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”タオル”って何て言うんだろう

スペインのセビリアにある小さなアパートにやっと辿り着いた時はもうすでに夕方だった。

中国を出て、次はどこに行こうかな、と考えた時になぜだかスペインに決めてしまい職を見つけたのがセビリアだったのだが、引っ越しのバタバタとビザやらなんやらの手続きでなんの下調べも準備もせずにスペインにやってきた。

その時のお話はここから↓

必要なものは現地で揃えればいいや、と軽い気持ちだったのだが、1月のセビリアは私が思い描いていたような”南国の”冬ではなく(なぜだか鹿児島みたいな気候だろうと思っていた)駅からタクシーを待つ間に足先がジンジン痺れるほどに冷たくなった。ピラっとしたスプリングジャケットしか着ていない私はマフラーさえ持っておらずもう一刻も早くアパートに着きたかった、そしてあったかいお風呂に入りたかった。

アパートには先人がいた。同じ学校で働くカロリナというカナダ人の彼女は私の1時間ほど前に到着したばかりで荷物をほどき始めていた。といってもお互いスーツケースひとつだけでの移動で、お互いセビリアの冬を甘く見ていて冬の出立ちはしていなかった。

”カロリナ、私は寒いからとりあえずお風呂に入るよ”と彼女に告げると、衝撃の事実が発覚した。

タオルが用意されていない・・・・。アパートを手配してくれた女性はタオルもベッドリネンもあるから自分のものだけ持ってこい、と言っていたのにどこを探してもバスタオルはおろかキッチンタオルさえない。

困った私たちは近所でタオルを買うことにしようと外に出た。

もう夕方6時を回っており、電気がついているのはバルくらいしかない。こんなところに日用品を扱う店があるのかどうかもわからなかったが、二人で大きな通りまで出てみる。

道すがらお互いのこれまでの短い人生を振り返る自己紹介をした。似たような境遇で似たようなテキトーさで、似たようにスペイン語がカタコトである。

寒い中をぶらぶら歩くと遠くに電気が点いている商店が見える、人が出たり入ったりするのも見えるので開いているのがわかる。近くまで来るとキャビネットやら鍋やらも見えるのでここにタオルがある確率は高いぞ!と二人で顔を見合わせて大笑いした。

やったーーー!!!タオルが買える!お風呂に入れる!

意気揚々と足早に向かう私たちだが、二人ともふと我に返った。

”タオルって、スペイン語でなんて言うんだろう・・・・”

今の時代は携帯の翻訳機能があるし、どこにでもwifiは飛んでいるので苦労なく答え合わせが出来るだろうが、つい15年ほど前のスペインではwifi は限られたカフェなどにしかなく携帯もシンプルだった。もちろん電子辞書などは持っていない。お互いスペイン語をちょろっと習ったことがあったがあいさつや動詞の変化を覚えるばかりでタオルという単語を知らなかった。

”店の中に入ってタオルがあれば指差せばいいよ”

そうだね、とやや不安ながら店に入ったが小さな店内を見渡せどタオルが見当たらない。あちこちうろうろしながら、もうタオルは手に入らないのだ、と愕然とした。

レジまで行ってみよう、英語が話せる人かもしれないし・・・・ そう期待して店の奥のレジへと進むと私の顔はパァッと明るくなった。店主とその奥さんも私の顔を見てパァッと笑顔を見せた。

”あなた、中国人?” 奥さんの方が私に向かって中国語で聞いた。方言ではなく普通語の中国語だった。

”いいえ、日本人です、さっきセビリアについたばかりなんです”と中国語で返すと彼らはニコニコして ”ようこそセビリアへ!” と大きく頭を振った。

カロリナは訳がわからずキョロキョロしていたが、私の心の中では勝利のベルが大きく鳴り響いていた

”有毛巾吗? タオルはありますか?”

"有、有、有 あるよ!”


中国が嫌で嫌でスペインに来た私のスペイン第一日目は中国語と中国人に助けられた日だった。

お風呂にゆっくり浸かりながら、人生学んだことに無駄無し! としみじみ感じた夜だった。

シマフィー 

カロリナとの思い出はこちら


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