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「超加工食品は危ない」本当の理由を探してみよう

この記事は「今年読んだ一番好きな論文2019大人版 Advent Calendar 2019」の21日目です。

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去年(2018年)ごろから、「超加工食品を食べると体重が増える、死亡率も上がる」という研究成果が発表され続けています。超加工食品とはどんなもので、本当に危険なのでしょうか。研究成果を紐解きながら、食と健康について考えてみましょう。

異議もある超加工食品という分類

ただの加工食品ではなく、「超加工食品」とは何なのでしょうか。超加工食品とは、食品を加工の度合いによって分ける「NOVA分類」という分類法のグループのひとつです。

NOVA分類は、2010年にブラジルの研究グループが提唱したものがベースとなっています(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21180977)。現在はグループ1〜4に分けており、その中で超加工食品は最も加工度の高いグループ4と定義されています。

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ただ、この分類については世界中の研究者が賛同しているわけではありません。例えば、「未包装の焼きたてパン」の中にも食品添加物の入ったものがあったり、スナック菓子の中にもシンプルな原材料で作ったものもあったりと、分類が難しいものがあります。

スーパーで売られているブルーベリーヨーグルトは大量生産品のため超加工食品に分類されますが、違和感を覚えます。日本なら、だし入り味噌も超加工食品です。また、「いかにも栄養素がかたよったもので分類した」という恣意的な方法に批判も寄せられています。

あくまでも、「このような定義のもとで行われた研究」と身構えておく必要があります。感情に訴えかけるバズワードこそ、定義を確認しましょう。

相関するからといって因果関係があるわけではない

最初に超加工食品が注目されたのは2018年、パリ13大学の研究グループからの報告です(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29444771)。この論文では、18歳以上の10万4980人を対象に、2009年から2017年までに行われた追跡試験のデータが分析されました。年齢の中央値は42.8歳、女性のほうが多く78.3%。フランス在住で、食事の記録はインターネット越しの自己申告で行われました。

超加工食品の摂取量(重量)ごとに解析すると、食事の中で超加工食品の割合が10%増えるとがんにかかるリスクが12%増えるという結果が得られました。

次に注目されたのは翌年、同じ研究グループから発表された内容です(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30742202)。今度は45歳以上に限定して4万4551人を対象に解析されました。ここでは、超加工食品の摂取量と関係するものも調べられており、低年齢、低収入、低学歴、一人暮らし、高BMI、低運動量との相関が認められました。これらの影響を取り除いてもなお、食事の中で超加工食品の割合が10%増えると死亡率が14%増える結果が得られました。

これらの結果だけ見ると、確かに超加工食品は危険だと思ってしまいます。しかし、超加工食品の具体的にどこが危険なのでしょうか。

そもそも、この2つの研究は、後から結果だけを見て判断する性質上、条件を揃えることがほぼ不可能です。研究者すら見いだせていない別の共通要因があり、相関しているように見えるだけかもしれません。

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その場合、超加工食品を食べないようにしても、共通要因があるせいで結局死亡率などは変わりません。

超加工食品で太る本当の原因

超加工食品の影響をより厳密に調べたいのであれば、食事以外の条件を揃えて比較する必要があります。そこで、アメリカの国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所の研究チームは、厳しい管理下のもとで検証しました(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31105044)。

実験は、研究所の施設に4週間入居するというもので、実験内容に同意した参加者20人を10人ずつにグループを分けます。片方のグループの食事は、最初の2週間は超加工食品(NOVA分類のグループ4のみ)で次の2週間は非加工食品(NOVA分類のグループ1〜3)。もう片方は非加工食品、超加工食品の順としました。つまり、同一人物で2週間かけて食べ比べてもらう実験です。

今回の実験では、超加工食品と非加工食品で、カロリー・炭水化物・脂質・タンパク質・糖分・食塩・食物繊維などの栄養素はほぼ同じになるように調整しました。こうすることで、特定の栄養素の摂りすぎにより影響を除いて、純粋に加工度の違いの影響を知ることができると考えたからです。さらに重要なこととして、食べる量は参加者に任せて自由にしました。

