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各種感想・考察文

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既存作品の感想や考察など。 作品の形態やジャンルはいろいろ。
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記事一覧

「ここは今から倫理です。」12話への雑感

 雨瀬シオリ著「ここは今から倫理です。」12話に出てきた、倫理問題について、あれこれ考えます。 ■問題文  問題文は、以下のとおり。 「あなたはとある夫婦の家の隣に住んでいる」 「そこの夫は妻に酷い暴力を振るう人で」 「ある日その妻が、ボロボロの姿で、助けを求め、飛び込んできた」 「その後、その夫もやってきた」 「『俺の妻がここに来なかったか』」 「・・・さて、この時貴方は妻を、隠し通すか、夫の元に帰すか」 「夫は『見つからなければ警察に届け出る』という。  このまま匿い

『猿の手』考察【追記あり】

 以前、『猿の手』の日本語訳を上げました。  原文の文法には忠実ではありませんが、誤訳はないと思いますし、日本語としてこなれた表現を心がけたつもりです。  短編です。よろしければお読みください。  今回は、この、『猿の手』の考察です。  ここからは具体的な内容に触れますので、未読の方はご注意を。 ■モリスはなぜ、猿の手を渡したのか  猿の手は、1人の人間の願いを3つだけ叶えます。  しかし、1つ願いを叶えるごとに、1つ代償を支払わせます。  その代償は、なかなか洒落にな

映画『2081』のプチ感想

 先日、「ハリソン・バージェロン」という短編小説の、日本語訳をあげました。 「平等」という、崇高な理念を実現するために、人間本来の在り方を、歪な方法でねじ曲げようとする近未来を描いた傑作。  海外では有名な古典のようですが、日本ではまだまだ無名の作品です。  よろしければ、お読み下さい。  ところで、優れた文芸作品は、映像化されるのが常です。  この作品も例に漏れず、今まで3回ほど映像化されています。  その中で最も知られているのが、『2081』という映画かと思います。  

江戸川乱歩『日記帳』考察③

 江戸川乱歩『日記帳』に関する考察を綴ってます。  いきなりこちらを開いた方は、先に①②からお読みください。  今回は、前回に引き続き、兄に関する考察を綴ります。  今回で、本作への考察は終わりです。 ■兄が知りたかったこと  雪枝からの葉書に貼られた切手は、最初から最後まで、ひとつの例外もなく、一貫して斜めに貼られています。  これを見たとき、兄は「雪枝も、弟に恋をしていた」ということを認めざるを得なくなります。  兄は、このとき初めて「何も知らずにいればよかった」と

江戸川乱歩『日記帳』考察②

 江戸川乱歩『日記帳』に関する考察の続きです。  前回はこちら。先に①を読んでいただけるとありがたいです。  今回は、25日の雪枝の葉書を目にした弟の真意から、綴ります。 ■私には、弟という男は、こう見える  弟の病は、おそらく、当時の不治の病です。  診断確定後、僅か数ヶ月で死亡したことや、自室に引きこもりがちだったことから考えると、急性の感染症だったのかもしれません。  もしかしたら、葉書のやりとりをしている頃、弟には何かしらの症状が出ていたかもしれません。  し

江戸川乱歩『日記帳』考察①

 江戸川乱歩の『日記帳』という短編小説について、考察を綴ります。  未読の方は、是非お読みください。  一読する程度なら、数十分もあれば充分な分量です。  朗読の音源を聴くのも楽しいかも知れません。  興味のある方は、聴いてみてください。 ■あらすじ  弟の初七日が済んだ頃、語り手である兄は、弟の書斎に一人訪れます。  そして、兄は、弟の日記帳を発見し、中身を読み始めます。  その記述から、恋には縁遠そうに思われた弟が、ある女性と葉書をやりとりしていたことが判明するので

宮部みゆき『ペテロの葬列』読後雑感

 宮部みゆきは、人物の内面描写に定評のある作家で、私の大好きな作家のうちの一人です。  代表作を問われたならば、今なら「三島屋シリーズ」が真っ先に上がるでしょうか。20年程前に書かれた『模倣犯』も評価の高い作品です(映画は酷評されましたが、それは原作のせいではありません)。  今回俎上にあげる『ペテロの葬列』は今から10年近く前の作品です。ドラマ化もされているそうですが、そちらは私は見ていません。杉村三郎という男性を主人公にした作品群の一つですが、その中でもこの『ペテロの葬列

