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2022年上半期の好きな本まとめ

今年の6月は凄まじかった。体感1週間の梅雨が終わり、6月だと思えない猛暑が続き、室内で働いているだけでも夏バテしていた。食欲は落ち、うどんくらいしか喉を通らなくても、本を読みたい欲は止まらない。

上半期は新装版ムーミンシリーズを読破した。次は何のシリーズものを読もうか。赤毛のアンか魔女の宅急便、どちらからいこうかと嬉しく悩んでいるところだ。

それでは、早速今年1〜6月に読んだ本34冊の中から、おすすめの作品14冊を紹介します。

1.『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』アルテイシア

アルテイシアさんの夫さんがとにかくおもしろすぎる。言うまでもなく、アルテイシアさんの文章は鋭利なツッコミ満載で、本当は苦しいほど壮絶な話なのに、ゲラゲラ笑いながら読めてしまう。
「結婚は単なる箱で、中身は50年の共同生活」というフレーズには激しく同意。このド日常が愛おしくて仕方がないのである。私も夫と出会ってから健康で長生きしたいと強く思うようになった。アルテイシアさんの夫さんは46億年生きたいそうだが、そうは言わないまでもあと200年くらい一緒に生きたいなぁ。

2.『新装版ムーミン谷の冬』トーベ・ヤンソン

お月さまの光にてらされて冬眠から目が覚めてしまったムーミントロールは、はじめて冬を知る。そこはまったく知らない銀世界。子どものころに夜道を歩いて、いつもと同じ道なのに知らないところに思えてわくわくする感じに似ている。
いつものムーミン物語よりも重くて暗いが、冬の友だちを助けようとするムーミントロールとおしゃまさんの優しさや、冬の美しさが際立っている。
ムーミントロールにも気が合わない人はいて、でもその人に冷たく接することは出来なくて、人間関係って難しいね。いろんな人と共生していくことを知るムーミントロールの成長を冬眠中のムーミンママに教えてあげたい。きっとお見通しだろうけど。

3.『鎌倉うずまき案内所』青山美智子

平成生まれの私からすると、生まれてから今まで自分が触れてきた社会をサラリとおさらいできるような本だった。MDやiPodなどテクノロジーの変遷が懐かしい。章を追うごとに時代が遡り、連続性があるから、一章読み終わるごとに前の話とどう繋がっていたのかパラパラとページをめくりながら確認する時間も楽しかった。が、巻末にちゃんとまとめられていた。
各章が「〜の巻」と表記されており、それもうずまきの「巻」とかかっていたのかと最後に気がつきアハ体験であった。

4.『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください』上野千鶴子、田房永子

戦後以降の女性の立場がどのように変遷してきたのかが分かりやすくまとめらている。祖父母や親の世代はそれぞれどのように育てられてきたのかを知ることで、議論せずして世代間の認識の違いを埋めることは難しいのだと前向きな気持ちでそう認識した。
また、身近な人に言われてモヤっとしたことを受け流すことは簡単だが、それって全部次の世代に対処を任せることにしてしまっていたのだと気づいた。これからは「個人的なことは政治的なこと」として自分の世代で対処してやろうという気概を持って、些細なことでもギャーギャー声を上げていきたい。

5.『太陽の塔』森見登美彦

森見さんの京都の学生の物語は大好きだが、この独白小説も例に漏れず最高に好き。「日常の90パーセントは、頭の中で起こって」いると言うだけあり、現実と夢と妄想が織りなす事件の数々と癖の強い言い回しがもう本当におもしろい。本書を読むと、人は妄想力と幾人かの仲間がいれば、楽しく生きていくのに十分なものを持っているのだと思う。なぜか元気が出てきたぞ。

6.『愛なき世界』三浦しをん

植物への見方が変わりそうだ。植物は脳と神経がなく、人間のような感情がないけど、交配して地に根をはって生きている。
「これをすることに意味はあるのか」というようなことをぐずぐずと考えてしまう性質の私は、一旦そう考えることをやめてみようと思った。意味がないことはこの世にないし、私たちはただ生きていたら良いのだから。
植物に恋をする院生本村さんの気づきは輝きに満ちていた。「植物は光合成をして生き、その植物を食べて動物は生き、その動物を食べて生きる動物もいて……。結局、地球上の生物はみんな、光を食べて生きてるんだなと」
5〜10年後の研修室のみんなと洋食屋の見習い、藤丸くんを描いたスピンオフが読みたい!