その結果、どちらの順番でも、カロリー摂取量は超加工食品のときが平均2979キロカロリー、非加工食品のときが平均2470キロカロリーと、約500キロカロリーも差が出ました。当然ながら体重は、超加工食品を食べ続けた2週間後には平均0.9キログラム増えました

つまり、食べる量を自由に設定した結果、超加工食品のほうが食べ過ぎになり、体重が増えやすくなったことを意味します。ちなみに夕食では食べる量に差はなく、朝食と昼食で食べ過ぎになりました。

なぜ食べ過ぎになってしまうのでしょうか。超加工食品のほうが美味しければ当然かもしれませんが、アンケートでは味や飽きやすさの差はありませんでした

差があったのは、食べるスピードでした。非加工食品に比べて超加工食品のほうが、食べるスピードが約2割も速かったのです。

人間は「お腹いっぱい」と感じるまでに少し時間がかかります。加工することで時間をかけて噛むことなく食べられるようになったため早食いしてしまい、満腹感を覚えるまでに食べる量が増えてしまった、と考えることはできそうです。

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ただし、たった1ヶ月の実験なので、この影響がフランスの研究グループが主張するがんや死亡率に関係するかまではわかりません。

原則は「栄養バランスを考えてよく噛んで食べる」

アメリカの実験では、栄養素を揃えたにもかかわらず、なぜか超加工食品のほうが炭水化物、脂質、食塩の摂取量が増え、タンパク質、食物繊維、糖分では差がありませんでした。参加者が何らかの選り好みをしていそうですが、理由は不明です。

とはいえ、一般的な超加工食品では栄養素がかたよっているので、普通の生活環境では炭水化物、脂質、食塩を食べる量がさらに増え、食物繊維の量が減りそうだと想像できます。これに早食いが拍車をかけることで死亡率上昇につながるという説はあり得るかもしれません。

ここまでは超加工食品だけに注目してきましたが、栄養素がかたよったものを食べすぎれば体によくないことは目に見えています。超加工食品かどうかに限らず、「栄養バランスを考えてよく噛んで食べる」ことが大事という、昔から言われていることを改めて認識するきっかけになるのかもしれません。

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(筆者の仮説であり、実証されているわけではありません)

というのも、現代では超加工食品を避けて生活することは極めで困難です。なぜなら、値段という現実的な問題があるからです。アメリカの実験で用意したメニューの場合、2000キロカロリーを用意するのに超加工食品では106ドルに対して、非加工食品は151ドルもかかりました。フランスの調査で低収入、低学歴な人と超加工食品の摂取量に相関があったのもうなずけます。

また、加工することで、生では食べられないものも美味しく食べられるようになり、海外でしか食べられなかったものも日本で簡単に食べられるようになるなど、食に楽しみや豊かさをもたらしたのも事実です。手作り品よりも食中毒のリスクが低いというメリットもあります。食べたいのに我慢することがストレスになっては本末転倒です。

超加工食品は、確かに毎日食べていれば体重増加、そして死亡率増加につながるかもしれません。でも、たまに食べるくらいなら、美味しいものを安く食べられるという素晴らしい体験になります。

超加工食品に限らず、特定のものだけ食べる・食べないという選り好みをするのではなく、「栄養バランスを考えてよく噛んで食べる」という原則が、健康への一番の近道です。

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ちなみにこの記事は某所に寄稿してボツになったものです。編集から、「この結論ではあまりに一般的すぎるので、正確さは必ずクリアした上で、面白く、納得感のある論にしてください」と言われました。イラッとしたのでこっちから取り下げたのですが。

食事において、「栄養バランスを考えてよく噛んで食べる」以上の結論はありません。「〇〇は危険だ!」「〇〇だけ食べればいい!」というものほど怪しいと疑ってください。

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