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イケメンラオワイと知らん人の結婚式

中国の大都市で働いていた時にボーイフレンドと郊外にあるリゾートホテルに週末だけのプチバーケーションに出かけたことがあった。
出来たばかりのホテルには美しい中庭や大きなプールもあり、ロビーもレストランもピカピカで私たちはチェックインする時にホテルの厚意でアップグレードしてもらい、なんと生まれて初めてスイートルームに宿泊した。

まぁ、厚意というかハメられたというか・・・ホテルがアップグレードと引き換えにお願いして来たのは、ボーイフレンドに広告のモデルになってほしいという事だった。
ドイツ人の彼は絵に描いたような ラオワイ(老外・ガイジンの意)の容貌そのままの長身金髪碧眼のイケメンで広告にはうってつけだった。幸い彼はメディアに顔を出すことが大好きだったので、もうこれはwin-winの取引だった。

イケメンラオワイの効果はすごい。部屋にはシャンパンやらキャンディやら果物やらが届けられ、レストランもルームサービスも無料になった。
私たちはただ都会を離れて静かにゆっくり過ごそうと思っていたのにチェックインと同時に予定は大きく変わった。至れり尽くせりで、多分私たちが中国滞在中に一番ちやほやされた3日間だったと思う。

しかしながら、のんびりするためにやって来たのに、滞在の間にリラックスは出来る時間はほとんどない。
散歩に出るとカメラマンが着いてくる。ブランコで、花壇で、池のほとりで写真を撮り(彼一人です笑)あっちを見ろ、これを持てとうるさい。
ディナーでは私の替え玉(美人の中国人モデル)も現れ、彼の向かい(私の席)に座りワインで乾杯をするところをビデオに撮られる。
バーに座れば、またカメラマンが出て来て、やれバーテンの真似をしろだのそこに座ってビールを飲めだのグラスを磨けだの、注文が入る。
後々に思ったのは、このホテルの広告はレストランにも、バーにも、庭にも、プールにも同じ外国人がにっこりとしている写真しかないだろう・・・ま、でもそんなことは彼らにとってはどうでもいいのだ。ここはイケメンの外国人も来るイケてるホテルですよ、という宣伝なので、いいのだ。

最初の2日間はこんな風にゆっくり出来ないままの週末だった。

そしてようやくカメラマンから解放された最終日。外でコーヒーを飲んでいる私たちに見知らぬ人たちが寄って来た。
朝早くから着飾った人たちが庭で写真を撮っていたので 結婚式があるんだねぇ と見ていたのだが、彼らもイケメンラオワイを見逃しはしなかった。
若い新郎の友人が流暢な英語で私たちに
“彼らのいい記念になりますから結婚式に参加してください”
とお願いしに来た。
いい記念て・・・私たちがいなくても結婚式なんだからいい記念だろうに。

もうここまで来たらゆっくりしようなんて気も無くなっていたのでやぶれかぶれで参加することにした。
知らん人の結婚式(教会の様な建物)と披露宴(ホテルの大広間)どちらも私たちは最前列に座らされ、ボーイフレンドは新郎新婦の10年来の大親友か命の恩人の様に肩を抱かれ、間に挟まれ、手を握りあい、ニッコリ微笑むという写真を山ほど撮られた。
あげくの果てには司会者から
“本日はドイツと日本からお客様がいらしています!拍手をどうぞ!”
と本日の主役そっちのけで紹介され、立ち上がり皇族の様にゆらゆらと手を振るというこっぱずかしいこともやらされた。
知らん人なのに、私たちはそこにたまたまいたラオワイという理由で、カラオケを歌わされ、踊りに加わり、お酒を飲まされ、皆さんの写真に笑顔で収まり、はては引き出物の大きなお土産を一つずつ頂き、結婚式を後にした。

この知らん人の結婚式が、私が中国で出席した唯一の結婚式だった。

疲れ果て、披露宴から出てくる私たちを目撃したホテルマネージャーがニヤニヤしながら寄って来て、あと1日泊まらせてあげるので明日は結婚式の写真を撮らないかと持ちかけて来た。神父と新婦と衣装はすぐ用意できる、と言った。

私たちは ”考えてみます” と言いながら部屋に引っ込み、朝早くチェックアウトし、それ以来このリゾートホテルには行かなかった。

シマフィー

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