自民と維新、国民大躍進

自民63で岸田政権盤石

 今回は、非改選の欠員を補充する神奈川選挙区を含め、125議席(選挙区75、比例代表50)を選ぶ。選挙後の総定数は、非改選と合わせて248。自民が改選過半数の63議席以上を取れば、単独で国民の信任を得たことを意味する。首相の求心力は大きく増し、政権は盤石となろう。もっとも、過去2回の獲得議席を見ると、2019年は57(選挙区38、比例19=改選定数124)、16年は55(選挙区36、比例19=同121)。13年は65(選挙区47、比例18=同121)と大勝しているが、簡単ではない。

 6月16日現在の自民の勢力は110で、公明党(28議席)と合わせて過半数を確保している。与党の非改選は69(自民55、公明14)。自民がさらに議席を伸ばし、70議席なら単独で過半数(125)に届くが、極めて高いハードルと言えそうだ。

通常国会閉幕のあいさつ回りで国民民主党の控室を訪れた岸田文雄首相(右から2人目)と頭を下げる国民の玉木雄一郎代表(左端)=2022年6月15日、国会内【時事通信社】
 一方、公明が前回同様に14議席を得ると仮定すると、自民は42議席で過半数を維持できる。現時点の情勢では容易に確保できそうだ。首相が、進退を問われる勝敗ラインについて「与党で過半数維持」を掲げるのは、こうした事情からだ。

 過半数との絡みで、もう一つ注目されるのは、自民と国民民主党とを合わせた議席。両党の非改選は60(うち国民は5)。両党で65議席を得れば、自・国で過半数に達する。この場合、自民にとっては、過半数確保の選択肢が一つ(公明)から二つ(公明、国民)に増える。逆に、公明にとっては、支持母体の創価学会を中心とする衆参選挙での組織票とともに、政権内での力の源泉になっている「参院で与党過半数に貢献」という要素を失うことになる。影響力の低下は避けられない。
先の通常国会で国民は、野党ながら22年度予算に賛成、自民に急接近した。水面下で国民の取り込みに動いたのが麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長。両氏とも、公明・学会票がなくても選挙に勝てるほど地盤が強固だ。これを背景に、「選挙、政策両面で注文の多い公明への過度な配慮に否定的」(閣僚経験者)とされる。今回の参院選でも、相互推薦をめぐり、自公両党はぎくしゃくした。自・国で過半数に届けば、公明の影響力低下につながる、国民の連立参加が現実味を帯びよう。

与党と維・国で83、改憲へ前進

公明党本部=東京都新宿区【時事通信社】
 与党に加え、野党の日本維新の会、国民も憲法改正に積極的で、これら「改憲勢力」が非改選と合わせて、発議に必要な3分の2(166)以上の議席を得られるかも焦点の一つ。非改選は計83。自、公、維、国の4党で83議席を得れば、これをクリア。衆院では3分の2を大きく超えており、数の面で発議の条件が整う。

 岸田政権の発足で自民とのパイプの「劣化」が指摘される公明には、「3大選挙」での完勝がかかる。昨年の東京都議選では全候補者が当選。衆院選では議席、得票ともに伸ばし、創価学会はいずれも「大勝利」と位置付けている。

 公明は今回、改選14議席(選挙区7、比例7)の維持と比例800万票の目標を掲げる。前回も14議席を得ているが、比例票は653万票超と過去最低にまで落ち込んだ。衆院選の比例票も711万超で、800万は極めて高い目標と言える。このことを考慮すると、改選議席を維持した上での比例700万票台への回復が、至上命令ではないだろうか。

 しかし、支持者の高齢化や、「クリーンな党」のイメージを損ねた遠山清彦元財務副大臣の貸金業法違反事件など、不安材料も多い。原田稔創価学会会長が休む暇なく、全国各地を「指導」に回っているのも、危機感の裏返しとみられる。
比例で野党第1党争い―立民VS維新

参院選に向け、公約を発表する立憲民主党の泉健太代表=2022年6月3日、東京・永田町の衆院議員会館【時事通信社】
 野党に目を向けると、衆院選敗北を受けて就任した立憲民主党の泉健太代表にとっては、最初の参院選。衆院選で公明を抜いて第3党となった「第三極」の維新は、改選6議席の倍増を「最低目標」とし、全国政党への脱皮を目指す。立民は泉体制となって以降も、支持率は低迷(時事通信6月調査で3.9%)。維新(同3.1%)と拮抗(きっこう)している。こうした状況下、党勢を占う意味で注目されるのが、両党のどちらが比例で野党第1党になるかだ。

