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Google vs 司書軍団ナレッジネットワーク

父親になってから、特に娘が3歳くらいになって言語コミュニケーションをとれるようになると、自分が小さな頃に母親に読んでもらった絵本を読んであげたくて手に入れては子供達に読み聞かせ、小さなころを思い出す母と子の追体験をしていた。

ぐりとぐらシリーズとか、ばばばあちゃんのいそがしいよるとか、おしいれのぼうけんとか、3じのおちゃにきてくださいとか、三びきのヤギのがらがらどんとか、おおきなかぶとか、有名なものばかり、とにかく思い出したものは片っ端からアマゾンで取り寄せては娘たちに紹介した。

ただ、一冊だけどうしても思い出せない絵本があった。
この絵本は、正確には母親が枕元で夜読んでくれたものではなく、保育園でお昼寝の前にみんなの前で先生が読んでくれた本だった。

物語の細かい部分は忘れてしまっていたのだけど、とにかく深い森の中を何人かのちいさな子供たちが冒険をする物語だった。このファンタジーの虜になってしまったぼくは、保育園の絵本販売で買って欲しいとお迎えにきてくれた母に懇願したのだけど、母はその絵本は家にあるから帰ったら読んであげるよと言って買ってもらえなかった。

結局、その絵本は僕の家にはなかった。

残念がる僕をなだめながらきっとそのうち忘れてしまうだろうと思っていたのだろうから、母親も特にそのことには触れずに、案の定そんな絵本のことなんかすっかり忘れてしまって僕は大人になって、結婚して、そしてお父さんになった。

娘たちに読み聞かせたい絵本シリーズについてあれこれと小さな頃の記憶を掘り起こしていた頃、森の中の冒険のファンタジーのことをふと思い出したのである。なんだったかなと。そう考えると、娘たちのためはもちろんのこと、自分がもう読みたくて読みたくて仕方なくなってしまった。あの時のワクワクが止まらない感じ。

母に読んでもらった自分の持っていた本ならタイトルまでしっかりと覚えているから、なんなくアマゾンで検索可能なんだけど、これはそう簡単にはいかない。

グーグルで「絵本 森 冒険」で検索してもお目当ての本はみつからない。この時のぼくは、森と冒険という以外、この本にまつわるキーワードを選び出せないでいた。せいぜい、冒険を探検にするくらいで、何度検索してもお目当の本は出て来ず、「もりのなか」という有名な絵本が引っかかる。それ以上の情報はほとんどと言っていいほど得られなかった。その後も何度かチャレンジしてみたけど、結果は同じ。もう、娘たちに読んであげることをほとんど諦め掛けていて、そのまま何年かたってしまった。

さて、夏のある日、ぼくは図書館にいた。岩手県の紫波町図書館。地域の再生事例で全国的にも有名なまちの、小さな図書館だ。イベントが行われていたその日、図書館では「あなたのお探しの本を見つけます」という町民へのサービスが行われていた。仲良くしていただいている司書の手塚さんにご挨拶をしながら、ぼくはすぐにアノ本のことを思い出していた。

「どうしても見つけられない絵本があるんです。」これまでの経緯をざっと簡単に説明すると、手塚さんは、「わかりました。やってみましょう。」と半信半疑の僕に向かってペンとメモ用紙を手にとりながら、にこにこしながら言った。

さっそくいくつかの質問を投げかけてきた。その最初の質問に衝撃を受けた。「いつ、何歳のときに読んでもらいましたか?」

「たしかあれは5歳でした。いや6歳かも。」この時点でぼくの探している絵本は、1982年より前に出版されたものであることをまず突き止めた。約30年間に出版された絵本を検索対象から外したのだ。
質問は続く。

「どんな大きさの本でしたか?」
「どんな色の表紙でしたか?」
「物語の流れは?」
「どんな登場人物でしたか?」

タイトルに出てきそうなキーワードはまったく質問されない。代わりに外観と中身と時代で絵本の特徴的な情報をメモに残しながら、絞り込んでいく。

質問が終わると、すこしお時間をください。と言って手塚さんはどこかに行ってしまった。

30分くらいたって、メッセージが届いた。

「嶋田さん、お探しの本見つけました。」

僕はいそいで図書館に戻ると手塚さんはまたしてもにこにこしながら教えてくれた。「もりのこびとたち」っていう本だと思います。残念ながらこの図書館にはありません。僕はすぐにアマゾンで検索し、中身の絵も見た。たしかにこの本だ。間違いない。ずっと会いたかった子どの頃の夢のファンタジーに出会えたドキドキする高揚感を抑えられなかった。

「若い司書さんが知っていました。緑色の絵の感じと赤い帽子をかぶった子供達っていう登場人物が決め手でした。」得意そうに教えてくれた。

まさかである。僕はきっと一生かかっても絶対にgoogleでは見つけられなかったと思う。いくつかのキーワードだけで検索できる便利さはそのキーワードの執着するとサーチの可能性を著しく低下させてしまう。

一方検索対象の特徴から絞り込み、数人の知識をつなぎ合わせて一瞬で目当の本を探し当てる司書さんのナレッジネットワーク。

人間のナレッジネットワークって本当にすごいなぁと思った。知の体系と知の取り扱い方と掘り方。まだまだテクノロジーだけでは僕たちの欲求は満たしてくれない、生身の専門集団の人間の介在の必要を感じた出来事だった。

で、僕は早速アマゾンで取り寄せて、この一連の出来事を母と父にと奥さんに伝えて、子供達にこの本を読んであげた。いまさんは喜んでくれた。

あのときの記憶が蘇る。
森のファンタジー。森のなかのステキな一日をしっかりと追体験したのだった。

手塚さん、そして紫波町図書館のみなさま。
ありがごうございました。

素敵な絵本なのでみなさんも是非読んでみてください。

もりのこびとたち (世界傑作絵本シリーズ―スウェーデンの絵本) https://www.amazon.co.jp/dp/483400841X/ref=cm_sw_r_cp_api_i_yVmwCbGFSKPD1




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