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人材育成の修羅場★ラ★バンバ~地方公務員の場合~


民間企業の人材育成の話題、特に将来リーダーとなる人材の育成において必要だと言われるのが「修羅場経験」です。

一定の経験を積んで成長の実感が本人も周囲も感じにくくなった中堅社員が、その経験の結果、再び成長の階段をのぼることになるような経験

神戸大学の金井壽宏先生は「一皮むけた経験」と呼んで、以下のような経験がマネジャーの成長を促す経験だという調査をまとめています。

・初期の仕事経験
・人事異動にともなう不慣れな仕事
・はじめての管理職
・海外勤務経験
・ゼロからスタートした経験
・事業の立て直し、立ち上げ
・ビジネス上の失敗、キャリア上の挫折、難易度の高い職務、過重な職務
・幅広いビジネスの管理
・上司から学んだ経験
・できない部下、扱いにくい上司
「職場が生きる人が育つ「経験学習」入門/松尾睦著/ダイヤモンド社)


また、立教大学の中原淳先生は、著書「働く大人のための『学び』の教科書」の中で「タフアサインメント」という言葉で、

・仕事をするなかで、時に、前例のないタフな仕事に挑戦することが、ビジネスパーソンにとって最も大きな学びの機会である。
自分の能力ギリギリのところで全うできるような、タフな仕事。会社が伸びていく方向に貢献するようなタフな仕事こそが、仕事のなかでの成長の源泉である。
「働く大人のための『学び』の教科書」/中原淳著/かんき出版)

このように書いています。


専門的なお立場では、両者は異なるテーマなのかもしれませんが、素人の私が目をうすーく細めて遠くから眺めれば、それは「仕事での経験をつうじて学び、成長する機会のデザイン」という同じテーマについて示唆しているように思えます。


さて、それでは。

私たち公務員、特に私と同じような地方公務員の場合、「修羅場経験」「一皮むける経験」「タフアサインメント」、呼び方はどれでも結構ですが、このような「前例のないタフな仕事」「自分の能力ギリギリのところで全うできるような、タフな仕事」は、どこで経験できるのでしょうか。

そしてそのような経験を、誰がどのような意図をもって、どのような職員にもたらすことになるのでしょうか。


まずどこでこのような仕事を経験できるのかについて。

最初に思いつくのが、重要なプロジェクトや危機対応の業務へのアサインです。首長肝いりのプロジェクトや今般の新型コロナウイルス関連の対応業務などは、金井先生の「一皮むけた経験」の要素の中でも「初期の仕事経験」「人事異動にともなう不慣れな仕事」「ゼロからスタートした経験」「事業の立て直し、立ち上げ」「難易度の高い職務」「過重な職務」など多くの要素が当てはまりますし、中原先生の「タフアサインメント」の記載はほぼ丸ごと当てはまります。

私の経歴で言えば、八都県市首脳会議(現:九都県市首脳会議)の部会の事務局で他の都県・政令市の担当者との調整に奔走した経験(入職3~4年目)や、首長肝いりの官民連携の電気自動車のプロジェクトの立ち上げのために様々な企画の立案・実現のために自動車メーカーや省庁、地域・庁内の関係者と仕事をした経験(入職5~9年目)、そして、今年の夏(入職15年目)に新型コロナウイルスの影響で実施することになった特別定額給付金のチームに合流したのも、上述した、修羅場経験の要素が当てはまりタフアサインメントの記載とも合致します。


もう一つこのような経験を地方公務員が得られるのが、中央省庁への実務研修派遣や出向です。「一皮むけた経験」のリストから「人事異動にともなう不慣れな仕事」「難易度の高い職務」「過重な職務」「上司から学んだ経験」などは当てはまりますし、中原先生の「タフアサインメント」についても「自分の能力ギリギリのところで全うできるような、タフな仕事」という記載は当てはまりそうです。

私は内閣府/内閣官房に実務研修で2年間(入職10~11年目)派遣されていましたが、上記の要素はいずれも当てはまりましたし、地方創生というキーワードが生まれたその瞬間にその担当部署(地方創生推進室)にいましたので、「ゼロからスタートした経験」「事業の立て直し、立ち上げ」や「会社が伸びていく方向に貢献するようなタフな仕事」というのも経験することができたように思います。(これは本当に幸運でした)


