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全部先生のせい

時々ぶったまげることを父兄の方に言われる。

学校の先生は教えるだけではない、という記事を書いたけれど(↓ここでーす)

それ以上の何かを ”当たり前” に要求されていることが色んな会話の中でわかる。

ありがたいことに私がこれまで担当してきた生徒の親御さんは、教師を全力でサポートしてくれ、あれやれ、これしろ、あそこが悪い などと指図をすることはほとんどなく、いわゆる ”ヘリコプターペアレンツ”(日本のモンペのようなもの)に遭遇することもない。それでも10年に一度くらいはちょっと次元の違う要求に驚くことがある。

4年前に担当したTくんはあまり勉強が得意ではなく、興味もなく、更には努力をするのも好きではなかった。先生にもクラスメートにも横柄な態度で、何をするにも文句をつけ、自分の思い通りにならないとむくれる子だった。

当時9年生の歴史を担当していた私は、最初の授業の時に ”この子はどうしちゃったんだろう” とちょっと混乱するほど、Tくんは全く授業に関心をしめさず、ぼんやりしたり、絵を描いたり、腕の毛をむしったりしていた。2日目にTくんを呼び止めて聞いてみた。

Tくん、黒板が見えないとか先生の声がよく聞こえないとか、読んでいる記事の文字が見えにくい、とかある?

そんな質問をしながらどんな理由で集中できないかを聞き出そうとした。その前にはスクールカウンセラーのところに寄って、学習障害がないかを聞いたが何もなかった。

Tくんの答えは明瞭簡潔だった。

先生、僕は学校に来たくないんだ。家にいて丸一日ゲームをして過ごしたい。授業中も頭の中でゲームをしてるんだ。そっちの方が面白いから。学校なんかバカバカしくてやってらんないよ。時間の無駄だね。

・・・・なるほど。

だけど授業についていけないと9年生を落第になっちゃうから、ちょっとずつでもやろう!放課後のスタディーグループに来たらもう一度同じところを説明するよ!

そんな私の誘いを彼は へっ と笑い、”別に高校出てなくても金持ちになる人はたくさんいるからね” とまるで金持ちになるレールに乗っているような答えをくれた。

授業中はノートも取らず、作文もテストも適当で、宿題もやってこない・・・補習にも来ないし、助けようとする先生たちを馬鹿にするような発言もする。

こりゃ困ったなぁ、と思っていると、2週間目が終わる頃にTくんの親御さんから ”やって欲しいことリスト” がずらっと箇条書きにされたメールが届いた。

授業中にゲームのことを考える時間を与えるな

どの教科も絶対に不合格点を取らせるな

宿題を忘れないよう何度も電話やメールをしろ

ランチの時間はちゃんと野菜を1カップ食べさせろ

良い友達を作らせろ(メールには ”与えろ” と書いてあった)

アジア人同士(Tくんは中国系のアメリカ人)のよしみで ”特別な” 扱いをしろ・贔屓しろ

機嫌が悪いなら配慮して質問や課題を無理にさせるな

・・・そんなリストを は? は? と言いながら読み進めると、最後はこんな風に締めてあった。

Tが落第したり、怠け者になったり、肥満になったり、勉強を好きにならなかったり、大学に行けなかったり、将来お金持ちにならなかったら、それは全部先生のせいです。先生の怠慢のせいで我が息子の将来が潰されたら、その時は学校と先生を訴えます。


私はどの学生にも公平に点数をつけ、公平に補習を行い、公平に合格・不合格を出したいし、Tくんだけについて回ってちゃんと真っ当に育っているかをチェックすることは出来ない。携帯で何時間遊んでいるか、友達と外で遊んでいるか、帰ったら手を洗っているか、ちゃんと毎日違うシャツを着て来るか、シャワーを浴び歯磨きをしているか、などをチェックすることもない。

親じゃないからね。

教師が持つたくさんの顔の中で、決定的にないのは ”親” という顔だ。親代わり、や お母さんみたい な役回りはあるけれども、親ではない。

私はこの親御さんのメールにあった 訴えます という一言を ”脅迫” と取り、理事会に相談した。

次の週からTくんは学校に来なかった。

今の所 Tくんが高校を卒業してお金持ちになったという噂は聞いていない。

シマフィー 


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