2分の勝負
毎日最後の授業の最後の2分がM君の勝負どきだ。
ベルが鳴り、みんなが続々に”See you tomorrow"と教室を出ていく中、彼は一番最後にバックパックを背負い私の元にそろりそろりと近づいてくる。(*アメリカの私立高校で教師をしています)
ニコニコと笑顔を見せ、マスクの下の口元も大きく笑っているのがわかる。
”先生、口の中がちょっと気持ち悪いくらい苦いんだ”
何か薬でも飲んだ後なのかと思い、”先生ロリポップ持ってるからあげようか?” と聞くと大きくうんうんと頷き、バスケットの中にあるいろんなフレーバーの飴を見せると吟味しながらふたつ手に取った。
それが最初の勝負だった。
M君はそれ以来いろんな理由を見つけたり作ったりでっち上げたりして、毎日最後の2分に勝負をかける。ロリポップが貰えるのか、貰えないのか、の真剣勝負だ。4時近くの放課後にひとつでもふたつでも甘いものが欲しいのだろう。別に普通に”先生、ひとつ頂戴”と言えばあげるのに、彼は一生懸命に言い訳を考えているのでそれをきちんと聞いてからあげるようにしている。
ランチでも水が飲めなくて喉がからからなんだ
数学のテストが難しくて歯を食いしばってたんだ
Sちゃんの大きな荷物を持ってあげたから疲れたんだ
スイートなことを先生に言ったから(髪型がかわいいと言われた)スイートなお返しが欲しい
Fくんにハッピーバースデーを歌ってあげたので喉が壊れた
昼に食べたみかんがちょっと腐ってたんだ
外は風が冷たいので魔法の薬がいる
バスで隣に座るG君に自慢したい
今日はどんな理由でロリポップが欲しいのだろう、と毎日わくわくしている。私の1日いちばん最後の楽しい2分勝負。
シマフィー
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