消滅おっぱい

三つ単語貰って書いた短い物語。

「筋肉」「エスパー」「喫茶店」

「ハルコー!起きなさい。早くしないと店開けれないでしょう」
うるさい。ケータイのアラームよりうるさい金切り声でママが叫んでいた。今日も5時起きか。私は毎朝5時に起きて、寝癖ボーボーのまま、離れの小屋にいる牛の乳搾りを無理矢理させられている。断ったらあとが大変。そしたらママはごはんも作ってくれないし、お小遣いもくれないし、私が一番コンプレックスに思っている貧乳をひたすらバカにしてくるんだもん。
「ハルコ、今何歳だっけ?17?なんであんたのおっぱいはまだ乳首しかないの?」「ハルコ、あんた・・・なんでお兄ちゃんよりおっぱい小さいの?」「ハルコ・・・どんまい」どんまいじゃねえよ。なんでママもおばあちゃんも爆乳なのに、私だけがAカップなの?まだギリギリ成長期だから望みを持っていいの?ていうかなんでお兄ちゃんは私よりおっぱいが大きいの?そんな鬱憤を両手にぶち込んで、私は今、牛のおっぱいを搾っていた。
私の家はこの辺ではちょっと有名な喫茶店。めちゃくちゃ甘いバニラアイスがのったパンケーキを目当てに連日お客さんの足が途絶えないの。そのアイスは今私が搾ってる牛のおっぱいから出てる新鮮かつ濃厚なミルクから作られてるってわけで、確かにこいつらのミルクは美味しいんだけど・・・。なんで私は普通の女子高生はまだぐっすり寝ている時間に起きて、毎日毎日お手伝いで私よりはるかに大きい牛のおっぱいを揉みしだかないといけないの?何故か「ハルコが搾ったミルクが一番甘くなる」って皆がいうし。なんで呪いながらおっぱいを揉んでるのに甘くなるの。今日も両手に怨念を込めておっぱいを揉んでいたら、突然鼓膜がやぶれるぐらいの大声で牛が鳴き出した。
「ウモーーーーーーーーー!」
牛が身体を大きく揺らして私はふっ飛ばされた。幸い、藁がクッション代わりになって怪我はまぬがれたけど、なんなのこの牛!腹殴って黒い模様増やしてやろうか。と拳を握りしめて、私は異変に気づいた。
牛のプニプニだったおっぱいがムキムキの筋肉に変わっている。
なんなの。でも、さっきまで私が搾っていたおっぱいだけが筋肉化されていて、他のおっぱいはまだプニプニのまま。私は筋肉化していない他のおっぱいを揉んでみた。
「ウモーーーーーーーーー!」
また私はふっと飛ばされて、苛ついて牛のお腹を全力で殴ってから、さっき揉んだ牛のおっぱいに注目した。やっぱりおっぱいはムキムキの筋肉に変わっていた。なんなのこれ。私は試しにありったけの怨念を込めて他のプニプニしてるおっぱいを睨んでみた。
「ウモーーーーーーーーー!」
牛は暴れ狂い、おっぱいはムキムキの筋肉へと変化を遂げた。コケコッコー。小屋の外で鶏が目覚めた瞬間、私は察した。私は超能力に目覚めたのかもしれない。それは爆乳を妬んだ貧乳がエスパーになった瞬間であった。
それからの私は道行く巨乳を見かける度に念力を送りおっぱいを筋肉化させていった。町に断末魔の悲鳴が響く度に、私はご機嫌にスキップで飛んだ。
ある日、テレビの生放送で巨乳をちらつかせるグラビアアイドルに苛ついて念力を送ってみた。たちまち巨乳はムキムキの筋肉に変わっていき、スタジオはパニック状態になって、急遽画面が切り替わった。私はコタツで蜜柑を剥きながら爆笑していた。
あれから10年。私は母になった。私は自分の捻くれた性格を可愛いといってくれた旦那に巡り会い赤ちゃんを授かった。あんなに貧乳に悩んでいた私はあれから爆発的おっぱい成長期に突入し今ではHカップ。DNAは裏切らなかった。やらしい話、赤ちゃんも旦那も私のおっぱいを欲しがってしかたがない。私は今、思春期の暗黒期が無かったかのような幸せに包まれた生活を送っている。痛いっ。授乳中、赤ちゃんが私のおっぱいをかじった。私はその瞬間、心の奥底で「おっぱいが無かったらいいのに」と微かに念じてしまった。すると、みるみる私のおっぱいが筋肉化していった。赤ちゃんがそれを見て泣き叫ぶ。私も泣き叫ぶ。部屋の奥から旦那が心配して駆けつけてきて私の筋肉化したおっぱいを見て絶叫した。
「おいおいおいおいっ!まじかよっ!」
旦那が笑っていた。とういうか興奮していた。ねえ。なんであなたは私たちが出会ってから最高の笑顔を今、浮かべているの?


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