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2024年上半期の好きな本まとめ

もう2024年が半分過ぎた。今回に限っては早く過ぎ去ってほしかった。下半期にお腹の中で生きている子に対面できるから。これから本を読む時間も考える時間もどんどんなくなっていくだろう。それでも私にとって物語はなくてはならないものだから、なんとか摂取しようとするだろう。

今後どんな本を自分が手に取るのか、取らなくなるのか、自分の変化にも注目しつつ、今年上半期に読んで良かった本を振り返ろう。


『夜が暗いとはかぎらない』寺地 はるな

読んで良かったという気持ちで溢れた。心の処方箋になった。

人の優しさがだれかの元気につながって、それがリレーのように循環していって、社会って温かいものなんだよなっ感じられた。

「行ってらっしゃい」「気ぃつけてな」
これらの言葉のありがたみを知らずに私は大人になった。言われることが当たり前だったから。

「おかえり」「はよ帰ってきいや」
人が生きるためには、そんな言葉があるだけでいいんだ。

人が元気をもらったり勇気をもらったりする言葉は、推しのライブやアスリートの輝かしい成績とか遠い存在の物語じゃなくて、同じ街の隣の人の優しい気づかいで明日も生きようって思えたりするものなんだ。

どんどん人の輪が広がっていくから、これは前に出てきたあの人だっけ? とページを行きつ戻りつしながら読むのも楽しかった。

『デッドエンドの思い出』よしもと ばなな

ばななさんの短編集。

『幽霊の家』-好きな人に出会った時の、互いにこの人なんだろうと思う確信、二人を包む光を見ると、心がぎゅんとなる。心ときめかないと思っていた人、でも落ち着くしっとりとした空気に馴染む老夫婦のような関係が好き。

まさに本作では幽霊となった老夫婦が出てくる。彼らの生活の営みの美しさを見て、若い二人は気が付いたのだろう。これこそが幸福な生活であると。

『おかあさーん!』-愛情に無頓着でいられることは幸せなことなんだと、当たり前のように愛情を受け取ってきた私は気づく。じんわりと温かい、適温の愛が心に流れてくるような物語だった。

『デッドエンドの思い出』-ピンチなところを助けられたら好きになってしまう展開は少女漫画のあるあるだ。でも本書は、付き合うような展開にならないのがとても好ましかった。

心を救ってくれた人を恋愛感情で好きになったり付き合ったりするとは限らない。ただ、私を復活させてくれた温かな思い出として、救われた心を大切に思い出の中に閉じ込めるためにもう会わないという選択もある。

多分、このピンチを助けてくれた人を好きになるシチュエーションというのは、その人自身のことが好きなのではなくて、その人との日々がとてつもなく愛おしいものなのだろう。

最高の物語だった。

『小さいコトが気になります』益田 ミリ

ほのぼのとした日常の中に、ふっと命の儚さとか人生の虚無感が顔をだす益田ミリさんの本は、やっぱり大好きだな。かわいい絵と優しい文章でオブラートに包んで、人生の核心をつく感じがたまらなく好き。

夜更かししてGoogleストリートビューで旅をしたり、駅ナカの土産物店をぐるぐる回ったり、そんな日常がそれ以上でもなく、それ以下でもなく、人生なんだとしみじみ感じた。

『勝手にふるえてろ』綿谷 リサ

私は青臭いまま大人になったから、本書の主人公キヨカの、イチとニ(と順位で呼ばれている男性二人)に対する気持ちを本当の意味では理解できない。

愛しているけど、決して私を愛することはないイチ。
好きじゃないけど、私のことを好きでいてくれるニ。

絶滅危惧種について語り合えるような深いところで似ているイチ。
自分の話ばかりして私をあまり知ろうとしないニ。

ニの気持ちに応えることは、妥協でも同情でもなく、自分の愛ではなく他人の愛を信じるという挑戦。他人の愛を信じてみたら、その先に今までとは違う愛のかたちが生まれるのだろうか。

とにかく表現がとても鋭利でぶっ刺さった。

『泣くな研修医』中山 佑次郎

新社会人になったばかりの自分もそうだったように、医者も最初は手探りでわからない中なんとか頑張っているんだ! ま、そりゃそうだよな。なぜ医者だけが最初から立派だと思っていたんだろう。

主人公の研修医、隆治は小さな気遣いができて少し気弱で心の優しい人。「すみません」を多用していて、ちょっと心配になるほどだけど、患者のことを一心に考える人だ。それは子どもの頃の経験から来ていたのだった。

それにしても、外科医カンファレンスの先生たちの素っ気ない物言いが怖い。私だって冷たい質問しか飛んでこなかったら、プレゼンのレーザーポインターが小刻みに震えてしまうわ。

『きいろいゾウ』西 加奈子

「静かな感情だった、でも、着実な愛情だった」ムコさんがツマを想う気持ち。

二人と、二人を囲むカンユ、アレチさん、セイカさん、コソク、メガデスたちとの日々はのんびりとささやかで、優しさに満ちているのに、ムコさんもツマも、互いが互いを失ったらどうしようと心の底では怯えているようだ。

ムコさんが東京に行き、鳥の絵を描いていた女性とその夫と話をするシーン、ツマが女の人の幽霊に導かれ、雨の中墓にたどり着くシーンが交互に描かれるところは、鬼気迫るものがあった。

西さんの小説は本当に熱量がものすごい。命を削りながら私たちに伝えようとしてくれているよう。
今ともにいるときを、その人がそばにいる奇跡を見逃すな、失うことを怯えるなと。


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