高校生の扶養控除の縮小と児童手当の拡大~誰にどんな影響があるのか~
はじめに
こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
与党(自民党、公明党)が高校生のいる家庭に児童手当を出す代わりに、扶養控除を縮小することを検討しているようです。
これは2024年12月から児童手当の対象が従来の中学生から高校生までに拡大されることを見越しての見直しだそうです。
ただ、この見直しにはいくつか問題点が。
扶養控除と児童手当は会社員、フリーランス関係なく適用がある制度なので、今のうちに制度の内容と、どういう影響があるのか、ということを知っておきましょう。
扶養控除とは?
扶養控除の効果
扶養控除は所得控除の一種です。
最初に、所得税や住民税の計算方式をざっくり説明すると。
・各種所得ー所得控除=所得金額
・所得金額×税率=税額
という構造になっています。
ですので、扶養控除をはじめとする所得控除が増えれば所得金額は減り、税金を減らすことできます。
扶養控除の目的
扶養控除とは、配偶者以外の親族(厳密な範囲は説明省略します)を養っている人に配慮して創設された制度です。
つまり、誰かを養っている=扶養している人が生活をしていくためにはある程度の所得は必要なので、その最低限必要な所得には税金をかけないようにすることが目的です。
扶養控除対象の範囲
扶養控除の対象はその年12月31日現在の年齢が16歳以上の親族です。
なので、高校生は対象ですが、高校生だけが対象というわけではありません。
また、扶養親族は扶養されている前提なので、稼ぎすぎていたら扶養控除の対象にはなりません。
給与収入(額面)のみの場合は、収入が103万円以下の親族が対象になります。
児童手当とは?
児童手当は対象の子どもがいる家庭に現金を給付する制度です。
支給金額は
・子どもの年齢
・子供の人数
・親の所得
によってバラバラですが、毎月子ども1人当たり5,000円~15,000円が支給されます。
親の所得が高すぎると支給がゼロになりますが、今後この所得制限はなくなる予定です。
対象となる子どもは中学生まで。
つまり、親は児童手当の支給が終わったら、扶養控除を使えるようになる、という順番になっています。
扶養控除と児童手当の比較
扶養控除との違いは、扶養控除は税金計算ルールの一部分であるのに対して、児童手当は別の政策的な現金給付支援だということです。
ここで考えたいのは、所得税の計算は累進税率になっている、ということです。
つまり、所得が増えれば、その増えた部分に課される税率はどんどん高くなっていきます。
で、先ほど紹介した計算式、
・各種所得ー所得控除=課税所得
・課税所得×税率(※累進税率)=税額
を踏まえると、所得控除は高い税率が課される所得を減らすので、高所得者のほうがメリットを受けることができます。
この点、昨今人件費もインフレ(モノ・サービスの値段は上がり、お金の価値は減る)の波が徐々に来ています。
つまり、賃上げが実現すると所得が増えるので、その分扶養控除の効果が大きくなるということです。
反対に、現金給付である児童手当は、インフレになっても支給額が変わらなければ、どんどんその児童手当の価値は落ちていきます。
今まで15,000円の児童手当で、15,000円の買い物ができていたのに、その商品が16,000円になったら既存の児童手当で買うことはできません。
要するに、賃金上昇にともなって税金の減少幅が増えるのが扶養控除であり、賃金が上昇しても一定の支援になるのが児童手当、ということになります。
与党案の問題点
与党が進めているされる、この高校生の扶養控除縮小・児童手当拡大には、いくつか問題点があると考えています。
プラスの支援になっていない
まず、子育て世帯への支援が増える前提になっていない、という点です。
いま、政府は「異次元の少子化対策」を掲げていますが、扶養控除縮小・児童手当拡大というプラスマイナスゼロの見直しになってしまっています。
もっと言えば、最新の議論では扶養控除の縮小が家計負担の増加にならないように縮小幅を調整することを検討しているようなので、「家計を支援する」見直しとはいえません。
この見直し以外で「異次元の少子化対策」が準備されていればいいのですが、現在のところその動きは見当たりませんし。
高所得者ほど不利になる可能性がある
先ほど解説したとおり、扶養控除は高い税率が課される所得を減らすので、高所得者のほうがメリットを受けることができます。
なので、反対に扶養控除が縮小されれば、高所得者ほど扶養控除のメリットは減り、税金が増える可能性があります。
政府はこれを防ごうと扶養控除の縮小幅を検討しているようですが、高所得者も家族構成や事業形態がバラバラなので、完全に・公平に防ぐことは難しいでしょう。
これは賃金アップの政策と矛盾しているのではないでしょうか。
実行コストが増える
たとえば、扶養控除の縮小幅を年収別に分けた場合は、年収を考慮して扶養控除の金額を決定しなければいけません。
これを年末調整や確定申告でわざわざやる必要があります。
年末調整の紙をみていただくと分かると思いますが、現時点で一般の方にはかなり難易度の高い書類になっているかと思います。
また、児童手当を新たに高校生に支給するとなった場合も、行政側の手間はかかりますし、振込手数料も必要になるでしょう。
官民どちらも”おいしくない”見直しにならないか危惧しているところです。
まとめ
今回は、与党が進めている高校生の扶養控除の縮小・児童手当拡大について解説してきました。
まだ詳細な部分は分かりませんが、2023年12月中旬に発表される与党税制改正大綱で明らかになるはずなので、その際に追って解説していきたいと思います。
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