では、このような経験を、誰がどのような意図をもって、どのような職員にもたらすことになるのでしょうか。上述した2つのパターンに分けて考えてみます。


◆重要なプロジェクトや危機対応の業務へのアサインの場合

「誰が」・・・通常は人事や上司のような環境からもたらされますが、(結果的に)自分自身でもたらす場合があります。自分自身でもたらす場合というのは、新しいプロジェクトを自分で立ち上げてしまう場合です。(以下2つの項目は通常の環境由来を想定してお伝えしています)

「どのような意図をもって」・・・一般的には、そのプロジェクトや危機対応の業務がしっかりと進捗し、成果をあげられることを第一に考えて、人選しアサインしているはずです。

「どのような職員に」・・・これは前項とセットだと思いますが、実際にそこでしっかりと求められた働きができる職員を選定するはずです。定額給付金の場合は、システムに強いメンバーや元ケースワーカー、税などの経験者がいました。持っているスキル×これまでの経験が大きく影響してそうです。さらにそこには要素として心身のタフネスも含まれるでしょう。


◆中央省庁への実務研修派遣や出向

「誰が」・・・ほぼ人事によってもたらされます。上司や幹部の意向が働くこともあるようですが、いずれにしてもブラックボックスです。

「どのような意図をもって」・・・限られた枠に対して、人事が人選をして送り出すことを考えると、そこには人事的な期待があると思って間違いないでしょう。それは派遣される職員本人の成長であり、その成長による組織への貢献、さらには将来的に組織を引っ張るようなリーダー人材になることを期待しているケースもあるようです。

「どのような職員に」・・・これも前項とセットですが、派遣して帰任した後には組織に貢献してくれると思われている人材であり、実際に派遣先でちゃんと実務をこなせる能力があり、心身ともにタフであるような職員だと思われます。あくまで人事目線であることは、重要なポイントです。


ここまで書いて、私自身は若い頃から多くの時間をタフアサインメントに身を投じていることに気付かされます。そのことに対しては、感謝しています。(誰にありがとうと言えばいいのか分かりませんが・・・人事かな?)

と、同時に、私自身はもう中堅の中でも随分上の世代になりましたので、より多くの若手にこのような機会がもたらされることを願っています。本当にその機会のたびに、自分を成長させてくれるとても貴重な経験だから。


但し、そこに身を投じるためには、「あなたにお願いしたい」という職員になる必要があります。これは頼りになる職員に、(結果的に)さらなる成長の機会を与えることになり、ある意味「富める者がますます富む」構造になっています。

とはいえ、1000人の役所で1~2人しか選出されない中央省庁派遣のような狭き門じゃなくても、それぞれの職場で、それぞれの職員に見合ったタフアサインメントを設定することは可能です。

そこに職員のことをよく見ていて、ちょうどいい業務をパッケージ化できる上司がいれば理想的ですが、重要なプロジェクトや危機対応の業務へのアサインの「誰が」のところでも書いたように、自分の手でその機会をつくることも不可能ではありません。ただ、多くの管理職もそうではない職員も、単純にこの記事でご紹介したような修羅場経験やタフアサインメントという考え方を知らないので、それを自分たちでつくり、マネジメントするという発想のしようがないのです。

このような概念の存在を知っていさえいれば、書籍などで勉強することもできますし、人事に選ばれるのを待たずに部下に成長の機会をもたらしたり自分の手で成長の機会をつくることもできると思うんですよね。


ちなみに、昨年、私が兼務辞令を受けて特別定額給付金チームのタコ部屋生活をしていた4か月間、元の所属では主査(私)が1名減でチームのみんなは大変だったはずです。そんな状況でも、1人の後輩が私に代わって多くの作業で主担当を引き受け、しっかり事業を進めていてくれました。4か月後に私が帰任して、もっとも驚いたのが彼の成長です。

恐らく彼にとっては、私が突然いなくなり自分が主担当を務めなくてはいけなくなった期間が、修羅場経験でありタフアサインメントになったのでしょう。その裏で、私自身も定額給付金の業務でタフアサインメントを経験していたので、2人同時に成長した夏となりました。


皆さんは、これまでにどんな修羅場経験・タフアサインメントを経験してこられたでしょうか。
それを組織の中で上手に人材育成に活かすことができているでしょうか。



《参考図書》


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