見出し画像

留学生が落ちた穴、あっちとこっち

私が教える小さな田舎の私立校にも留学生が来ている(*アメリカ東で歴史を教えています)。

6−7年前に留学生の数が一気に増えた時期があった。その大半は中国、ブラジル、ロシアのBRICS(インドからはいなかった)の経済発展が著しい国からだった。この子達の親御さんはどんなご職業なのか知らないけれどとにかくお金持ちで、プライベートジェットやリムジンでやってくる生徒もいた。

彼らのほとんどは高校を卒業してアメリカの大学に進学するというプランのもとにやってくる。彼ら自身がそう決めたのか、親が決めてしまったのか、そのどちらでも一応の目標とプレッシャーを抱えてやってきていた。

そのほとんど全ての子供たちの目標はIVYリーグで、志望校を聞くとハーバード、イェール、プリンストン、もしくは他のランク上位にあるMITなどの名門校や人気校のバークレー、スタンフォード、NYUを挙げる。彼らは真剣だ。親も真剣だ。そしてそれを聞きながら、私たち教師は ”困ったぞ” と思う。

”アメリカに住む・アメリカの学校に通う”、を”英語を早く習得できる・英語が即座に流暢になる” とイコールで結び、”英語が出来るようになればアメリカの大学にもいける”と信じているからだ。そして彼らにとっての”アメリカの大学”とは先に挙げた名門校しかない。

残念ながら住んでいるだけ・授業を受けるだけ、では英語が上達しないのでESL(我が校ではENL=English as a New Language と呼んでいる)のクラスで読み書き会話を頑張らねばいけないのだが、自分のアカデミック英語の実力がよくわかっていない生徒とその親は彼らがESLで語学に集中するのを嫌う。まるで英語の勉強が無駄で無意味なものであるかのように

もうESLはしなくていいので物理のアドバンスクラスに入れてくれ

とこちらがドン引きするようなお願いをする。

いやいや、あなたの息子さん(9年生)のリーディングスキルはやっと4年生に届いたところです

と事実とデータをもとに”もうちょっとESLで頑張って、基礎スキルをあげてから”と断るのだが、必ず私たちが怒られる。

英会話(social English)と学習英語(academic English)の違いは果てしなく大きい。レストランでスラスラと注文できても、友達ときゃあきゃあ恋バナできても、ESLの文法テストで100点取っても、留学生にとっては現地の”普通の”授業にたくさんのチャレンジが出てくる。

時間を三倍かけて解決できるチャレンジもあれば、誰かにつきっきりで手伝ってもらってやっとどうにかなるチャレンジもある。もちろんどんなチャレンジでもそのプロセスと結果は受け取り側によっては大きなプラスになるが、15歳の子供だと不満や理不尽さや悔しさやイライラなどのその場だけの感情で終わってしまうこともある。

ある年に受け入れた11年生のN君もそんな子だった。親も彼も名門大学に進む以外の目標はなく、彼は英語を頑張っていたけれどなかなかスキルが伸びずにイライラしていた。本国では賢い子だったのだろう、アメリカ人の友人たちが英語が母国語というだけで自分が取れない授業をとっていたのが気に食わない、と言っていた。ENLにいることも恥だと思っているようだった。

1、2学期をENLで過ごし、彼は3学期には念願の”普通”のクラスに加わった。

その矢先、彼の文学の論文にPlagiarism (盗用) があったと職員会議で話題になった。すると歴史の先生も彼の宿題の英語がまるで大学院生が書くような語彙を使っていると言い、全教科の宿題を調べることになった。教員が総出で彼が授業中に書いた作文と今回問題になった論文や宿題を照らし合わせて調べたのだが、どうみても宿題は彼が書いたものとは思えなかった。

彼も交えた会議の結果、どの宿題も彼がやったものではないことが発覚した。提出された宿題は彼ではなく、雇われた”宿題屋”がやったものだった。お金を払えば宿題をしてくれる人が見つかるのだ。

急ぎすぎて、自分のスキルを伸ばすのではなく、お金で解決してしまったN君はそのまま退学になった。

名門校に行きたい・行け、のプレッシャーで時々子供たちは落ちてはいけない穴に落ちる。英語が伸びない、SATが合格点に届かない、GPAが上がらない、それは本人にとっては今すぐ解決したい問題だが、時間と努力を必要とする。そして近道をしようとして深い穴に落ちてしまう。

N君はその後近辺の私立校に転校したのだが、そこでも宿題屋を雇い退学になったと彼の友人から聞いた。彼は穴から抜け出せなかったのだな、と悲しくなった。

しばらくして、彼が私立の人気校に合格し晴れて大学生になったと、同じ友人が教えてくれた。

お母さんが5ミリオンドル寄付したんだって


嘘か本当か知らないが、今度はこちらが穴に落ちた気分だった。

シマフィー 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?