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渋滞で恋に落ちたお兄ちゃん

毎朝の渋滞は苦痛でしかない。普通は40分しかかからない道を2時間近くかけて、時には2時間半もかかって、学校に通っている(*アメリカの高校で教師をしています)。

そんなに時間があるのだから、と何年か前に ”Books on tape”(本を朗読してあるもの)を試してみたが全く頭に入ってこなかった。一番最初の3ページくらい分を20回くらい繰り返してこれは自分にむいていないと悟ってやめた。後はラジオのニュースを聞いたりしたが気が滅入る情報も多いのでそれもやめた。

現在はアルフィーばかり聴いている。まぁ、好きで好きでたまらないので何度でも繰り返し聴きたいのと、なんせ47年も活動しているので今だにちゃんと聴いたことがない曲がたくさんあるからが理由だ。毎日往復アルフィーざんまいでキツい通勤もせめてちょっと気分良くしたい。

今朝のフリーウェイは全く動かなかった。同じ場所に10分はじっとしていたと思う。こんなに動かないのはずっと先で事故があったのだろうと経験からわかる。蒸し蒸ししていたので窓を半分開けて音楽を聴いていたのだが、隣に並んだ車の助手席の窓が下まで開き、若いお兄さんが私に向かって HEY!  と大きく叫んだ。

ボリュームが大きすぎたのだと思い、私はとっさに左手を振り、Sorry!   と音量のボタンをぎゅーっと下げた。と、身を乗り出した運転席のお兄ちゃんが笑顔で

What are you listening? (何聴いてるの?) と尋ねる。

私はもう10年も同じ道の渋滞に毎朝毎朝はまっているが、これが初めての "隣の車から声をかけられる” という経験だった。そんなわけでちょっとビックリしてしまい、あれ?音が大きいから文句を言ってるんじゃないのかな? と一瞬考えた。

助手席の彼が Hahaha, we killed our music to listen to yours! (俺らの音楽を消して君の曲を聴いてたんだ)と笑ってくれて、あぁやっぱり私が何を聴いているかを尋ねたんだ、とはっきりした。

The ALFEE, it's a Japanese band! と答えた私に

Holy shit, it's Japanese? We thought it was European! (え、日本なの?ヨーロッパのバンドかと思った)と目と口を大げさに大きく開き驚いて見せた。

How do you spell that? (スペルは?)と運転席の彼が聞き、私が A・L・F・E・E と教えると携帯の画面をこちらに向け、

Which one? (どれ?)とアルバムのページを見せる。

It's ”ALFEE GET REQUESTS,” not 2, the first one (アルフィーゲッツリクエスト、2じゃなくて最初の)

と答えるや曲が流れてきた。

”孤独の美学”

お兄ちゃん二人はにっこりと笑って

Now, you can listen to OUR music! (じゃ今度は君が俺らの音楽聴いていいよ)とボリュームを上げたので、私は自分のカーステレオを完全にオフにした。

2曲目の ”星空のディスタンス” のイントロコーラスが終わりイントロの ジャジャジャーーーン が始まると助手席のお兄ちゃんが両手で胸をバン!と抑える様なジェスチャーをして

I'M ・IN ・LOVE! (恋に落ちた!)

と一つづつの単語を強調しながら訴えた。

*もちろん彼が恋に落ちたのは私ではなく、アルフィーです。

まだ "星空のディスタンス" が途中だったけれど、左車線にいた彼らの列がゆっくりと動き出し、かっこいいバンドを教えてくれてありがと!バイバイ、サンキュー と手を振って黒いスポーツカーは前方に進んだ。

私の方の車線は全然ビクともしない。”星空のディスタンス” をもう一回かけて嘘みたいな、夢みたいな、ちょっと自分でも信じられない、さっきのことを何度も反芻した。今頃ドキドキしてきて、ニヤニヤが止まらなかった。

大好きなアルフィーが見知らぬアメリカ人のお兄ちゃん二人に気に入られたのが嬉しくてたまらなくて、涙まで出てきた。

毎朝うんざりの渋滞。10年にたった一度、今日は渋滞のおかげで夢の様な出来事に出会えた。あと10年、頑張れる気がしてきた!

私の勝負曲: 星空のディスタンス、37年前も今日も最高にかっこいい一曲です!

シマフィー 

*アルフィーさんは公式のYoutubeチャンネルがありませんのでファンの方がアップしている映像です。

Spotifyがあるかたはこちらから!どれも名曲です。


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