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サステナブルな社会を実現したいからこそ「サステナブル」という言葉は使わない/大山貴子さん(株式会社fog 代表)


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論
 第12回目の授業は、株式会社fog 代表の大山貴子さんの講義でした。


大山貴子さんについて

株式会社fog 代表
1987年仙台生まれ。米ボストンサフォーク大にてエルサルバドルでのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2015年に帰国。 日本における食の安全や環境面での取組みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードロスを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。人間中心ではなく、人間が自然の一部として暮らす循環型社会の実現を、プロセス設計、持続可能な食、行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ開発などから行う。

https://www.huffingtonpost.jp/author/takako-oyama


本質を捉える力


大山さんのお話で印象に残ったのは、島根県雲南市でのプロジェクトについて。雲南市は外部から見ると、チャレンジングな試みが多く、地域おこしとして、うまくいっている街でした。

しかし実情は、外部から来た人が企画を進め、上手に発信しているというものでした。昔から住んでいる地域の人と外部から来た人は分断されており、地域の人々は「外部の人が勝手に何かをしている」「自分たちは受け入れ難い」と気持ちが離れている状態でした。

この状態を変えるために大山さんは、地域の人と外部の人を繋ぐ方法を考えます。結果的に打ち手として、「地域の方との対話マニュアル」というものを作成されました。
対話やコミュニケーションの積み重ねにより、関係が構築されることを考えると重要なポイントですよね。「相手を思いやるコミュニケーションを常に意識する」「相手の嫌がることを言わない」というのは一見コミュニケーション上手な人だけができることに思えます。こういった暗黙知化されたものを誰もが実行可能な形式に落とし込めたのは、大山さんの観察眼と言語化力、抽象的なものを具象に落とし込む力があるからこそだと思いました。
また、一つの考え方として、地域の人との円滑なコミュニケーションを寡占することも可能です。「大山さんだけが地域の方とコミュニケーションを上手に取れる→1人だけ頼りにされる→それを自己の価値として提供する→対価をもらう」という方法だってあります。でも、大山さんはそれをしない。仕組み化しないと、本質的な前進にはならないから。ここに本気で地域を社会を良くするんだ、という心意気を感じました。



「サステナブル」という言葉を使う危険性


4つ全てが私の中にも刻み込みたいことであったため、ここに記しておきます。

- 多角的に対象を見る:自分が見えている、認識している情報や範囲が全てではない。常に新しい情報、その裏にある真理、背景を意識する。
- 境界線を曖昧にする:境界線を引くこと、カテゴライズすることで自分自身や対象をきめ、行動を制限させる。役割や立ち位置などを曖昧にさせることで、稼働範囲を広げている。揺らぎの精神。
- 脱サステナブル:特に環境問題に関しては、この言葉が先行した結果、それによって本当に目指すべきゴールと相反する行動やサービスが多い。本当のゴールは何か?を見据えて実践していく。
- 巻き込むために甘える・依存する:さまざまな人を置いてけぼりにしない。1人で突っ走ると自分の中での精度は上がるが、周りには理解されなくなる・頼る・甘えることで、仲間を作ることで、共感共視の輪を作る。(1人でやると裸の王様になる可能性がある)


全てに共感しますし、私も体現していきたいのですが、特に気づきをいただいたのは「脱サステナブル」という言葉です。初めにこの言葉を見たとき、大山さんの取り組みはどう見たって「サステナブル」を実現するためのものなのに「なぜ???」と思いました。

大山さんの説明はこのようなものでした。
日本でも知名度が上がっている、サステナブルなシューズとして「Allbirds」というブランドがあります。このブランドは確かに、サステナブルを意識して生産されています。「しかし日本人がこれを輸入し、履くことは本当にサステナブルなのでしょうか?」
このブランドは海外製であるため、日本まで石油を使いながら運送されてきます。ここまで考えると、「日本人がAllbirdsを選択することは本当にサステナブルなのでしょうか?」という意味がわかってきます。 本質的に「サステナブル」を実現しようとすると、多角的に考える必要があります。しかし私たちは、「この商品は”サステナブル”ですよ」とお墨付きをもらうと、その言葉に安心してしまう。何も疑わなくなってしまうのです。こういった理由から、安易に「サステナブル」という言葉を使うことに大山さんは警鐘を鳴らされます。



この話を聞いて、大山さんの思考体力というか、本質を捉えるために考え続ける点を心から尊敬しました。

少し話が逸れるのですが・・・
私自身が立ち上げた事業について、最近、「私にできるのかな?」「自分が描く方向性に進んでいいのかな?」と悩むことがあります。

ただ、大山さんの話を聞き、事業やある分野を切り拓き率いる人というのは、スキルセットが重要なのではなく、その分野に対する思いが強く、誰よりも思考と試行を繰り返している人がやるのがベストなんだろうな、と勝手に腹落ちしました。だから私も取り組んでいる分野について、周囲の誰よりも思考と試行を繰り返しているという自負があるうちは、自分を信じて進んでいきたいと思いました。(もちろん奢ることなく、自分の視野の限界を認識して、周囲に耳を傾けるという前提を持ちながら!)

大山さんのお話から、リーダーとしてのあり方も学ばせていただきました。

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