 19年の比例票は、立民791万超(得票率15.81%)に対し、維新490万超(同9.80%)。昨年の衆院選は、立民1149万超(同19.99%)、維新805万超(同14.00%)。官公労を中心とした労組の支援を受ける立民は組織力で勝るが、維新も改選定数が1や2の選挙区にも積極的に候補者を立てるなど、比例票の掘り起こしに懸命だ。

 もし、比例で維新が上回れば、次なる目標の「次期衆院選で野党第1党」の達成へ、大きな足掛かりを得ることになる。逆に立民では、改選23議席(選挙区16,比例7)の維持に黄色信号がともる。結果によっては、泉代表の求心力低下は必至だ。

在任21年、進退懸ける?―志位・共産

参院選の公約を発表する共産党の志位和夫委員長=2022年6月8日、国会内【時事通信社】
 2000年に就任した共産党の志位和夫委員長にとっては、15回目の国政選挙。先の衆院選では、「限定的な閣外からの協力」と政権の枠組みにまで言及、立民などとの候補者一本化を優先したが、結果は2議席減の敗北。同様に議席を減らした立民の枝野幸男氏が代表を引責辞任したのとは対照的に、志位氏は続投した。

 議会制民主主義において選挙は、主権者たる国民が政治的な意思を示す場。議席・票を減らすことは、国民からの信任の低下を意味する。実は、既成政党の中で共産は、選挙結果がトップの進退に直結しない唯一の党だ。志位氏の就任後、最初の衆院選(03年、定数480)の解散時勢力は20。最初の参院選(01年、定数252)の公示前勢力は23。現在の勢力は衆院10、参院13。就任時と比べ、衆院は半減、参院は4割減だ。


 今回の改選は6(選挙区1、比例5)。共産は19年参院選、17年衆院選でも議席を減らしており、今回もマイナスなら、国政選挙4連敗となる。志位委員長には参院選に進退を賭ける覚悟はあるのだろうか。これも注目点だ。

投票率に注目、最低は44.52%

 内閣や党の支持率を見る限り、自民の優位は動きそうにない。しかし、不安要素はある。一つは、国民生活に直結する物価高だ。エネルギーや食料品の価格が軒並み値上がりする中、日銀の黒田東彦総裁による「家計の値上げ許容度は高まっている」との失言も飛び出した。

第208通常国会が閉幕し、参院本会議場を後にする各党の議員ら=2022年6月15日午後、国会内【時事通信社】
 物価高の要因の一つが、ロシアのウクライナ侵攻という「外的要因」ということもあり、不満が政府に向かってはいないようだが、風向きが変わらないとも限らない。首相が国会閉幕を受けた6月15日の記者会見で、「侵攻」より響きが強い「侵略」という言葉を使い、ロシアを批判。ロシアによる「有事の価格高騰だ」と断じたのも、不満が政府に向かうのを懸念してのことだろう。

 もう一つは、自民党に関わる相次ぐスキャンダルだ。前回参院選以降、河井克行元法相・案里元参院議員夫妻による公選法違反、吉川貴盛元農水相の収賄、秋元司・元内閣府副大臣の収賄と証人買収と、刑事事件が頻発している。3年で4人の国会議員経験者が起訴されるなど異例だ。これに続き、党籍離脱中の細田博之衆院議長の女性記者へのセクハラ疑惑が週刊文春に、岸田派若手の吉川赳衆院議員の18歳女性との飲酒などの疑惑が週刊ポストに、それぞれ報じられた。
 本来なら、これら二つの要因から、自民に逆風が吹いても不思議ではない。実際、選挙戦の最終盤で情勢が急変、当時の橋本龍太郎首相が引責辞任した98年の例もある。「与党におきゅうを据えよう」。有権者が現状への不満を募らせ、批判の矛先を与党に向けたら、与野党を取り巻く状況は一気に不透明となるだろう。
 その意味で注視すべきは投票率だ。自民が57議席を得た前回は48.80%。37議席と大敗し、第1次安倍晋三政権の退陣につながった07年は58.64%。過去最低は改選第1党となる46議席を確保した95年の44.52%だ。今回、期日前投票や当日の投票率が大きく伸びていれば、情勢が急変したサインかもしれない。

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