「Love Never Dies」を観てみました。

 オペラ座の怪人に、続編があるそうな。 「Love Never Dies」(以下「LND」)。  愛は死なない。 「死んだと思っていたファントムは生きていた!」みたいなとこからついたタイトルなんでしょう。  オペラ座の元々の演出では、ラストは「ファントムこの後、死ぬんじゃね?」という描かれ方だったということでしょうか。 「LND」は、まずロンドンで公演がスタートしてるんですが、これがまあ評判が悪かったらしい。  何じゃありゃとオペラ座ファンを激怒させてしまい、わりとあっとい

夢野久作「瓶詰地獄」考察②

 夢野久作「瓶詰地獄」の考察を綴ってます。  今回は、各手紙を組み合わせつつ、いろいろ考えます。  ネタバレあります。  よければ青空文庫あたりで、まず、お読みください。短い小説です。 ■3つの瓶詰手紙が見つかった場所  3つの樹脂封蝋の麦酒瓶は、3つとも封蝋が為されたまま、同時に回収されています。  1つは砂に埋まっており、1つは岩の間に挟まっており、1つはどういう見つかり方をしたか不明です。  で、私ここで、ちょっと大胆な仮説を立てます。それは。 「二人が流れ着いた

夢野久作「瓶詰地獄」考察①

 夢野久作の「瓶詰地獄」について、綴ります。  複数の手紙を並べてあるという構成の短編です。未読の方で、興味がおありの方は、青空文庫にテキストがありますので、お読みください。  この作品は、背景を説明してくれないタイプの作品で、解釈が多数存在します。しかも、そのいずれもが「でもやっぱり、スッキリしない点が残る」という具合。だからこそ読者の心を捉えて放さないのでしょう。  読後感想を兼ね、考察を綴ります。  まずは、最初から順番に第一印象の感想を綴り、それから、細かい考察に

「放送禁止」1 考察①

 2003年より、フジテレビで不定期に放送された「放送禁止」シリーズ。  その第一回について、考察を綴ります。  随分昔の作品ですから、何一つ考慮せずネタバレします。  20年近く前の作品ですが、DVDで販売されていますから、よろしければ御覧ください。  YouTubeにフル動画が上がっているようですが、公式チャンネルなのか判らない上、音声が一部途切れているようなので、そちらはあまりおすすめしません。  このドラマシリーズは、いわゆるフェイクドキュメンタリーです。  ドキュ

「放送禁止」1 考察②

「放送禁止」第1回の考察について、綴ります。  前回、「財前は、実行犯ではあるが、黒幕ではない」と書きました。  では、他に怪しいのは、誰か。  そのあたりについて、書こうかと思います。 ■なぜ廃ビルで肝試しができたの?  取材陣が、昼間、撮影のためにビルに入るとき、財前は入り口の鍵を開けます。  つまり、この建物は、昼間ですら、普段は施錠されているということです。ならば夜は当然施錠されてるに決まっています。  ではなぜ、若者4人は、ビルに入れたのでしょう。  鍵が開い

「放送禁止」1 考察③

「放送禁止」第1回の考察について、綴ります。  今回は、前回の続き。 「他に誰が、どの程度怪しいのか」について綴る予定です。 ■藤堂について  財前と同様、一連の失踪事件に深く関与していそうだと、簡単に推測できるのが、藤堂です。  取材チームが襲われたのが、藤堂の別荘、しかも、藤堂のインタビューの真っ最中です。無関係であるはずがない。  ただ、この人の場合は、あんまり中心人物である感じがしません。  どこか小物っぽいんですよね。  藤堂は、小さな出版社を経営していた

ルパン三世・原作のススメ

 色気のある悪党が好きです。  ただ目つき顔つき性格口ぶりが悪いだけとか、ただただ粗暴なだけとか、頭の悪さを暴力だけでカバーしようとするとか、そういう下品な馬鹿はお呼びでない。  いつもどこか冷静で、笑っているときでもどこか酷薄で、蜜のように甘く、毒針のように鋭く、己の才覚一つで欲しいものをすべて手に入れていく、底の知れない悪党が好きなんです。  あくまでも、作品のキャラクターとしてということですよ。  現実の犯罪者はダメ。  現実でそんな人間に目をつけられたら、人生棒に振