7.『新装版たのしいムーミン一家』トーベ・ヤンソン

ムーミン谷の住人はみんなちょこっと抜けていて、優しい。おっかないと聞いていた飛行おににムーミンママはすかさずパンケーキとジャムを差し出せるし、飛行おにはみんなの願いを叶えることを約束してくれた。その願いをムーミンママはムーミントロールのために、ムーミントロールはスナフキンのために、そしてトフスランとビフスランは飛行おにのために使った。誰かを想う優しさは巡り巡って幸せをもたらす。優しい連鎖が魔法となってムーミン谷を包み込み、とても美しいと思った。
初雪から始まった本書を読み終えると、季節は秋になっていた。

8.『新装版ムーミン谷の彗星』トーベ・ヤンソン

ムーミントロールとスニフにとってムーミンママへの信頼は絶大だ。ママがいれば安心。たとえ彗星が地球に迫ってこようとも大丈夫。「きっと、みんながどうやったら助かるか、ママが知ってる」から。地球に彗星が衝突する日も、生姜クッキーとデコレーションケーキを作ってムーミントロールたちの帰りを待っているママ。子ども時代の私にとっても母はまさしくムーミンママで、母に聞いたら不安なことも大丈夫になったな。大きくなるにつれて母も自分と同じ1人の人間であることを知っていくのだ。

9.『あのこは貴族』山内マリコ

友人との会話の端に滲む若干の毒気だったり、好きな人の笑い声に混じる微かな軽蔑のニュアンスだったり、そうした微妙な表現の巧みさに唸った。私は本書に登場する華子と美紀と同世代の女性である。
帰省すると父からは「他家に嫁いだ人」と言われ、祖母からは「嫁ぎ先で今苦労していると後々糧になるよ」と”助言”される。そうした言葉を聞くたびに、生まれた時代が違うから分かり合えなくても仕方がないと諦め半分で聞き流し、自分の考えを主張しなくなったのはいつからだろう。「女同士を分断する価値観みたいなものが、あまりにも普通にまかり通って」いることはどうしたら止められるのだろう。

10.『紙の動物園』ケン・リュウ

昔ぬいぐるみでひとり遊びをしていたとき、そのぬいぐるみが何を考えているのかわかったし、どのように一緒に遊びたがっているのかもわかっていた。それは単に子どもがゆえに感受性が強かっただけかもしれないが、何か大きな力が作用していたのではないかとも思うのだ。その力のエネルギーは多分親からの愛で、その多大なエネルギーを子どもは一心に受け取って、ぬいぐるみに同じ愛情を投影できていたのかもしれない。『紙の動物園』を読んでそんなことを思った。
ケンリュウさんにしか描けない物語が立ち並んでおり、第二弾以降の短編集も読みたい。

11.『あなたのための短歌集』木下龍也

「あなた」のための短歌だけど、あなた以外の私にもとても響き、涙を流させる。余白いっぱいの紙に書かれた31音から成る言葉で感情を動かせるって不思議だ。
犬に関する歌は落涙必至。温かい短歌だけでなく、急に冷たい金属を頬に当てられるようなちょっとゾワッとするものや、スパイス多めの歌もあり、バラエティに富んでいる。何度でも、大事に大事に読んでいこう。

12.『ブラームスはお好き』フランソワーズ・サガン

「寂しい幸福感」「寂しげな喜び」「深く優しい倦怠感」「美しい苦しみ」など、一見相反する言葉が、サガンの紡ぐ文章の中では自然としっとりと結びついていくから不思議だ。耳馴染みのない言葉に出会い、高揚した。サガンの言葉に対する鋭敏さに度肝を抜かれ、登場人物の気持ちをできる限り最も近い言葉で的確に表現しようとする真摯な姿勢に感嘆した。こういう体験が読書をやめられない理由の一つになっているのだろう。
第十七章でロジェが落としても壊れない灰皿を見て「自分は不幸だ」と白状するくだりのたった1ページがなぜだろう、たまらなく好きだ。

13.『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック

この時代特有の残虐さや、だだっ広い乾いた土地、汗の染み込んだ服がありありと見えてくる。スタインベックの筆致はカリフォルニアの土地によく合っているのだろう。
渡り鳥のような労働者たちは土地を持つことを渇望していて、持つ者と持たざる者の圧倒的な差を見せつけられる。人の温もりや人種差別、体の負傷など、みんな不足した何かを補えないまま、少しの夢を見て労働に勤しむ。
読み終わった後は、喉が渇いて息苦しいような気持ちになった。現実は冷淡で苦しいけれど、一握りの夢を支えに生きている人たちの逞しさに胸打たれた。

14.『女のいない男たち』村上春樹

いつ切れるかもわからない細い糸でつながっている男女の関係。それは不倫関係であるかもしれないし、はたまた満ち足りた夫婦生活であるかもしれない。ぷつりと切られたが最後、残された方は宙ぶらりんに世界を漂う。亡くなった人や何も言わずに姿を消した人の真相を知る手立てはない。残された側は傷つきたくない防御反応から感情に蓋をしてしまいそうになるが、傷ついていること、あなたがいなくて悲しいことを認めることから傷の手当ては始まっていくのだと思った。
多くを語られないのが良かった。余韻がいつまでも残っている。

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