは「withコロナ」の世界として、人と人との接触を出来る限り避けた生活が一般化されていくのでしょうか。

 そう考えると、いかにこのオンライン授業に慣れていくか、映像授業を作り慣れていくかというのは教育業界でも大切な視点になりそうです。

 視点を変えてみると、いかに動画やオンラインの特性を踏まえて、それを活用するか、というそのやり方次第によっては、教育は大きな進化を遂げられる、そんなタイミングを迎えているようにも思えます。

 (例えば、話題のアクティブ・ラーニング。動画で知識の定着、学校で探究型学習という反転授業とは、かなり親和性が高いはずです。)

 1人でも多くの方が、コンテンツ制作にポジティブに取り組まれ、より良いコンテンツで溢れるようになれば、子どもたちにとっても1人ひとりに合わせた教育を提供できるようになるのかとも思います。

 皆さまと共に、良質な授業・コンテンツ作りができれば幸いです。

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