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甘いカフェオレと11ぴきのねこ

シューっとやかんが沸騰する音にハッとした。
少しとろんとした眠気にいかんいかんと顔を左右にブンブンと振り目を覚ます。

一人の朝は早めに起きてご飯とお味噌、昨日の晩の残り物を朝食にし、食後にのんびりコーヒーを飲みながら一息つくのが日課だ。

以前は出勤前に犬の散歩をしていて、1分1秒時間を無駄にしないためのドタバダ劇が繰り広げられていたのだが、無事シニア犬の仲間入りを果たした犬二頭は朝からぬいぐるみを枕に毛布に包まり一日中寝ているようになったので、散歩の代わりに食後のコーヒータイムが設けられるようになったのである。

穏やかに眠る二頭を起こさないようにできるだけそーっと部屋を出て、裸足で歩くぺたぺた音もしないように抜き足差し足忍足でキッチンに向かう。

やかんをIHにかけて食卓の椅子にすわり、脳内で分刻みのスケジュールを積み木のように次々重ねてプランニングしていく。
最後まで予定を積み重ねたらその高さに呆然としつつも大きく呼吸をして気持ちを前向きに整えていく。

両手で頬杖をついて軽く目を閉じて今日一日の過ごし方、人との会話のやり取りをイメージしていたらどうやらウトウトしてしまったらしい。

今朝も甘いカフェオレにしよう。
気分によってドリップしたり、楽なインスタントやティーパック、紙パックのものなどを飲むのだが、朝は甘いカフェオレの粉末を混ぜたものを飲むことが多い。

朝はシャキッとブラックコーヒーでしょうよ。
と人に言われたことがあったが、
人の何倍も乱れやすい精神状態をフラットにし、少しでも維持するには気付け薬的役割を果たすものよりも、落ち込んだ心をやんわり回復するポーション的役割を担ってくれる優しい味が好ましい。
ふんわりと広がる甘い香りに包まれながらこくりと飲んだときに広がる温かい心地よさに体がぽかぽかになる。

色んな色、形、素材のマグカップが並んだ食器棚を開くと一番前に堂々とこちらを見つめる白いカップがひとつ。

小さい頃から大好きな絵本、11ぴきのねこのイラストが描かれた軽くて量も適量入る口当たりがちょうどいい厚みのカップ。
11ぴきのねこ展で一目惚れして手に入れたものだが、もう何年も朝のお供をしてくれているので悩まずとも自然に手が伸びる。

テーブルの上に置くと無地だらけの家具の中に彩りが加わり、さらに可愛らしいねこたちのイラストにほんわかと和む。

コポコポとお湯を注ぎくるんくるんとかき混ぜると優しい茶色になり、白いカップとのコントラストが綺麗に広がる。

子供の頃に好きだったものは大人になっても好きで、緩やかに時が流れ過ぎてもそのままの自分でいられる気がして変わらないものを選び続けている。

大人になると子供っぽいものが好きだと、ぶりっこだの、頼りないだの、まだそんなものを?言われてしまうけれど、
好きなものを好きだと変わらず言えることが、孤独に伏せる自分に手を振ることができる手段なのだと気付いた。
人目なんてあるようでないものだし、誰かのための自分で過ごすなんて面白くないから、こころの行き場をなくさぬようにあっさりと自分の声を認めてあげるのもいいもんだ。

にんまりと笑う猫たちを見ながら、こんな笑顔で今日もいつも通りにすごそう。とグイッと最後の一口を飲み干した。

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